壁ドン! で、埃落ちてきたよ!
信乃ちゃんたち三人は犬川荘助を助けに向かった。
その三人の後を追って、村雨くんと二人だけで旅を続ける。
刀をさしているとは言っても、大きくはない男の子と、若くてかわいく、小奇麗な女の子。
自分で言うなよ! と言うのもあるかもだけど、この容姿は私のじゃないので、よしとしよう。
そんな二人連れでも、私の元の時代なら何と言う事もないんだけど、この時代は警戒しておく必要がある。
ずっと、気をつけながら進むのは私。
横でゆるゆる気分で歩いているのが村雨くん。
竜と戦えるとも思えないし、人を斬れる刀も持ってはいないし、エロかったり、不安げな発言が多いけど、とりあえず剣の腕前だけは確からしい。
いざとなれば、敵の刀を奪えば、竹光さえ補える。
いえいえ。
いざと言う時は、村雨くんは封印を解くと言っているくらいなので、もっと強いのかも。
その言葉を信じればなんだけど。
信じる者は救われる?
いえ、きっと、救われない気が……。
私と村雨くんが、今、いるのは小さな町の通り。
ぱらぱらと言った感じの人通り。
人通りがあれば安心と言う訳じゃない。
人気の無い山道も危険、人通りある町も危険。
それがこの世界。
すでに一度、私は騙されて売り飛ばされそうな事になった訳だし。
気を緩めず辺りに注意を払い、私に絡むとただじゃ済まさないわよ! 的なオーラを放ちながら、歩いていく。
と言っても、女の子のそんなオーラは悪人に通じる訳もない。
そして、悪人たちはこちらが無事通過を祈っていても、そうはさせてはくれやしない。
視界の先にそんな危なそうな男たちが映っている。
鋭い目つきで辺りをきょろきょろ見渡し、肩で風切りながら、って、どんな風か分かってないけど、きっとそんな感じで歩き、刀を腰に差さず、左手に持って歩いている。
関わってしまうと危ない! 的な気配をびんびんに感じてしまう。
関わらないようにと、視線を男たちから外して歩いて行く。
関わらないようにしていたつもりなのに、男たちの真ん中にいる男の視線が、私にロックオンしたのを感じた。
視界の片隅に映る男の行動に注意しようと、全神経が男の行動の分析に入った。
男の視線は私の頭の上から足のつま先まで、スキャンして行った。
品定め。そんな感じ。
少しでも男たちと距離を置くため、道の端に寄ろうと、村雨くんの腕の裾を引いた。
「なんですか? ありす」
「こっちに寄って」
男たちとの距離がある間に、少しでも早く端に寄ろうと、村雨くんの裾を引っ張る手力が入った。
女の子の力。
そんな大したことないはずなのに、村雨くんはちょっとよろけ気味。
まじで大丈夫なの?
剣の腕を見たにも関わらず、心配になってしまう。
私が少しぼろい建物の木の壁を背にした時、よろけ気味に村雨くんが私の顔の横に右腕を伸ばし、ぼろい木の壁に手を当てて、自分の体を支えた。
どん!
そんな音と共に、村雨くんの顔が急接近。
目を閉じれば、そのままキスに! ってくらい。
相手が村雨くんだけに、そんな雰囲気じゃない。
いえ。それ以上に壁を揺らした衝撃で、庇の裏に溜まっていた埃のような物が、ぱらぱらと降り注いだ。
なんで、私が村雨くんに壁ドンされなきゃなんないのよ。
しかも、埃降ってくるし。
頭に落ちて来た埃が積もった! 的な感覚もあって、うんざり気味。
だと言うのに、村雨くんはそのまま動こうとしない。
キスしてきたり、胸を触ってきたりしないよね?
動かない村雨くんに、そんな不安を感じてしまう。
「えぇーっと、ちょっと離れてくれないかな」
「離れていいんですか?」
「て言うか、離れて欲しいんだけど」
「そうですか」
そう言って、村雨くんが離れると、私の視界を占有していたのは村雨くんから、さっき私の体をスキャンしていた男の顔に変わった。
げっ!
正直な気分。
そんな私の顎に、その男の手が伸びて来た。
くいっ!
そんな感じで、私の顔を上げて、まじまじと私の顔を観察している。
これまた品定めっぽい。
「人の顔を勝手に触らないで欲しいんだけど」
そう言って、男の手を振り払った。
男は余裕っぽく、怒りもせずに、にやにやとした笑みを私に向け続けている。
「村雨くん、こうなると思ってて、私に覆いかぶさっていてくれたのかな?」
私から少し離れた横で黙って立っている村雨くんに聞いてみた。
「他に何かあると思います?」
「今、ムッとしているのかな?」
「いいえ。ほら見たことかと思っているだけです」
「やっぱ、君、脳みそ腐ってるよね」
そう、それが私の村雨くんに対する正直な感想だった。
予約更新しました。
さて、信乃ちゃんたちのいない所で、また危機が。
でも、いつもクリアしてましたもんね。
今度はどんな風にクリアするのか……。




