第9話 蛇の獣
学園を出ると、もう外は夕焼け空となっていた。
いつもなら、一人で街の風景を見ながら帰るのだがたまに春樹と帰ることもある。
昨日はたまたま愛梨と会って一緒に帰ったが。
だけど、今日は愛乃と一緒に帰る。 しかも同じ家に。
愛梨や春樹以外のやつと一緒に帰るのは、いつ以来だろう。
考えれば考えるほど頭が痛くなる。 ちなみに、ぼっちなどではない。
愛乃「奏太? なに考えてたの?」
奏太「ん? いやなんでもないよ」
愛乃が突然そんなことを言ってきた。
どうやら俺が何か考えてることはおみとおしのようだ。
しかし、いくら妖精って言っても超能力者じゃないんだから勘弁してほしい所だ。
そんなことを思った俺はいくつか愛乃に質問をし始めた。
奏太「そういえば、お前って異世界から来たって言ってたよな?」
愛乃「えぇ。 そうよ。 この世界を魔王から守るためにね」
奏太「その魔王ってどうやって倒すんだよ。」
昨日の夜、愛乃は魔王がこの世界を滅ぼすために幻獣を召喚していると言っていた。つまり、魔王を倒すことができれば幻獣はいなくなるのではないかと俺は考えた。
愛乃「分からないわ……ごめんなさい」
奏太「じゃあこれからどうすればいいんだ?」
予想外の愛乃の返答により、俺は一瞬言葉を失った。
魔王をどうやって倒すのかは愛乃自身も分からないらしい。
愛乃「だけど一つだけ考えがあるわ。」
奏太「なんだよ考えって」
愛乃「幻獣を倒し続ければなにか魔王について分かるかもしれないわ。」
俺も同じような事を思っていた。 確かに、それは一理あるかもしれない。
というか今の段階ではその方法でやっていくしかないな。
その後も俺は愛乃と色んな話をしながら帰り道をひたすら歩く。
今日の朝、学園まで猛ダッシュで走ったせいか、足が重い。
おそらく今走れと言われたら全速力で走ることはできないだろう。
普段、何かトレーニングをしておけばよかったかな。
そんな呑気なことを俺は考えていた。
すると、後ろからまた俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
愛梨「奏太~! 待ってよ~!」
俺の名を呼んで走ってきたのは愛梨だった。
あんな大きい声を出すのはあいつしかいない。
奏太「なんだ、どうした愛梨」
愛梨「今日も一緒に帰ろうかな……って……」
いつもと同じように喋っていた愛梨だったが
徐々に言葉が詰まり声が小さくなっていった。一体どうしたんだろう。
奏太「ん?」
愛梨「ど、どどどどどうして!? 奏太が、おおおおお女の子と帰ってるの!?!?」
あぁ、そうか。
俺が愛乃と一緒に帰ってるからさっきああいう風になっていたのか。
というか愛梨の口調がなんかおかしくなってる、怖い。
こんな愛梨を見たのは初めてかもしれない。
奏太「どうしてって、一緒に住んでるんだから一緒に帰るのは不思議じゃないだろ」
愛梨「そ、そうだったわね!! うん、不思議なことじゃないよね!!! 一緒に住んでるんだから!」
慌てふためく愛梨に俺は冷静な対応をとった。
すると、愛梨は少し落ち着きを取り戻した。
愛梨「愛乃ちゃんだっけ」
愛乃「はい。」
愛梨「私の名前は分かる? 同じクラスの」
愛乃「神童 愛梨さんですよね。 そーたの幼馴染の」
愛梨「そ、そうよ! 奏太とは幼稚園からの付き合いなのよ!?」
愛乃「へぇ……そうなんですか」
愛梨は愛乃に自慢げにそんなことを言った。
だけど愛乃はそんな言葉にまったくと言っていいほど動じなかった。
そりゃそうだろう。 こんな事を言われてもどう返せばいいか分かるはずがない。
そして、気が付くと俺と愛乃と愛梨の三人で家に帰ることになっていた。
最初は愛梨に興味を示さなかった愛乃も会話しながら歩いているうちに、徐々に話をするようになっていった。 その様子を見て俺は少し安心した。
最初の友達ができるかもしれないな。
奏太「(愛乃、愛梨と仲良くなれそうだ)」
俺は心の中で静かにそう思った。 と、その時だった
ズドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
昨日と同じ、隕石が落ちたような轟音が響き渡った。
間違いない、幻獣がどこかに現れたんだ。 俺はそう確信した。
愛梨「なっ何!?」
愛乃「……!!」
突如響き渡る轟音を聞いた愛梨は、ビックリした様子でそう言った。
当然の反応だと思う。
一方の愛乃は、その音を聞くと逆方向へ走って行ってしまった。
その様子を見て俺も愛乃の後を追って、走った。
愛梨「ちょっと!! 奏太!」
奏太「悪い、愛梨! 今日は先に帰ってくれ! また明日な!」
俺は後ろを振り返り愛梨にそう言った。
愛梨は、呆然と立ち尽くしたままで俺が愛乃の後を追って走っているのを見ていたのであった。
奏太「ハァハァハァ……! ちょっと待ってくれ愛乃!」
俺は走りながら愛乃にそう言った。
だが、愛乃はまったく俺の呼びかけに耳を傾けようとせずに猛スピードで走って行った。
ちなみに、俺は朝に足を酷使したせいで今は全速力で走ることはできない。
だがかろうじて愛乃の後ろ姿は確認することができる。
……愛乃が走り始めてから10分くらい経っただろうか。
ようやく彼女の足が止まった。
俺はもうヘトヘトになっていた。 帰宅部にはかなりきつい。
愛乃「奏太……あれを見て……!!」
奏太「ん……? あ、あれは!?」
愛乃が指を指した方向を見るとそこにはやはり、幻獣の姿があった。
奏太「なんだあの幻獣は!?」
俺が見た幻獣の姿は、蛇のような姿をしていた。
蛇なんて今までにみたことがなかった俺は身が凍えるような恐怖感に襲われた。しかも普通の蛇の大きさではなく、とてもでかい。
こんなやつが街中で暴れたら大変だ。
愛乃「とにかく、倒しましょう!」
奏太「あ、あぁ!」
少し戸惑った俺だが、愛乃の言葉によって俺はこいつと戦う決心をした。
このまま野放しにしておくとこの町が大変なことになる。 俺はそう考えた。
そして愛乃の体が一瞬にして剣に変身し、俺はその剣を手に取った。
ドクンドクンと心臓が少し速くなっていくのを感じた。
だが、昨日のような疲労感や胸が圧迫されるような感じはなかった。
やはり愛乃が言っていた通り、最初の同期だったからなのかもしれない。
愛乃「(苦しくない? そーた)」
奏太「あぁ、大丈夫だ。 それよりどうするんだこれから」
愛乃「(とにかく今は相手の様子を見て隙を見て、ダメージを与えて)」
奏太「おう、やってみる」
愛乃の声がテレパシーのように俺に語りかけてくる。
この声はこの剣から伝わってくるのか?
そんなことより、今はあいつを倒すことに集中しよう。
蛇?「グギャアアアアア!!!」
蛇のようなモンスターが俺の体に体当たりをしようとしてきたが、それを余裕で回避した。やっぱり同期することで身体能力が上がるのか。
と、俺は改めて思った。
そして蛇のようなモンスターの隙をついて剣で切りかかる。
すると蛇のようなモンスターは大きな声を上げ動かなくなった。
奏太「やったのか?」
俺は蛇が動くなったのを確認して、近づいた。 だが
愛乃「そーたっ! 離れて!!」
愛乃のその一言で俺は危険を察知し、離れた。
どうやら蛇はまだ生きていたようだ。
もし近づいていたら喰われてしまっていただろう。 再び剣を蛇に突き刺した。
すると、蛇は消滅してしまった。
奏太「……ふぅ」
蛇を倒した後、俺は力が抜けてしまった。
正直とても怖かった。今も体が少し震えている。
愛乃「そーた、大丈夫?」
奏太「あぁ。 さっきはありがとうな」
愛乃「うん」
俺は愛乃に礼を言った。
そして、蛇のような幻獣を倒した俺たちは家に帰ることにしたのであった。
ふと空を見上げると、夕焼けの空は真っ暗な漆黒の空へとなっていた。