いきなり胸ですか!
信乃ちゃんたちを倒した村雨くんの剣の腕前。
信乃ちゃん救出など、危険で困難な任務の完遂。
そんな事を鼻にかけず、中二病っぽい言動なんかで、実力を隠すところは好感度アップな村雨くん。
意味不明のエロい誤解で、胸を揉まれた事は無かった事にして、竜と戦っているとか言う大言壮語は見方を変えれば、かわいく許してもやれる。
でも、「ほら見た事か」なんて言う発言は受け入れられやしない。
まるで私の警護を任務にしているとは思えやしない。
「まあ、村雨くんがかばってくれても、くれなくても、こうなってたとは思うんだけど」
ちょっとムッとした口調で、付け加えた。
そんな私の気持ちを気づいていないのか、無視なのかは分からないけど、村雨くんは表情を変えずに答えた。
「そうですか」
「二人の会話は終わったか?
何しろ、最後の会話になるかも知れないんだからな」
私と村雨くんの会話に男が割って入って来た。
男がそう言い終えた時、仲間の男たちが下品な笑い声を上げた。
村雨くんにムッとしているとは言っても、村雨くん無しでこの危機を乗り切れる訳がないのも事実。
村雨くんに視線を向けて、聞いてみた。
「村雨くん。
かなり危機的な状況だと思うんだけど、助けてくれるのかな?」
「そ、そ、そ、そうですね。
頑張ってみます」
どもっているのは、やはり竹光だから自信の無さ?
「みます」で終わっているのは、竹光だから結果は保証できないって事?
こんな悪そうな男たち相手に、竹光ではね。それは分かる。
だから、こんな時は。
ちらりと目の前の男の左手の刀の柄に視線を向け、手を伸ばすと一気に引き抜く。
チャッ!
チャッ!
刀を引き抜いて、村雨くんに渡す。
そんなつもりだったけど、私の手では引き抜ける長さではなかった。
しかも背後には建物の壁があって、下がる事もできず、私の右手は男の刀の柄を掴み、刀身を鞘から半分以上引き抜いたところで、止まってしまっていた。
作戦失敗。
状況は一気に悪化した。
「ふざけた事をしやがってぇ」
男の形相が鬼のように歪んだ。
仕方がない。
殴られる前に一撃を。そう思って、足のかかとで男の足の指先を思いっきり踏みつけてやる
と思った瞬間、突然、男は私の胸に顔をうずめて来た。
いきなり胸ですか!
いきなり人前でですか!
男相手には力負けする事は分かっていても、無抵抗なんて私的にはありえない。
男の肩に両手を当てて、思いっきり押しのけてみた。
きっと、私の抵抗に逆上、いえ欲情?? して、狼になって襲ってくるのかと思いきや、そのまま後ろに力なく倒れ込んだ。
なに?
「こやつらを斬り捨てろ」
「やられてなるものか」
「逃げろ」
視線を倒れ込んだ男から上げた私の脳に、そんな言葉が届いた。
辺りを見渡すと、武士らしき男たちが私たちに絡んでいた男たちを容赦なく斬り捨てている光景が脳に送られてきた。
さすが武士と言っていいのか、ごろつきの男たちなど敵ではないようで、男たち全員を瞬殺した。
「よし。終わったようだな」
武士の一団のリーダーらしき男は、地面に転がるごろつきの男たちの死体を見渡してそう言って、何度か頷いたかと思うと、転がる死体と広がる血の海をそのままにして、さっさと立ち去ってしまった。
その場に残っているのは、私たち二人と、野次馬たち。
武士らしき男たちがいなくなったとは言え、あまりの出来事に、野次馬たちの声は潜め気味。
「何も殺してしまわなくったって」
「恐ろしい事だわ」
「どこの者たちなんだ?
見た事の無いお侍たちだが」
「これぞまさしく瞬殺だな。」
「さっきのお侍たち、もう見えなくなったぞ」
「突然現れて、瞬殺して、さっさと消えて行ったって事か」
「相手が悪人とは言え、ひどい事するねぇ」
「まるで、夢、幻のようだな」
「そんな事より、これは誰が片付けるんだ?」
野次馬たちの声も、安堵感や武士の一団への称賛なんかじゃなく、戸惑い気味っぽい。
いくら権力者で相手が悪者っぽいと言っても、なんの調べもせずに斬殺なんて、この時代は権力者も怖い存在。
思いは町の人たちも同じらしい。
そんな事を思っている私に、村雨くんは呑気っぽい。
「とりあえず、助かりましたですね」
村雨くんは何もしてくれなかったよね? と言おうと思ったけど、竹光の村雨くんに言うのはやっぱ酷。
そう思って、その言葉を飲み込んだ。
謎のお侍たちの一団に危機を救われました。
主人公の危機に起きる不思議な殺戮。
これって……。




