村雨くんの刀は竹光だった??
竜と戦っていると言っているくせに、関所も破れない。
AVでも見ているんじゃないかと思うほど、時々エロい発想をする。
私が描いたキャラを見て、萌えぇぇぇとか言う。
そんな普段の村雨くんからは、かけ離れた冷たい横顔。
背筋に冷たい物を感じた私は、この恐ろしい光景から逃れたくて、唾を飲み込み、扉を閉めると一歩引き下がった。
すると、閉めた扉がすぐに開いて、村雨くんが目の前に姿を現した。
「ありす、どうしたんですか?」
瞼を何度か見開きして、目の前の村雨くんの表情を確かめてみる。
いつもの村雨くん。
「えぇーっと、外はどうだったのかな?」
「犬塚殿は確かに利根川に落ちたのか、見当たりませんでした。
でも、その前に盗賊たちは犬塚殿が全て倒しちゃってたみたいで、外は安全です」
「そ、そ、そうなのかな」
村雨くんの言葉。今までも村雨くんの大言壮語を信じられない事が何度かあった。
でも、今は全く逆の心境で、その言葉が信じられない。
川に二人が落ちた音がした後、まだ盗賊たちの声がしていた。
もし、今、盗賊たちが全員倒されているとしたら、それは信乃ちゃんがやったなんてはずがない。
じゃあ、誰?
村雨くん?
でも、刀を突き刺していたのが、村雨くんだとしたら、ここに戻ってくるのが早すぎる気がしてならない。
私は幻を見ていたのかな?
それとも、他人のそら似?
確かめないと。
「村雨くんは盗賊たちと戦ったのかな?」
「そ、そ、そうですね。
さっきは、犬塚殿が倒したと言いましたが、私も活躍いたしました」
目を泳がせ、のけぞり気味で、どもりながら言った。
いつもなら、やっぱ中二病なんだと思うんだろうけど、もう何が何だか分からない。
「ねぇ。腰の刀、見せてもらえないかな?」
もしも、人を斬ったばかりなら、血の痕跡くらい残っているはず。
「そ、そ、それは」
「嫌なの?」
「これは私の魂であり、意味なく人に見せるものではないのです」
村雨くんはそう言うと、刀を庇うかのように手をかけた。
強引に私に引き抜かれるのを避けようとしているみたいに。
「そうなんだあ。
分かったよ」
諦めるふり。
それに見事に引っかかって、村雨くんが無防備になった隙を突いて、刀を引き抜いた。
チャッ。
そんな音がした。
手にずしりとした重い感覚が伝わってきて、その抜き放った刀は血の匂いと名残をとどめながら、禍々しい金属光沢を放つ。
そんな最悪のイメージを裏切る感覚と光景が私の脳に送られてきた。
手に伝わるのは鋼の重さとは全く異なる軽さ。
目に映るのは金属光沢ではなく、木目調の刀身。
「これは」
「か、か、返してください」
村雨くんが慌てながら、呆然気味の私の手から刀を奪い取り、腰に差さっている鞘に戻した。
時代劇で言うところの竹光?
これでは護衛にもならないんじゃ?
そんな新たに生まれた別の不安を抱きつつも、それを言葉にするのは村雨くんに酷すぎる。
「ご、ご、ごめん」
顔を真っ赤にしている村雨くんに、私は頭を下げて謝った。
これでは竜はもちろん、人すら斬る事はできない。
もしかすると、さっき私が見たと思っている外に転がる死体、死体、死体も、幻かも知れない。
とりあえず、外の状況を確かめようと、扉の外に出てみた。
人の気配は無い。
三層の建物の前に広がる盗賊たちの多くの死体。
幻ではなかった。
きっと、すぐにカラスや獣たちがやって来るに違いない。
建物に目を向けると、建物の中も、三層目付近にも死体が見て取れる。
惨状と言っていいほど。
人の気配も無いところから言って、盗賊たちは皆殺しになったに違いない。
村雨くんが外に出てから戻ってくるまでの時間はほんのわずかだった。
竹光と言う事は置いておいたとしても、そんな短時間にこんな事はできやしない。
村雨くん、殺人鬼説は無くなった。
きっと、さっき村雨くんだと思ったのは人違いか、私の頭の中が作り出した幻に違い無い。
「誰も生きていなさそう」
「ですね」
「誰がやったのかな?
村雨くんは誰も見ていないのかな?」
「誰も見ていないですし、犬塚殿だと思っていました。
今はそんな事より、犬塚殿を追わなくていいのでしょうか?」
「だよね」
ここで何が起きたのか、全く理解できなかったけど、今は信乃ちゃんの事が一番。
私たちは信乃ちゃんを追って、利根川の下流に向かって行った。
そして、私は感じていた。その先にまた別の八犬士の存在を。
前話で見た村雨くんは幻?
村雨くんの刀は竹光?
村雨くんの実力はやはりまだ分からないままですけど、引き続きよろしくお願いします。




