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猫バスもやってくる?

 緊急事態を知らせる男の悲鳴。

 信乃ちゃんたちの顔色が変わった。



「村雨殿。

 姫の警護を頼みましたぞ」



 そう言い残すと、信乃ちゃんたちは部屋を飛び出して行った。



「行った方がよくないですか?」



 信乃ちゃんたちがいなくなった部屋で、村雨くんが言う。



「なんでかな?」

「分からないんですか?」



 冷たい言い方。心の中で、あんた、ばかぁ? と思っていそう。

 村雨くんの言いたい事はよく分からない。でも、分からないと言うのは癪。

 とりあえず、私も立って、信乃ちゃんたちの後を追った。

 


 私がたどり着いた時、月明かりが照らし出す縁側の板の上で、馬加が倒れていた。

 広がる赤い血が馬加の傷が深い事を示している。


 馬加の家臣たちとにらみ合っているのは旦開野で、手に脇差のような短い刀を構えていて、信乃ちゃんたちはその間に割って入っていた。



「どけ!」



 馬加の家臣が刃先を信乃ちゃんたちに向けながら、怒鳴った。

 状況は分からないけど、主が殺されたとあっては家臣たちの怒りが収まらないのは当然な気がする。



「事情が分かるまで、刀はおさめてもらいたい」



 信乃ちゃんの言う事ももっとも。

 私としては、旦開野は八犬士の一人と言う可能性があるので、ここで斬りあいが始まって、旦開野にもしもの事があると困るし、信乃ちゃんも言葉の裏にもそれがあるはず。



「何しているんですか?」



 振り返ると、村雨くんが冷たい視線を向けていた。



「斬りあいになる前に、確かめておいた方がよくないですか?

 そのために来たんだと思っていましたけど」



 やっぱ、あんた、ばかぁ? と思っていそう。

 脳みそ腐っている子にそんな風に思われるなんて……。

 その悲しさと悔しさはぐっと心の奥に隠して、言い返してみる。



「今、言おうとしてたんだけどね」



 恥ずかしい。

 でも、今の言葉で信乃ちゃんたちは視線を私に向けて、決め台詞を言うのを待っている。

 引き下がれない。


 深呼吸を一つして、旦開野に視線を向けた。

 旦開野は今がこの場を離れるチャンスと思っているのか、少しずつ後ずさりしている。



「お手!」

「ワン!」



 旦開野が駆け寄って来て、差し出している私の右手に自分の右手を置いた。

 その瞬間、周囲の気温が一気に下がったのを感じた。


 寒っ!



「姫。私は犬坂毛野いぬさかけのと申します。

 この命と氷の力、姫のために捧げまする」



 やっぱ男だった。そして、名前に犬が付いていた。

 あとはこの場を何とか収めればいい。



「そこの人たちなんだけど」



 視線を馬加の家臣たちに向けて言った。

 刃先を信乃ちゃんたちに向けたまま、視線だけ私に向けた。



「大人しく刀をおさめて引き下がってくれないかな」

「ふざけるな」

「だよねぇ。

 その気持ち分からない訳じゃないんだけど、人を殺すのって嫌なんだよねぇ」



 そこまで言ってから、新しく仲間になった毛野ちゃんに視線を戻した。



「あの人たちの刀を凍らしてくれるかな」

「承りました」



 旦開野、改め毛野ちゃんは私の右手の上に置いていた自分の手を馬加の家臣たちに向けた。

 その瞬間、馬加の家臣たちの刀は刃先から柄まですべてが凍り付き始めた。


 馬加の家臣たちは、刀を持つ手が柄を介して凍り始めそうになり、慌てて刀の柄から手を離した。


 がしゃりと言う音を立てて、床に刀が落ちた。



「その刀を持って、大人しく引き上げてくれないかな?

 それと、今ので分かったと思うんだけど、私たちに付きまとうと、命の保証はしないからね」



 毛野ちゃんの妖力の脅し効果は抜群だった。

 馬加の家臣たちは凍った刀を怯えながら、拾い上げると逃げ出すように去って行った。



 

 これで八犬士は六人。

 あと仲間にしなければならない八犬士は二人。



 そんな一人を求めて、今度は山越え。

 山越えの道は当然舗装なんてされていなくて、でこぼこの細い上り坂。

 舗装された坂を上るよりも足が疲れてしまう。


 辺りは木々に覆われた単調な光景がずっと続いているだけじゃなくて、先の光景もよく分からず、あとどれくらい歩けばいいのかも分からない。

 その事が疲れを倍増させている気がする。


 そんな風に疲れているのは私だけで、信乃ちゃんたちは疲れてはいないと思うんだけど、私語も話さず黙々と歩いている。


 私の耳に届くのは、地面を踏みしめる足音と、時折聞こえる鳥たちの鳴き声だけ。

 単調な世界。


 それを打ち破ったのは一匹の猫。

 キジトラが私たちの前を横切って行った。



「猫ちゃんだぁ」



 単調さに飽き飽きしていたところに猫ちゃん登場で、思わずそんな声を上げた。

 でも、猫ちゃんは私たちにお構いなく、どこかへと姿を消して、二度と目の前には現れなかった。


 盛り上がった私の気分は再びげんなり。



「はぁぁぁ。バスでもあればいいんだけどなぁ」



 そう思った時、少し離れた先に丸い物が目に入った。



「バス停だ」



 その懐かしい形状のものに、思わず声を上げた。


 七○山行。稲荷○。


 どこかで見たバス停の名前。


 猫バスもやって来る?

評価入れて下さり、ありがとうございました。

次回はなぜだか猫バス登場です。

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