幽霊登場!
雨露はしのげる。
でも、寝床の床はただの地面の上に、持っていた布一枚敷いただけ。
ごつごつしているし、硬いしで、寝心地いい訳ない。
今までも、寝心地のいい夜なんて無かったけど、これは今までの中でも最悪。
眠りにつけず目を開けてみると、月と星の明かりが岩窟の入り口付近に陣取っている現ちゃんと荘ちゃん二人の影を浮かび上がらせている。
剣の腕に、妖力まで持っているとあっては、最強の男たちに囲まれている訳で、安心、安心。
そんな事を思いながら、岩窟の奥側に寝返りを打った。
げっ!
一番奥に寝たつもりだったのに、誰かがいる。
目を凝らして確かめてみると、小柄なサイズから言って、村雨くんらしい。
竹光の刀を抱きかかえるような姿。
そう言えば、村雨くんは刀を肌身離さず持っている。
なんで?
持った重さで、竹光と見破られるのを避けるため?
納得の私。
そんな事より、ちょっと距離が近すぎ。
村雨くんの手が伸びてきたら、また胸を揉まれそう。
間をとろうと起き上がって、場所を移動しようとした時、立っている人の気配を感じて、その人に目を向けた。
誰?
目を凝らして見てみる。
その背景には月と星の明かり。
何か変な気が?
変なところは、その人の体を透かして、背後の光景が見える事。
なにこれ?
ホログラム通信かな?
脳裏に浮かぶ最悪の答えを避けたくて、そんな発想で手を伸ばしてみる。
私の右手の手のひらの上に浮かぶ、男の人のホログラム。
そうそう。
間違いなく、ホログラム通信。
さ、通信もさっさと終えて、寝よ、寝よ。
そんな思いで、闇に浮かぶ男の姿に背を向けて、布団を頭からかぶり、寝ようとした。
でも、布団みたいなものは無いんだった。
怖い現実から逃げる術がなく、体が震えてしまう。
すがるとしたら、村雨くん??
村雨くんは脳みそが腐っているとしか思えない発言はするけど、嫌いと言う訳じゃない。もちろん、恋愛感情も持っていないけど。
やっぱ、ここは村雨くん!
「む、む、む、村雨くん!」
村雨くんの体を揺さぶりながら、声をかけると、村雨くんはむくりと起き上がった。
「何ですか?
夜這いですか?」
「だ、だ、誰がですか。
誰か立っていない?」
「やっぱり夜這いなんじゃないですか。
私のは今、立ちました」
「はい?
じゃなくて、そんなもの立っていてもなくてもいいんだけど。
ほら、そこよ」
後ろを振り返らずに、さっき男が立っていた辺りを指さした。
「確かに」
そう言うと、村雨くんは立ち上がり、刀に手をかけた。
頼もしい!
いえ、竹光だった。
いえいえ、それ以前に刀じゃ切れないよ!!
あれが何だか、気づいていないの?
チャッ!
村雨くんが刀を少しだけ抜いた。
ど、ど、どうするのよ?
ホログラムは切れないよ!
「これは?
幻術ではないようですね」
村雨くんが言った。
「幻でもないけど、人でもないよね?」
「私は赤岩一角と申す者」
私の言葉に答えるかのように、岩窟の中に響くような声が聞こえた。
村雨くんは立ったまま、じっとしている。
もしかして、幽霊と知って固まっている?
それでも、一人でいるよりましなので、そそくさと膝立ちで歩いて、村雨くんのところに辿りつくと、村雨くんの腰の辺りに手を回してしがみついた。顔を村雨くんのお腹の辺りにうずめる様にして。
これで赤岩と名乗ったホログラム、いえ幽霊の姿は見なくていい。
ちょっと匂うけど、幽霊を見るよりかはまし。
村雨くんが私の後頭部を包むように、自分の両手をあてがった。
なに?
頭を守ってくれているの?
そんな事を考えている内に、再び岩窟の中に再び声が響いた。
「あの化け猫の血の匂いがする。
誰かあの化け猫を殺ったのか?」
この幽霊は、今日出会った化け猫の血の匂いに誘われてやって来たらしかった。
幻術?
じゃないようです。村雨くんによると。
とすると、やっぱ幽霊??




