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いじめられている子犬を助けたら

 その光景を見た瞬間、私の脳裏にある歌が浮かんできた。



「昔、昔ぃ、浦島はぁ、助けた亀に連れられてぇ」



 いいよね。これって、著作権問題ないよね?

 なんて、一人で意味不明な事も思い浮かべながら、小さな段ボール箱を取り囲んでいる小学生の男の子たちに近づいて行った。



「拾ってください」



 男の子たちが抱きかかえている小さな子犬が入っていたであろう段ボール箱には、そんなメモが貼られていた。

 そのメモの通り拾って行ってくれそうなら問題ないんだけど、どう見てもいじめにしか見えない。



「ここから落としたら、どうなるかな?」



 上に伸ばした両手で子犬をがしっと掴み、意地悪そうな笑みを浮かべながら言っている。

 こいつはマジかも知れない。


 いくら小さな小学生とは言え、相手は小さな子犬。

 怪我だってするかも知れない。



「えぇーっと、ちょっといいかな」



 子供たちに声をかけてみると、警戒心むき出しの視線を私に向けて来た。



「誰、こいつ?」

「知らねぇよ」


 態度が悪ければ、口も悪い。

 まあ、礼儀正しい子がこんなちいちゃな子犬をいじめる訳もないので、そんな奴らだとは思ってましたけど。



「中学生だからって、口出ししてくんじゃねぇよ」

「あのう。私は高校生なんだけどね」



 そう言った私の制服の胸の辺りをガン見している小学生たち。



「これで高校生なのか?」

「小学生でもいいんじゃね?」



 胸に突き刺さるお言葉、ありがとうございます。

 確かに小学生だって、発育のいい子はいますよ。きっと、私はそんな子には負けてます。

 でも、胸は小さくても私は高2なんです。


 落ち込みそうな気を取り直して、小学生たちに向き直った。



「えぇーっと。そんな事はいいんだけどさ。

 子犬をいじめるのはよくないんじゃないかな」



 相手は憎たらしいただの小学生だと言うのに、ついつい可愛く小首を傾げて言ってしまった。



「いじめてなんかいねぇよ」

「そうだよ。

 赤ちゃんにだってしてやんだろ。

 高い、高いぃって」



 そう言いながら、犬を手にしている男の子が軽く子犬を上に放り投げては、キャッチを繰り返した。



「くぅぅぅん」



 私的には、そんな声を上げた子犬は涙目に見えちゃう。



「今だって、悲しげな鳴き声だったよ。

 助けてって言ったんじゃないかな?」

「俺には、もっと、もっとと聞こえたけどな」

「おねぇちゃん。本当に高校生だってんなら、おねえちゃんも言ったことあるんじゃねぇの。

 彼氏にもっと、もっとぅってさ」


 意味が分かんなくて小首を傾げる私に、男の子たちはげらげらと大笑いを始めた。



「うーん。何の事なのかなぁ?」

「すっ呆けてるのか、マジで知らねぇのか」

「うーん。あのね。そんな話じゃなくて、子犬を離してやってくれないかな」

「おねえちゃん、この犬、買う?

 買うってんなら、売ってやるけど」



 たちの悪い男子小学生の相手は、私では荷が重すぎ。

 びしっと怒ってやれば、引き下がるのかも。でも、それは私のキャラじゃないし。


 どうしたものかと思っていた時、事件は起きた。

 男の子の両手に掴まれていた子犬がおしっこをしたのだ。


「ぎゃっ」


 子犬を掴んでいた男の子は慌てて、子犬を放り投げた。

 その子犬はちょうど私に背を向けた状態で飛んできた。

 その子犬をナイスキャッチ。がしっと両手で受け止めた。


 子犬はまだおしっこをしていて、小学生たちにおしっこ攻撃を加えている。

 たまらず男の子たちは逃げ出し、子犬のおしっこが終わった頃には、遠ざかって行く小さな後姿になっていた。


 なんとか、子供たちから子犬を助けはしたけど、困ったことがある。

 私は子犬を両手で持ったまま、そうおしっこしたての子犬をぎゅっと抱きしめる勇気はなく、少し離した状態で持ったまま考え込まずにいられなかった。


 今の時代、犬を捨てるってあり得ないよねぇ。

 飼い主のいない犬がどうなるかなんて、分かり切った事なんだし。

 でも、うちに連れて帰る事はできないし。

 そう思って、小首を傾げた瞬間、声が聞こえて来た。



「やっと、見つけた。

 こんな遠き時代に生まれておったのか」


 正面から聞こえて来た気がするんだけど、正面には私が持っている子犬しかしない。


 とりあえず、辺りをきょろきょろと見渡してみたけど、人気は無い。



「気のせい?」



 小首を傾げながら、子犬を一旦元の段ボール箱に戻してみる。



「あなたには来てもらいます」



 今度の声も、確かに子犬の方から聞こえて来た。



「えぇーっと」



 小首を傾げながら、子犬をじっと見つめると、一瞬の内に巨大化したように見え、開いた大きな口が私を飲み込んだ。


 あれ?

 私、食べられちゃうの?

 これって、ただの子犬じゃなかったの?

 助けた亀は竜宮城に連れてってくれるんだけど、助けた子犬は恩を仇で返すの?


 なんて、真っ暗な闇の中で私は考えていた。

 でも、私の思考はすぐに闇に溶けて、消え去って行った。

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