村雨くんへの意地悪
村雨くん、そろそろ活躍?
そんな感じです。
「これって、お城みたいなものなのかなぁ?」
関所でいやらしい事をされて以来、距離を置き、会話も用事がある時以外していなかった村雨くんにたずねてみた。
「このような場所に、城はありません。
何かの独立勢力かと」
「入れてくれるかなぁ?」
「無理でしょうね」
きっぱりと、村雨くんは言ってのけた。
「えぇーっと、じゃあ、どうするのかな?
八犬士の人が出て来るのを待つとか?」
村雨くんがにこりとした笑みを私に向けた。
その笑みの意味は心の中で、あんた、ばかぁ? と思っている感じ。
じゃあ、どうするって言うのよ。
そんな思いで、黙って村雨くんを見ていると、木で出来た塀を指さした。
「あれを乗り越えるって事かな?」
「はい。
私が肩車で押し上げて差し上げます」
塀の高さは2m50cmほど、私の身長は1m55cm。村雨くんは私より少し背が高い。
確かに二人なら、乗り越えられそう。
「でも、なんで私が塀を乗り越えなきゃいけないのかなぁ?」
「だって、八犬士を見つけられるのは、ありすだけですよね?」
「確かにそうなんだけど、何か違わない?」
村雨くんは私の前で、小首を傾げている。
「私がここを乗り越えたとして、中の人たちに取り囲まれたら、どうするのかな?」
「それは自分で考えてください」
またまた村雨くんはきっぱりと言ってのけた。
「えぇーっと、考えても無理な事があると思うんだけどさ。
村雨くんが乗り越えるってのはないのかな?
そして、門を開けてくれたらよくない?」
そうは言ってみたけど、半分意地悪な気分。
私だって、何もできやしないけど、きっと村雨くんだって、中に入って何かできる訳もないはず。
「そ、そ、そうですか。
それでもいいんですけど、私を押し上げてもらわなければならないですけど」
ちょっと、どもって、目も泳いでいる。
私が村雨くんを押し上げることになる。
だから、自分が塀を乗り越えると言うのはだめなんだと言う理屈らしい。
「村雨くんが、一人で飛び越えると言うのは無いのかなぁ?」
だめ押しの意地悪。
こんなところで、村雨くんをいじめても仕方がないけど、関所での事を思い出せば、とことんいじめたくもなる。
「わ、わ、分かりました」
村雨くんはそう言うと、塀に向かって、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
垂直跳びの高さで、きっと30cmほど。
村雨くんの手の先は塀のてっぺんに届かない。
言葉ではなく、行動で無理だと言う事を私にアピールしているとしか思えない。
でも、そんな事で折れる気分じゃない。
「一つ聞いていいかな?」
私の問いかけに、飛び跳ねるのをやめて、村雨くんが振り返った。
「なんでしょうか?」
「竜と戦う時って、これくらいの高さを飛び越えたりはしないの?」
「そ、そ、それは私の封印を解いたら、飛び越えられますよ」
ちょっと目を泳がせながらも、のけぞり気味になって威張りながら言った。
「封印解くといけないのかな?」
「とんでもない事になりますから」
今度もきっぱりと言ってのけた。
「じゃあ、私が押してあげるよ。
見た中で一番小さかったあそこの門を開けてきね」
左側を指さしながら、意地悪気分MAXな私は村雨くんに言った。
塀の左側に視線を向けている村雨くんの足の間に頭を入れて、肩車態勢をとった。
泣いたり、謝ったら、許してやろう。
そんな事を思いながら、肩車で立ち上がろうとした。
そう大きくない村雨くんとは言え、女の子の体では負荷は大きく、よろけ気味になる。
足をぷるぷる震えさせながら、なんとか背筋を伸ばそうとした瞬間、突然肩にかかっていた重さが無くなった。
きっと、塀の上に村雨くんの手がかかったんだろう。
塀の上に目を向けた時、もうそこに村雨くんの姿は無かった。
ひぇぇぇ。とんでもない事をした気分。
塀の向こうで、男たちに殴られたりなんかしてませんように!
大丈夫でありますように!
そんな事を祈りながら、自分が指さした門の方向に沿って、歩いていく。
とりあえず塀の向こうは静かで、特に村雨くんが見つかった気配はない。
中に入った村雨くんの心配をしながら歩いていると、もう門を開けたらしい村雨くんが姿を現して手招きした。
早っ! 心配して損した気分。
そんな事を思いながら、小走りで村雨くんの所に駆けて行った。
「中の人たちに、見つからなかったのね」
そう声をかけた私に、村雨くんはにこりとだけ微笑み返して、私を塀の内側に引き入れた。