関所、無事(?)通過
呆気にとられている男たちに、お構いなく村雨くんは指を動かし続ける。
男たちの表情は驚きから、嫌悪に向かっている。
村雨くんの右手は胸から離れたかと思うと、お腹の辺りから下に向かい始めた。
この子、子供だと思って油断したかも。
と言うか、変な知識ばかりあるバカ?
村雨くんの手を振り払おうか戸惑っている内に、あまりの光景に目の前の男の方がしびれを切らした。
「もうよいわ。
そもそも姫ともあろう者が、ありすなどと言う奇妙な名を名乗るはずもなければ、そのような異様な髪型をしているはずもあるまい。
ましてや、人前でそのような行為を見せるとは考えられぬわ。
お前たちのような痴れ者は、とっとと立ち去れ」
とりあえず、助かった。
ほっとした感に満たされたけど、村雨くんの手は止まっていない。
「えぇーっと。手を離してくれるかな?」
「まだ、むちゃくちゃにしてないですけど」
村雨くんはマジ顔。
「もう終わったんだよね」
「そうですか。残念です」
村雨くんが私から離れると、私は少し乱れた着物を直した。
目の前の男はもちろん、そのほかの周りの男たちの視線も、なんだか蔑みの視線を二人、とくに私に向けている。
「では、失礼します」
いたたまれなくて、私はそそくさとその場を離れた。
恥ずかしさと怒りで黙ったまま、足早に歩く私の後を少し遅れてついてくる村雨くん。
私としては、話しかけるのも嫌。話しかけられるのも嫌。そんな私の怒りオーラが通じているのか、村雨くんも黙ったまま。
沈黙のまま二人が関所からかなり離れた頃、村雨くんが話しかけて来た。
「ありすの策はうまくいきましたですね。
名前と言い、髪型と言い、むちゃくちゃにする策と言い。
さすがです」
私は立ち止まって、振り返った。
村雨くんも立ち止まり、何? 的な表情で私を見つめている。
「あれって、何なのかなぁ?」
「あれ?」
「どうして、私の胸触ったのかなぁ?」
「だって、むちゃくちゃにして欲しいって言われましたですよね?
昼間からと言うので、ちょっと戸惑いました」
「やっぱ、君、脳みそ腐ってない?
AVとか見た事あるんじゃないよね?」
「えーぶいって、何ですか?」
「もういいです」
そこまで言った後で、ある事がちょっと気になった。
いくら言われたからって、あんな事を平気で姫にするなんて、もしかすると、村雨くんとこの体の持ち主の元の姫は、そんな関係だったのでは?
としたら、これから気をつけないと、いつ村雨くんが私にあんな事やこんな事をしようとしてくるか分からない。
もっとも、この体は私のじゃないんだけど、今は私のだし。
「えぇーっと、あんな事を今までにも、私にしてた?」
本人が聞くのは不自然。そう分かっているだけに、戸惑い気味な私。
「はい」
きっぱり、村雨くんは言ってのけた。
やっぱ、そうだったんだぁ。
大きく息をはき出して、うなだれ気味に目を閉じた。
二度としないでね。そう言おうとした時、村雨くんの言葉が続いた。
「いつも、頭の中で」
「はいぃぃ?」
そ、そ、それって……。
私の動揺にもお構いなしなのか、気づいていないのか、村雨くんは平然としている。
「と、と、とにかく、私にあまり近づかないでください」
そう言うと私はさっさと一人歩き始めた。
私のお供は、頼りにならない中二病の子供。
なだけじゃなくて、その上、エロ知識だけは十分持っている。
も、も、もしかして、私一人の方が安全?
そんな思いさえ抱かずにいられない。
とは言え、この時代の事なんか分からないし、村雨くんと八犬士を探す旅をするしか私に選択肢は無かった。
旅を続けて数日が過ぎた。
私を捕まえるための関所のようなものは、あれからは無かった。
そして、ようやく私は八犬士の一人の存在を感じていた場所にたどり着いた。
そこは今までに見た事も無い異様な場所だった。
木で造られた塀が張り巡らされ、何か所かある門の近くには櫓が造られていて、私が最初にいた城よりも堅牢そうな要塞のような場所だった。
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