ありすは妄想が好き?
私たち三人は新たな八犬士を求めて、東を目指して進んでいた。
途中にあった関所も、今度は村雨くんに胸をもまれる事なく、突破していた。 もちろん村雨くんの力ではなく、信乃ちゃんの力での強行突破。
そして、今、夕闇迫る中、寝泊りする場所を私たち三人は求めていた。
「このあたりでは泊めてくれそうなところは無さそうです」
村雨くんは真面目そうな顔で言った。
「えぇーっと、泊めてくれそうなところと言うか、そもそも家と言うものが無いと思うんだけど」
そう。30分ほど前に、村らしい場所を通り過ぎてからは、木、木、木以外見当たらない道を歩んでいる。
「このままでは、夜になってしまいます。
この先にお堂があるって話でしたので、そこに泊まりませんか。
そこを逃すと、次の村までも距離がありそうですし」
信乃ちゃんが言う。もっともな気もするけど、うんと即答できない。
「さっき、この辺りのお堂には幽霊が出るって、言ってなかった?」
即答できない理由はこれ。
「はい。言っていましたですね。
ありすは、お化けが怖いのですか?」
村雨くんは、全く怖くないかのような口調。
「村雨くんは全然怖くなさそうだね。
竜と戦っているくらいだからかな?」
ちょっと意地悪っぽく言ってみた。
「はい。お化けと言うものは怖くないです。
でも、それは竜とは関係ないですね」
そう言いながら、本当にお化けなんか出たら、お漏らししちゃうんじゃないの?
そんな風にも思える頼りなさ。でも、実は強いのかも。と言う気が、最近はしてしまう。
「見えました。
暗くなってから出歩くのは危険です。
やはり、今日はここに泊まりましょう」
道の先に見える古ぼけたお堂を見つけた信乃ちゃんが言った。
結局、泊まる事になったお堂の外見は古びていたのに、その中は埃が溜まっている事も無いし、油の灯が薄暗いせいもあるかも知れないけど、蜘蛛の巣なんかも見当たらない。
そこら中の障子の紙も、破れていない。
「近くの人たちが、きれいに手入れされているんだね」
「いえ、きっとこの辺りに出るお化けたちだと思います」
「マジで言ってるのかな?」
「はい」
そう言えば、何か臭う。アルコールのような気も。
「この臭いはお化けの臭いなのかな?」
「そうですね。きっと、お化けの残り香でしょう」
「えぇーっと、じゃあ、そのお化けが出てきたら、どうするのかな?」
「犬塚殿が倒してくれます」
村雨くんがきっぱり言ってのけた。
人に頼りっきり発言。
「お化けって雷では倒せないだろうし、当然刀じゃ切れないと思うんだよね。
切るには、斬○刀とかなんとか言うような類が必要なんだと思うんだけど」
「ありすは妄想が好きですね。
そんなお化けを切る刀を想像したり、どらごんなんとかとか、うちゅうじんとか。
それに奇妙な容姿の女の子の絵を描きますし」
「それって、萌えぇぇとか言う人の言う言葉なのかな?」
私の描いたキャラに萌えぇぇとか言ったり、この前現れた巨大な竜とは頭の中だけで戦っているのであろう村雨くんに、まるで私の方が変みたいに言われて、ちょっとムッとした気分。
「萌えぇぇは素直な気持ちを表したまでです」
「ありす殿。
ここに現れるお化けは私にお任せ下さい」
薄暗いお堂の中、きりりとした表情で信乃ちゃんが言った。
信乃ちゃんの言葉なら、すんなりと信じられる。
「分かりました。
お願いしますね」
ちょっとかわいく両手を胸の辺りで結び、小首を傾げて、にっこりとしながら答えた。
とは言え、お化けは出てこないにこしたことはない。
「お化けなんて、出てきませんようにっ!」
そんな事を思いながら眠りについた私だったが、人の気配に目を覚ました。
「おぉ、今日の獲物は少なかったじゃねぇか」
「まあ、酒でも飲んで寝るに限るぜ」
身の危険を感じ、上半身を起こして辺りをうかがう。
月明かりが、お堂の入り口の内側で身構える信乃ちゃんの姿を映し出していて、村雨くんはその背後に控えていた。
一応、戦う素振りはするんだぁ。
でも、信乃ちゃんの後ろと言うのが。
「外に誰かいるのかな?」
外から聞こえる声は明らかに人の声。お化けじゃないはず。
「この辺りの盗賊たちですよ」
信乃ちゃんが声を抑えながら、そう言った。
お化けの代わりに盗賊が出たの?
相手の人数が分からないだけに、不安がよぎる。
でも、信乃ちゃんには雷の力があるから、大丈夫。そう信じて、一人頷いてみる。
信乃ちゃんがお堂の障子を開いて、飛び出した。
「何だ、お前は?」
「俺は犬塚信乃と言うものだ。
退かねば、斬り捨てる」
「ぎゃあー」
「やっちまぇぇ」
盗賊たちと信乃ちゃんが斬りあいを始めたらしい。
相手の数が分からないけど、斬りあいなら、多勢に無勢って事もある。
村雨くんが参戦しないのは仕方ないとして、信乃ちゃんだけで勝てるのか不安になる。
「なんで雷の力使わないのかなぁ?」
心配な私が、お堂の中に残る村雨くんにたずねてみた。
「それはできませんよ。
この辺りには木々が広がっていますから、雷は盗賊たちではなく、木々に落ちますから。
いきなり火事ですよ」
私に振り向きながら、そう言った村雨くんの表情を月明かりが映し出している。
あんたばかぁ? そう思っていそう。
「えぇーっと、じゃあ、村雨くんはそこにいるだけでいいのかな?」
半分意地悪。
半分は本当はこの子が強いのかどうかも見てみたい気分。
「はい。
私はありすを守るためにいるのですから」
きっぱりと言ってのけた。
「でもさ、ここで盗賊たちをやっつける事も、私を守る事になると思うんだけど」
そう言った時だった。
背後で物音がした。
振り返ると、床の板の一部が跳ね上がり、そこから何人かの男たちが姿を現した。
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