エロい村雨くんは大人??
霧の中で全滅した扇谷の巨田助友率いる敵兵たち。
この戦いに勝った農民たちを率いていた犬山道節はやはり八犬士の一人だった。
目は小さめだと言うのに、四角く大きな顔で、がっしりした体格。肉体的にも強そうだと言うのに、炎と言うこれまた攻撃力が強い妖力を持っていた。
道節ちゃんと呼ぶことにした犬山道節が籠っていた砦。
送り込んだ軍勢が全滅したと知った扇谷が再び軍勢を差し向けるとしたら、それはこの砦だろう。
これ以上、農民たちを巻き込むわけにはいかない。
そんな思いで、農民たちはそれぞれの家に帰した。
一方、私たちは別の八犬士がこちらに近づいてきている事を感じていたと言うのもあって、扇谷の出方を見極めるまでここに残る事にした。
そんなある日、馬加大記と言う者が訪ねて来た。
千葉自胤と言う者の重臣らしく、私たちを家臣に迎えたいと言ってきた。
当然、断ったけど、なぜだか居座っている。
そして通りすがり田楽師たちまでやって来て、今日は馬加はその田楽踊りを楽しんでいる。
その中に旦開野と言う女田楽師がいる。
ぱっちりした目に、通った鼻筋、小さい口。そして、白い肌。
女の私から見ても、そのかわいさは胸にキュンとしたものを感じずにいられない。
この砦にこの田楽師たちを迎え入れた馬加はきっと、この旦開野目当てに違いない。
空には月が輝き、星々が煌めく、静かな夜を背景に、鼓や笛の音が聞こえてきている。
私が元の世界で聞いていた好きな音楽とは全く違うけど、目を閉じてじっくりと聞いていれば、心落ち着くかも知れない。
でも、今の私は気がかりな事があって、落ち着かない。
こちらに近づいてきていた新しい八犬士。
その一人が田楽師たちの中にいると感じていた。
その八犬士こそ、きれいな女田楽師 旦開野。
なんで? 八犬士は男だと聞いていたのに。
訳ありで女装中? WOR○ING!!!の小鳥遊くんみたいな??
この時代にもオネェ??
それとも、私の感覚が間違えている?
なんだか、こう胸の中がすっきりしない。
「どうしたんですか?」
浮かない顔を見せてしまっていたのか、村雨くんが聞いてきた。
「胸の中がもやもやして、すっきりしたいのにすっきりできないのよね」
「そうですか。
私が力になれればいいのですが、私では力不足ですよね。
私ではよくないって事でしたし。
他の誰かの柔らかい胸で練習を重ねて、よかったよって言ってもらえるようになりますね」
「はい?
何の事?」
「えっ?
だから、胸の中がむらむらして、すっきりしないんですよね?
私がもっと上手でしたら、ぜひともお相手させていただいて、胸だけじゃなく最後まで逝かせて、すっきりさせてあげるんですけど」
「えぇーっと、誰もそんな話してないと思うんだけどなぁ。
私が言ったのは、むらむらじゃなくて、もやもやなんだよね」
「もやもやでしたか。
ついつい、私がむらむらしていましたので、そんな想像をしてしまいました。
あの柔らかさ、忘れられませんし」
「君、やっぱ、脳みそ腐ってるよね」
そう言って、私は目を村雨くんから背けた。
部屋にいた信乃ちゃんたちは、居眠りを装っている。きっと、聞いてはいけない男女の痴話げんかと思っていそうで、怖い。
「で、もやもやは何なんですか?」
「八犬士は男なんだよね?
私的には旦開野って、女田楽師が八犬士に感じるんだけど」
「八犬士は男ですね。
でも、そう感じるのなら、あの人が男なんじゃないですか?」
「どうやって調べるのよ」
「そんなの簡単じゃないですか」
「まさか、胸を揉んで調べるなんて言うんじゃないよね?」
村雨くんの発言レベルに合わせると、これが村雨くんの考えのはず。
「そんな発想をするなんて、やはり胸がムラムラして、揉んでほしいんですか?
決め台詞を言って確かめたらいいだけだと思うのに」
エロい村雨くんに私の方が好き者みたいな言い方をされてしまった。
ちょっと、ムッとした口調で返してみる。
「外れてたら、どうするのかな?」
「外れてたら、何も起こらない。
それだけじゃないんですか?」
「もし違ったら、恥ずかしくない?
突然、見知らぬ人にお手! なんて言って」
「恥ずかしいからやらないんですか?
恥ずかしくても、やってみる事の方が大事じゃないですか?」
またまた村雨くんに圧され気味な気がして仕方ない。
エロい妄想する村雨くんより、私の方が子供なの?
はっ!
エロい発想するんだから、村雨くんの方が大人なのかも。
そう一人納得し、年下の子供に言い負かされた事から目をそらそうとした時、事件は起きた。
「ぎゃあー」
醜い男の悲鳴が夜の闇に響いた。
扇谷の軍勢と対峙していた砦に入った村雨くんたち。
扇谷の軍勢を倒した者は分からないまま、滞在を続ける内に新たな事件??




