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積極的な村雨くん

 ぼろぼろの小さな家の前に立つ槍を構えた男二人。

 家の中から懇願するような声が聞こえてきている。

 その声に神経を集中させてみる。



「お願いです。

 それは大事な種もみでございます」

「うるさいわ。

 戦いに備え、米が必要なのじゃ。

 お前らは黙って、差し出しておればよい」

「しかし、それでは私どもは来年米を作る事はできません」

「何を申しておる。

 戦で田畑が荒れては元も子もないであろうが。

 我らが勝つためには必要なのじゃ」



 どうやら、農家の人が保管していた種もみを持って行こうとしているらしい。



「かなり強引みたいだね。

 どこのやつらなのかな」

「この辺りは扇谷定正おおぎがやつさだまさの領地ですね」



 信乃ちゃんが言う。



「き、き、き、斬り捨てましょう」



 なぜだか、村雨くんが一歩踏み出して、どもりながら言った。

 視線を向けると、右手はすでに刀の柄にかかっている。


 なんで、そんなに積極的なの?

 でも、その竹光でどうするのよ?

 ただのポーズ?


 そう思わずにいられない。



「どちらにしても、お役人さんの方がよくないよね」

「では、止めてまいります」



 信乃ちゃんたちが騒ぎが起きている家に向かって行く。

 村雨くんも、その一団の中に入っている。


 あれ?


 私の警護が任務だとか言って、私の横にいるのかと思っていただけに、ちょっと意外な思いで、村雨くんの後姿を見つめた。



 信乃ちゃんたちが近づいていくと、槍を持っていた二人がその矛先を信乃ちゃんたちに向けた。



「何者だ!」

「家の者たちが困っておるであろう」

「貴様たちには関係ない事だ」



 一触即発。

 そんな感じの不穏な空気の先頭にいるのは、なぜだか村雨くん。


 このままにらみ合い?

 それとも、斬りあい?


 どんな展開になるのか、ちょっと不安げなので立ち止まって、遠巻きにして様子をうかがっていると、突然村雨くんが小柄なのを活かして、男の槍を掻い潜り、自分の刀の柄の部分を相手の男の一人の鳩尾にねじ込んだ。


 げっ!

 先制攻撃!

 なんで、こんなに積極的?



「うっ!」



 男がうめき声を上げて、倒れ込んだ。



「おのれ!」



 もう一人の男が村雨くんに向き直ったが、手にしている槍は長すぎて、すでに懐に飛び込んでいる村雨くんに攻撃を加える事ができない。


 一方の村雨くんは動きが素早かった。

 向き直った男に接近したかと思うと、やはり刀の柄を男の鳩尾にねじ込んだ。



「うっ!」



 もう一人の男も、うめき声を残して倒れ込んだ。


 やっぱ、剣の腕は確からしい。

 どうして、それをいつも私の危機の時に使わないで、今使うのか? と、聞きたいところだけど。


 外の異変に気づいて、家の中にいた男たちが飛び出して来た。

 いかにも、この時代の役人風の男と雑兵っぽい二人の男たち。

 役人風の男が倒れている二人の男の姿に、驚きの表情を浮かべた。



「お前たちがしたのか?」



 男の視線は村雨くんでは信乃ちゃんたちに向けられている。

 小柄な村雨くんがやったとは思っていないらしい。



「おのれぇ。なめたまねをしくさって」



 役人風の男の声に、雑兵たちが戦闘態勢に入った。


 が、すぐに雑兵たちは倒れた。

 信乃ちゃんたちが村雨くんに負けじと、速攻をかけた。


 そして、現ちゃんは煌めく刃先を役人に向けている。



「こ、こ、このような事をして、ただですむと思うでないぞ。

 我らは管領 扇谷の者であるぞ」

「そのような事、百も承知しておるわ。

 直ちに立ち去らねば、その首刎ねて進ぜよう」



 現ちゃんの脅しに屈した役人は倒れている雑兵たちを残して、逃げるように立ち去って行った。



「ありがとうございます。

 ですが、このままではすみますまい」



 そう言いながら、家の中から出て来たのは小柄の中年の男の人だった。


 男の人の話では、犬山道節いぬやまどうせつと言う人物が、扇谷に対して敵討ちのために立ち上がり、苦しめられていた農民たちがその期に乗じて蜂起し、少し離れた場所に砦を作って立てこもっているらしかった。


 この反乱を鎮圧するため、扇谷の兵が向かっていて、そのための兵糧を出せと言う事らしいが、所詮は農民の集団であって勝敗は見えていて、新たに兵糧を取り立てる必要ないはずとの事だった。



「えぇーっと、名前が犬山って事はあれかな?

 この人が八犬士でいいかな」

「でしょうね。

 とすれば、急ぎましょう」



 文ちゃんが言う。



「ここは私が先行し、犬山殿の側に加勢しましょう」



 信乃ちゃんが言った。



「信乃ちゃんが行けば、勝利は確実よね。

 そうしてもらっていいかな。

 あ、それと現ちゃんも一緒でお願いします。

 もし、火事とかになっても、火を消せますよね」

「分かりました。

 では」



 二人がそう言い終えると、村雨くんが私の前に回り込んで来た。



「そ、そ、それでは私も」



 これまた村雨くんがやる気満々。

 なぜに、積極的?

 ちょっと、意地悪したい気分。



「えぇーっと、村雨くんは封印解いちゃうのかな?」

「それは無理です」

「ならだめかなぁ」

「私が封印を解くと、とんでもない事になりますので」



 いつもの村雨くんのセリフ。

 また中二病? と思うところだけど、もしかするとこの話は本当なのかもと言う気もしてきた。


 理由は簡単。

 最初、この世界に来た時、村雨くんの話はただの中二病だと思った。

 でも、信乃ちゃんたちの妖力、竜に猿の物の怪を見てきた。

 この世界ではあり得る事。

 とは言え、半信半疑。

 半分意地悪、半分確認の意味で聞いてみることにした。



「いつも、そう言うよね。

 どんなことが起きるのかな?

 信乃ちゃんたちと一緒に行きたいのなら、具体的に私に説明して欲しいかな」

「それはり、り、り……。

 わ、わ、分かりました。

 こ、こ、ここに残ります」



 何か難題を吹っ掛けた訳じゃないけど、またどもったし、なぜだか目まで泳いでいる。


 これは何なの?

 よく分からないけど、残ると言うのだから、それはそれでもいい。

 私的には、ちょっと意地悪しただけなので、どちらでもよかったんだけど。



「じゃあ、そうしてね」



 私と村雨くんの話が決着したので、信乃ちゃんたちは犬山と扇谷が対峙している場所を目指して駆けだした。

なぜだか積極的な村雨くんでした。

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