関所を通る目的はサイトシィーング?
舗装もされていない細い道は、ほとんど人と出くわさない。
しかも、道の両横には木が生い茂っていて、あたりは少し薄暗い。
木々の向こうのどこかに野盗の類が潜んでいても、分かりやしない。
私の横にいるのが屈強な男たちなら、そんな野盗たちも襲って来やしないかもしれない。
でも、私の横にいるのは、頭の中でだけ竜と戦っているのであろう村雨くん。
盗賊たちも遠慮なく襲ってきそう。
辺りを頻繁にきょろきょろしながら、警戒を怠らない私。
そんな私とは違い、なんだか楽しげに村雨くんは私の横を並んで歩いている。
能天気な弟を連れて、知らない街を歩く姉の気分。
「遠足じゃないんだよぅ」
村雨くんの楽しげな表情に、不安気分の私がついつい意地悪っぽい事を言ってしまった。
「えんそくって、何ですか?」
「気にしなくていいよ」
ドラ○ンレーダーのような単語はともかく、普通の日本語の単語でも通じないものが多すぎっ!
ちょっと疲れ気味になりそう。
そう感じた時、人の気配を感じた。
道の先に目を向けると、何人かの人が集まっている場所があった。
ちょっと太めの木で造られた門と、そこを取り巻く刀を手にした男たち。
「えぇーっと、あれって、関所みたいなものかなぁ?」
「ですね」
私の問いかけに、村雨くんはきっぱりと言ってのけた。
「このまま進んで行って大丈夫かなぁ?
黙って、通してくれるかなあ?」
「黙っては通してくれないでしょう」
この質問にも、村雨くんはきっぱりと言ってのけると、言葉を続けた。
「普通、このあたりにあんなものはありません。
見てください。門に使われている木が真新しいですよね?
きっと、造ったばかりなんだと思います」
「何のために?」
思い当たるものはある。でも、そうだとは思いたくなくて、違う答えを期待して、村雨くんにたずねてみた。
「心当たり無いんですか?」
村雨くんがきょとんとした顔を私に向けた。
あんたばかぁ? と言いたげに見えてしまう。
「やっぱ、そうですよねぇ。
私を捕まえるためですよね」
「はい。
それ以外ないですから。
行きますよ。
もう、向こうは私たちに気づいていますから」
村雨くんに戸惑いは無い。
もしかすると、抜け道を知っていて、今から木々の向こうに消えるとか?
いえ、この程度の関所なら、力で破れるとか?
ここをどうやって抜けるのか、心配している私の事などお構いなしに、村雨くんはすたすたと歩き始めている。
「えぇーっと、ちょっといいかな」
「何でしょうか?」
「村雨くんが力で、ここを破っちゃうのかな?」
「そんな訳ないじゃないですか。
ここを破るために私が封印を解いて戦ったら、この辺り一面が破壊されてしまいますし、追手がやって来る事になって、後々面倒な事になりますよ」
「ですよねぇ。
じゃあ、どうする気なのかなぁ?」
「さあ?
行って、話を聞いてみないと何も始まらないですから。」
「はいぃぃぃ?」
「大丈夫です。
ありすは私が守りますから」
村雨くんはまたまた、きっぱりと言ってのけた。
でも、その顔は正面の関所に向けられたままで、私に視線すら向けてこない。
そんなセリフを言う時は、私の目を見て言ってよね。
いえ、目を見て言われても、信じ切れないかもだけど。
なんて思っている間に、関所の番人と思える男数人が、私たちの所に駆け寄って来た。
「お前たち、何の目的でここを通ろうとしている?」
私たち二人を見ながら、長い木の棒を持った男が威嚇気味に言った。
横の村雨くんに目を向けると、何の反応も示していない。
にこりともしていなければ、自分の腰に差している刀に手をかけようとする素振りも見せていない。
きっと緊張のあまり、思考が真っ白なのに違いない。
全然、大丈夫じゃなくない?
村雨くんが何もできないなら、私はもっと何もできやしない。
どうしたらいいのか分からず、私も頭が真っ白になりそう。
どうしたらいいの?
なんて答えたらいいの?
「目的をさっさと答えろ!」
恫喝気味の男の声が、私の思考にプレッシャーをかけた。
真っ白になりかけていた思考の中、そのプレッシャーで押し出された単語が吟味される事も無く、ぽろりとそのまま口から出てしまった。
「サ、サ、サイトシィーング」
「さいと、なんじゃと?
怪しいやつめ。
連れて行け!」
私と村雨くんは長い木の棒でこ突かれながら、男たちに連れて行かれる事になった。
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これからも、よろしくお願いします。
未だに、村雨くんの力は不明です。本当は強すぎるくらい強い??