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信乃ちゃん、不調??

 扇谷の軍勢に対して犬山道節たちが対峙しているのは広い平野に造られたしょぼい砦。

 信乃ちゃんたちはすでにその砦の中に入っているはず。


 一方の私たちは、犬山たちが籠っている砦が見える少し小高い丘の上に来ていた。


 人数的には犬山たちの方が多く、相手の扇谷の軍勢はまだ集結中らしい。

 集結中の軍勢が最終的に、どのくらいの規模になるのかは分からないけど、扇谷は言わば正規軍。

 数は少なくても、勝てるに違いない。


 そう。信乃ちゃんたちがいなければ。

 でも、今は違う。


 信乃ちゃんたちが加わっている以上、数は問題じゃない。

 戦いは時間を要することなく、信乃ちゃんたちの勝ちで終わるはず。


 でも、そんな事はあの砦の中の人たちは知らない。

 耳をすませば聞こえてくるざわめきは、砦の中に籠る人たちの側だけから。

 きっと、どんどん数を増やしてきている扇谷の軍勢に対し、心の奥底に怯えがあるからに違いない。


 一方の扇谷の軍勢は静まり返っている。きっと、余裕で構えているに違いない。

 信乃ちゃんたちがいなければ、戦いが始まる前から結果は見えている気がする。

 


「いつ始まるのかな?」



 目の前で繰り広げられるのは戦。

 つまり、人と人が傷つけ、殺し合う。

 だと言うのに、ついつい早く始まって、早く終わってほしいなんて、不覚にも思ってしまった。


 盗賊や悪人たちと違い、これは戦。

 どちらにも正義があって、どちらにも敵は悪と言う理由がある訳で、決して断罪されるべき人たちじゃない。


 遠目で見ていると言うだけで、そんな事も忘れてしまっていた。

 口にした自分の言葉が嫌になる。でも、取り消せるものでもない。

 文ちゃんが私の言葉に答える。



「扇谷の側は軍勢の集結を待つ気でしょう。

 でも、犬山殿の側はその前に攻めかかるでしょう」

「そっかぁ」



 そう言い終えて、しばらくした時だった。

 文ちゃんの言葉通り、犬山の側に動きがあった。


 砦から一人の男が出て来た。

 遠すぎて、誰だか分からないけど、考えられるのは犬山か信乃ちゃんのどちらかのはず。


 戦が始まる?


 始まってしまえば、勝ってもらわなければならない。


 行っけぇぇぇ!

 気合を込めながら、神経をこれから目の前で起きる事に集中させる。


 扇谷の軍勢の上に暗雲が沸き起こった。


 信乃ちゃんの雷撃。

 雷鳴が轟き、閃光が走り、扇谷の軍勢を雷が襲った。


 落雷があった周辺の兵が一瞬にして倒れ、兵たちに動揺が走っているのが、遠目にも感じ取れる。


 砦の側から喚声が沸き起こった。



「慌てるなぁ!」

「敵の攻撃ではない。

 ただの雷じゃぁ」



 扇谷の陣から、微かに届けられる声はそんな感じに聞こえる。


 いえいえ。あれは信乃ちゃんの攻撃ですよ。

 そう思いながら、戦況を確かめる。


 里見の城で戦った時、圧倒的な攻撃を信乃ちゃんはやって見せた。

 だと言うのに、今は一回の雷撃で攻撃の手を休めている。


 きっと、あの時は敵のボスは物の怪 妙椿と言う事があって、攻撃の手を緩めなかったけど、今回は人間が相手、一回の雷撃で引き下がってくれればそれに越したことはないと言う事なんだろう。


 でも、敵は引き下がらなかった。

 攻勢に打って出て来た。


 多くの兵たちが喚声と共に、砦目指して駆けだしてきた。

 その背後からは弓矢が射かけられた。

 空を舞い、信乃ちゃんや砦に襲い掛かる数多の弓矢。


 相手は人間。勝てる。

 そう思ってはいても、空を覆わんばかりの弓の数に心配になってしまう。


 そんな時、巨大な水の壁が砦の正面に沸き起こり、空をかける弓矢を飲み込んだ。

 現ちゃんの水の力らしい。


 ちょっと一安心。

 今こそ、一気に雷撃で、切り抜けて!



「行っけぇぇぇ!」



 ついつい、信乃ちゃんの応援に力が入ってしまう。

 拳に力が入り、汗が滲む。


 再び敵の上空に暗雲が沸き起こり、雷撃が敵の兵たちを襲った。


 その雷撃の下はきっと惨劇が起きているはず。でも、その事は頭の中から追い出して、信乃ちゃんを応援する。


 このまま、一気に決着?

 そんな期待を裏切り、雷撃は続かなかった。


 信乃ちゃん、手加減し過ぎ?

 それとも、不調?


 敵兵は雷撃で再び怯んだものの、その攻撃は止まらなかった。


 敵の攻勢を前に砦に逃げ込む信乃ちゃんの姿が目に入った。

 どうも、不調らしい。



「信乃ちゃん、どうしたのかな?」



 そう呟いたとき、刀を抜くような音が聞こえた。

 チャッ!

 その次の瞬間、私の脳内に全てを覆い隠す真っ白な霧が一気に広がる光景が送り込まれてきた。


 なに?

 突然、霧?


 信乃ちゃんの雷撃のように、誰かの攻撃?



「荘ちゃん。一気にこの霧を吹きはらって」

「分かりました」



 風が吹き付けて来る感覚が体中に伝わる。

 だと言うのに、視界の中の霧はゆったりと漂うばかりで、晴れる気配すらない。



「霧が晴れない」



 荘ちゃんのその声が届いた直後、体中に大きな風の圧力を感じた。

 荘ちゃんがさらに風を強めたらしい。


 油断すると、ふらついてしまいそうな強さの風だと言うのに、霧はゆったりと漂ったままで、風の影響を受けていない。


 なに?

 どう言う事?


 触覚は強い風を感じていると言うのに、霧は風が無いかのように漂うばかりだった。

信乃ちゃん、連続の雷撃で一気に敵をせん滅かと思いきや、絶不調??

そして、突然の霧は??

ブックマーク入れて下さった方、ありがとうございました。

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