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殺戮、再び

 突然の霧に視界を奪われてしまい、信乃ちゃんたちの戦況が分からない。

 しかも、荘ちゃんの風の妖力で霧を吹き飛ばそうとしても、霧は晴れない。


 これでは霧が晴れるのを待つしかない?

 それはいつ?



「荘ちゃん。

 何か手は無いのかな?」

「私の風ではこの霧は吹き飛ばす事ができないようです」

「霧って、風で流れるんじゃないの?」

「だと思うんですが」



 やきもきする時間は長く感じてしまう。

 短い時間を長く感じてしまっているのか、本当に長いのかも分からない。


 そうだ!

 頼りになりそうでならない。でも、頼りになりなさそうでも、役に立つこともある村雨くんがいた。



「村雨くん、何か手はないかな?」



 返事が無い。

 聞いてない?


 それとも荘ちゃんの風で飛ばされたのか? んな事はないか。



「村雨くん、聞いていないのかな?」

「村雨殿。無事ですか?」



 返事が無い村雨くんの事を心配して、荘ちゃんも村雨くんに声をかけた。



「村雨くん?」

「村雨殿」



 返事が無い。


 やっぱいない?

 こんな霧の中、どこに行ったの?


 意地悪したり、いじめたい時もあるけど、心配になってしまう。



「村雨くん?」

「は、は、はい」



 どもり気味の声。村雨くんだ。



「何度も呼んだのに、どうして返事しなかったのよ」

「すみません。

 聞いてませんでした」



 きっぱり言ってのけた。


 人の声を聞いていなかったって言うの?

 ちょっとムッとした時、辺りを包んでいた霧は流れ去り、視界を取り戻すことができた。



「何でしょうか?」



 霧が晴れてしまえば、村雨くんを呼んだ理由は無い。

 返事しなかったお返しで、村雨くんを無視して、戦場に目を向ける。


 霧が薄らぎ、はっきりとしてくる戦場の光景。



「うぉぉぉぉ!」



 砦から巨大な喚声が上がった。

 砦の人たちの方が、私より先に反応した。


 砦の前の辺り一面に広がるのは扇谷の兵たちの死体。

 敵は全滅している。

 しかも、辺り一面真っ赤に染まっているところから言って、雷撃なんかじゃなくて、斬殺っぽい。


 現ちゃんを助っ人に加えた盗賊たちが三層の建物の所で、信乃ちゃんに襲い掛かって来た時の惨劇が重なる。


 どちらも短時間に多くの人々を斬殺した。


 地面に転がる盗賊に刀を突き刺し、にやりとした笑みを浮かべる村雨くんの横顔が脳裏によみがえって来た。


 でも、村雨くんは竹光だし、そうでなかったとしても、ここからあの戦場に行って、霧の中、敵全員を瞬殺して戻ってくるなんて事はできっこない。


 あの時の村雨くんは、私の不安な気持ちが作り上げた幻に違いない。


 今度の殺戮も村雨くんな訳はない。

 もう一度、頭を振って、脳裏に浮かぶ不安と狂気を纏った村雨くんの横顔を振り落す。



「誰がやったのかな?」



 村雨くんも、文ちゃんも、荘ちゃんも思い当たる答えが無いらしく、黙り込んでいる。



「とにかく、犬塚殿の所に行きませんか?

 何か知っているかも知れません」

「だね」



 その可能性はある。

 一度は消し去ったはずの村雨くん殺人鬼説。それを完全に消し去るヒントを持っているんじゃないかと、私は信乃ちゃんたちに期待した。


 でも、信乃ちゃんたちも霧に包まれ、何も分からなかったらしい。

 どうしても、そのまま引き下がれない。

 村雨くんの事が引っかかってしまっている

 もう一度、村雨くんがやったと言う不安を消し去るための根拠が欲しかった。



「例えば、信乃ちゃんが一人で攻撃をかけたとして、勝てる?」



 私の言葉に信乃ちゃんが目を点にした。

 村雨くんじゃないけど、あんたばかぁ? と、思っているかも。



「は、は、はははは。

 雷撃で、ですかな?」

「そう言えば、雷撃、不調だったんですか?」

「面目ありません。

 なぜだか、不発する事が多くて」

「疲れていたとか、そんなところかも知れないですね」



 なんて言って、励ましてはみたけれど、ちょっと心配。

 使える回数に制限があるとか、使うたびに何かポイントが減って、戻るまで使えないとか??


 でも、今は村雨くんの事の方に集中したい。



「雷撃ではなくて、剣ならどうですか」

「あれだけの軍勢を相手に、単身、剣でですか?」



 頷いて返す。



「それは無理すぎますね。

 ひとたまりもなく、斬り殺されてしまいますね」

「それは村雨くんでもだめかな?」



 信乃ちゃんは自信ありげに頷いて見せた。



「やっぱ、そうですよね」



 そう。やっぱ、村雨くん、殺人鬼説はあり得ない。


 安心すると、ちょっと嬉しくなって、にこりとした笑みを信乃ちゃんに返した。

謎の霧の中、敵兵たちは斬殺されてしまいました。

何が起きたのかは、誰にも分からないようです。

あ、分かっている人いました。やった張本人は全て知っていますね。

でも、それは誰?? 村雨くん??

怪しさいっぱいの村雨くん。これからも、よろしくお願いします。

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