村雨くん、告白??
信乃ちゃんたちは刑場を襲い、荘ちゃんと呼ぶことにした、犬川荘助奪還して来た。
彼も予想通り、八犬士の一人で風の妖力を持っていた。
これで八人の八犬士の内、4人が揃った。
そして、次の一人を求めて、この地までやって来た。
はっきり言って、この時代の世界の風景はどこも似たようなもの。
田園風景と言えば、田畑でぼろぼろの服を身に纏って農作業をする小柄な男たちと、点在するぼろぼろで小さな家々。
そんな風景の中を縫うように通った細い道を進んで行く。
「ありす殿、次の八犬士はいかなる人物でござろうかのう」
「そうですね。
きっと、皆さんみたいに立派な方なのでは?」
「いやいや。我々はそれほどでも」
今や私は話し相手に不自由しない。
村雨くんとは違い、変な会話になってしまう事も無い。
日々は安心と充実に満たされている。
「そう言えば、そろそろ 本当のご身分を明かされてはいかがでしょうか?」
信乃ちゃんが言ってきた。
元々私のアリスと言う呼び名は、妙な名前だと気に入られていない。
「そうねぇ。元々身分を隠すためだったんだけど、今なら隠さなくてもいいかもね」
剣の腕は抜群でも竹光で、当てにしていいのかどうか分からない村雨くんは置いておいて、四人の八犬士がいれば、私の身の安全は確実っぽい。
だとしたら、浜路姫を名乗るのもありかも知れない。
「そうですね。
私は騙されたようなものですから」
突然、村雨くんが言ってきた。
「えぇーっと。何のことかな?」
私の問いかけに、村雨くんは自分の懐の中に手を入れて、何かを取り出した。
それは紙だった。
私にはそれが何だか分かった。
「ありすとはこのような容姿の女の子の事らしいんですよ」
村雨くんは取り出した紙を広げて、私が描いて見せたアリスを信乃ちゃんたちに見せた。
「こ、こ、これがありすなのですか?」
「信じられない着物を着ていますね」
信乃ちゃんたちが見慣れぬ服装のアリスに、ちょっと興奮気味。
そんな信乃ちゃんたちに追い打ちをかけるように、村雨くんが別の紙を取り出した。
「こんなのもありますよ」
一枚は三つ編みのセーラー服姿の女の子のイラスト。
もう一枚は水着姿のツインテールの巨乳の女の子のイラスト。
「おおぅぅぅ」
信乃ちゃんたちがそんな声を上げて、私が描いたイラストを食い入るように見ている。
「これはほとんど、着物を着ておらぬのではないか」
「しかも、胸が」
完全に男に戻っている。
ちょっとげんなり気味になってしまう私に、熱い視線が向けられた。
私の首下から、つま先までなめるような視線。
一度足元まで行った視線は胸に戻り、イラストの巨乳との間で、往復を繰り返す。
「ありす殿。私はこれを支持いたします。
お名前も、これに変えていただければよろしいかと」
文ちゃんが水着姿のイラストを差し出して、私に言う。
「ですよねぇ」
村雨くんが文ちゃんを応援する。
「えぇーっと」
どう言おうかと思っている内に、村雨くんが言葉を足した。
「ただ、ありすの胸はこれほど大きくはありません」
「村雨殿は、どうしてそのような事を存じておるのか?」
「はい。私をむちゃくちゃにしてとせがまれた時に、胸を触りまくりましたので」
げっ!
その言葉、完全な嘘じゃないけど、正しくもない。
これではまるで私が欲情して、村雨くんにしてと頼んだみたいじゃない。
「村雨くん。やっぱ、脳みそ腐ってるよね?
その言い方、すっごく誤解させると思うんだけどなぁ」
「でも、本当ですよね?
むちゃくちゃにして欲しかったんですよね?
私の腕ではご満足されず、全然よくなかったと申されましたですよね?」
誤解されそうな発言をさらに上塗りした感じじゃない。
信乃ちゃんたちは真っ赤な顔で、私から視線を逸らして、気まずそうにしている。
「ありす殿、これは立ち入った事を」
「ありす殿も大人でございますれば、色々あるのも当然かと」
「ありす殿と村雨殿がそのようなご関係でござったとは」
完全に誤解モードに入っている。
「だから、それは違うのよ。
村雨くんが言った事は嘘じゃないんだけど」
「やはりお二人は、そう言うご関係と言う事ですね」
「ありす。もっと練習して、よかったと言ってもらえるように頑張ります」
「村雨くんさあ。脳みそ腐っていると言うより、頭の中、何が詰まっているの?
だいたい、私の事をなんだと思っているのかな?」
「私は妙椿をありすが倒すまで守るように言われているのですが、男としてそう言う気もある一方、わ、わ、わ、私はありすをこ、こ、こ……」
守れと言われているけど、男として私としたいって事?
そして、なぜにここで、どもる。もしかして、告白?
私にとっては平和なとは言えないけど、ある意味平和な空間を現ちゃんの緊迫した声が打ち破った。
「ありす殿、あれを」
現ちゃんが指さす方向に目を向けると、ぼろぼろの小さな家の前に槍を構えた男二人が立っていた。
相変わらずの村雨くんの発言に、八犬士たちは完全に誤解気味。
そして、村雨くんは何を言おうとしてどもったのか??




