盗賊たちを倒したのは誰?
月明かりだけが頼りの薄暗い空間。
浮かび上がった男たちの容姿は、ぼさぼさっぽい髪に、髭面。
邪な考えを宿しているからか、瞳だけがらんらんと輝いている。
「いたぞ。他にも」
「女と子供だ」
「ひっ捕らえてしまえば、外の男も大人しくなるだろう」
そんな声と同時に、男たちが私にとびかかって来た。
どた、どた、どた。
鈍い男たちの足音が近づいてくる。
「いや!」
そんな声を上げて、現実から目をそらしたくて、瞼を閉じた状態で右手でパンチを繰り出す。
非力な女の子の力では、大した抵抗にはならない。
分かっていても、抵抗しなければならない時がある。
チャッ!
何か少し高めの音が聞こえた気がしたけど、私の全神経は右手に集中させている。
すかっ。
空振り感。手に衝撃感がない。
目をつぶっていたので、空振りしたに違いない。
敵はどこ?
殴る事もできなかったけど、殴られもしなかった。
近くで私に襲い掛かろうとしているに違いない。
そんな思いで、目を開ける。
お堂の中に、敵の姿が無い。
いえ、よく見ると、床に男たちが倒れている。
なんで?
もしかして、村雨くんが何かしたの?
そんな思いで、振り返ると、お堂の入り口あたりで、村雨くんは何食わぬ顔で立っている。
「これって?」
「ありすが殴りかかりませんでした?
ありすの拳で倒れたんでしょう」
「えっ? そうなの?
当たった感触無かったんだけど」
「緊張しすぎて、気づかなかったんでしょう」
「でも、何人も倒れているんだけど」
そう、床から入って来た男たちは全部で三人。
全員が床の上に倒れている。
「無我夢中ってやつなんじゃないでしょうか?」
「そ、そうなのかな」
何が起きたのか分からない中、外の信乃ちゃんと盗賊たちの戦いも決着がついたらしく、信乃ちゃんもお堂の中に戻って来た。
「ありす殿。ご無事ですか?」
信乃ちゃんもそう言った後、お堂の中に男たちが倒れている事に気づいて、戸惑い気味に言葉を続けた。
「これは村雨殿が倒したのか?」
「私は立っていただけですよ。
ありすが殴り飛ばしたんです」
村雨くんの言葉に、信乃ちゃんが驚いた視線を私に向けた。
「えぇーっと。殴ろうとしたのは確かなんだけど、でも、本当に私がやったのかな?」
結局、どうして男たちが倒れたのか分からないまま、私がやった事と言う流れになってしまった。
信乃ちゃんと村雨くんの話では、このお堂は盗賊たちのアジトであって、幽霊が出ると言うのは、人を寄せ付けないために流された噂話だろうと言う事だった。
そして、二人は最初からその事に気づいていたらしかった。
「本当にお化けなんて、信じてたんですか?」
そう私に言った村雨くんの心の中は、きっと「あんたばかぁ?」と思っていたに違いなかった。
盗賊たちを退けた次の日の朝、うるさいほどのカラスの鳴き声で目を覚まされた。
眠りの混沌とした意識が、徐々に覚醒に向かう。
私の頭の中に、カラスたちが騒いでいる理由が浮かび上がる。
「おはよう。村雨くん」
部屋の片隅で、体育座りしている村雨くんに言った。
「おはよう、ありす」
「カラスが騒がしいんだけど、あれって」
「理由は他にはないですよね」
こんな時、村雨くんの言葉はいつもちょっと冷たい気がする。
「ですよねぇ。
あんまり、気分いいものじゃないんだけど」
村雨くんは私の言葉の続きを待っているのか、じっと私を見つめたまま。
「埋めていかないかな?」
「数が多いので、時間かかりすぎです」
「ここは早く引き払った方がいいでしょう」
信乃ちゃんが会話に割って入って来た。
「どうしてなのかな?」
「襲ってきた盗賊たちの何人かは逃走しました。
盗賊たちの言葉から推測するに、盗賊たちの頭領はいなかったようです。
きっと、復讐にやってきます」
「じゃあ、行きましょう」
村雨くんはすくっと立ち上がると、私の前までやって来て、右手を差し出してきた。
王子様が手を差し出すシーンを思い浮かべてしまった。
そんな思いは間違い。
そう思い、首を横に激しく数回振って、脳裏に浮かんだシーンをふるい落してから、村雨くんの手をとらずに、自分で立ち上がった。
「では、行きましょうか」
信乃ちゃんがそう言うと、お堂の扉を開いた。
眩しい朝の光と、鉄っぽい臭いがなだれ込んで来た。
目を背けながら、お堂を出る私の視界の片隅に、多くの盗賊たちの遺体に群がるカラスたちが映った。
「成仏してください」
たとえ盗賊たちと言え、死んでしまえば、もう人としての罪は無い。
そう言って、心の中で手を合わせながら、お堂を後にした。
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主人公を襲おうとした盗賊たちを倒したのは誰?
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