第7話 転入生
奏太「ん……んぅ……」
小鳥のさえずりがチュンチュンと俺の耳に入ってくる。
部屋にまぶしい日差しも当たり朝が来たんだと実感する。
昨日起きた事は全部夢だったのか?
そうか、あれは全部夢だったんだな。 俺はそう思った。
でもなんださっきから俺の鼻に伝わってくるこの甘い匂いは……?
目を閉じている俺はその甘い匂いの正体を確かめるべく思い切って目を開けた。
すると、そこには……
愛乃「スーッ……スーッ……」
奏太「!? あ、愛乃!?」
俺の横で眠る愛乃の姿があった。 その姿を見て思わず声を出してしまった。
というかやっぱり夢じゃなかったんだな……昨日起きた事も全部。
でもなんで愛乃が俺の横で寝ているんだ?
昨日こいつは確かに地べたで寝ていたはずなのに!
愛乃「んぅ……おはようそーた……」
寝起きの愛乃もすごく可愛い。 ってかなんなんだこのシチュエーションは。
まるで夫婦じゃねえか!
奏太「あ、あの愛乃さん? どうして俺のベッドで……」
愛乃「……一人で寝るの寂しかったから、迷惑だった?」
迷惑なわけないだろうが!! と思わず俺は心の中でそうツッコミをした。
奏太「大丈夫だよ。 てか今何時だ?」
愛乃「えっと……8時5分……」
奏太「あぁ、なんだ8時5分か。 ……って8時5分ってやべえじゃねえか!!!」
愛乃に現在の時刻を確認した俺は思わず大声で言ってしまっった。
学園が始まるのは8時30分だ。
俺の家から学園までは全速力で走って30分ってところだ。
つまり今の状況はとてもやばい。
奏太「遅刻するかもしれない!! そうだ! 愛乃、お前の力でなんとかならないか!?」
愛乃「無理よ」
一瞬で期待を裏切られてしまった。
いくら妖精の力であっても時間を止めたり、ワープしたりすることはできないらしい。
奏太「とにかく学園へ急ぐぞ!」
愛乃「んぅ……ねむい……」
奏太「おいこら! 起きろ! 愛乃!!」
寝てしまった愛乃を俺はベッドから引きづりおろして学園に向かう準備を始めた。
朝食なんて食べてる暇はない。 急いで制服に着替え愛乃と共に家から出た。
ちなみに愛乃はまだ制服を作っていないので、普通の私服で登校するみたいだ。
俺はアルファの腕を引っ張り、走って学園へと向かった。
奏太「くっそ……間に合わねえか!?」
全速力でダッシュして学園への道を突き進む。
いつもなら風景を眺めながらのんびりと行くのに……
こんなの初めてだ。 それに愛乃の腕を握って走っているのでとても走りづらい。
ちなみに愛乃はまだ半分寝ているような状況だ。
早く完全に目を覚ましてくれ愛乃。
というかこいつは朝が苦手なのか? と俺はそんな疑問を抱きつつ走った。
~8時20分~
奏太「はぁはぁ……さすがにずっと走り続けるのはきついな……」
愛乃「そーた? なにしてるの?」
不思議そうな表情を浮かべて俺に問いかけてきた。
家から出て15分が経ちようやく愛乃が完全に目を覚ましたようだ。
目を覚ますのが遅すぎるよ愛乃さん。
奏太「遅刻しそうなんだよ! 寝坊した!」
愛乃「そうなの?」
奏太「あぁ! ハァハァ……だから今お前の腕をつかんで走ってるんだよ!」
愛乃「……そう。 早く行きましょう!」
愛乃はそう言うと俺の腕を離して俺以上のスピードで走って行った。
そのスピードを見て俺は唖然としてしまった。
愛乃はまさにオリンピック選手のようなスピードで走って行った。
妖精って身体能力が高いのだろうか。 俺はそんなことを考えた。
そして、いよいよ学園の門が姿を見せた。 もうすぐゴールだ。
俺は愛乃の後を追いかけるようにしてスピードを上げ門へと入って行った。
学園の校舎についてる時計を確認した。
8時25分だ。 ギリギリといった所か。
とにかく遅刻はせずに済んだ。 俺はホッとした。
今まで遅刻なんかしたことないからな。
ここで遅刻なんかすると俺のプライドが黙っちゃいない。
とにかく今は呼吸を整えよう。そして俺は愛乃に話しかけた。
奏太「はぁはぁ……愛乃。 職員室わかるか? って分かるわけないか。」
愛乃「だから、場所教えて」
奏太「よし、まだ少し時間はあるから俺が職員室まで一緒に行くよ。」
愛乃「うん、ありがとうそーた!」
こうして俺はひとまず愛乃と一緒に職員室へ向かうことにした。
俺の在籍するクラスの2年B組は比較的職員室から近い。
だからここまで来ればもう迷うことはないだろう。
そう確信した俺は愛乃と別れることにした。
奏太「ここが職員室だ、2年B組は職員室からそんなに遠くないからわかるだろ。 というか先生がついてきてくれるだろ。」
愛乃「分かったわ」
そういって愛乃は職員室へと入って行った。
それを見た俺は、自分のクラス2年B組に向かうことにした。
そんな時、誰かが俺に挨拶をしてきた。
???「よお奏太! おはよう!」
奏太「なんだ、お前かおはよう春樹」
春樹「なんだお前かってなんだよ! 数少ない友達からの挨拶だろ! もっと嬉しそうにしろよ」
奏太「はいはい」
春樹「でも、お前がこんな時間に登校してくるなんて珍しいな、何かあったのか?」
さすが俺の数少ない友達だ。勘が鋭い。
だけど昨日起きた事を話すわけにもいかないしここは普通に対応しよう。
奏太「特になんもないよ。 とにかく教室に入ろうぜ」
春樹「あぁ」
春樹と朝の挨拶を交わした俺は2年B組の教室へ入って行った。
ドアを開けて入るとみんなの声がしてとても騒がしい。 まるで動物園みたいだ。
友達が少ない俺からしてみればはっきり言って迷惑だ。
だけどそれを口にするとどんな事を言われるか分からないから心の中にしまっておくことにした。
???「あっ、奏太! 春樹! おはよう!」
春樹「愛梨ちゃん、おはよう!」
奏太「おはよう」
俺と奏太に話しかけてきたのは、昨日俺と一緒に帰った愛梨だった。
ちなみに愛梨はこのクラスではアイドル的な存在でもある。
愛梨「奏太、いつもより来るの遅くない? 何かあったの?」
奏太「なにもないよ」
愛梨「本当に??」
奏太「うん」
俺の友達はみんな勘が鋭いから困る。
そう思いつつ俺は自分の席へと向かっていった。
その時、ちょうどチャイムが「キーンコーンカーンコーン」と響き渡った。
チャイムが鳴った後、あんなに騒がしかったクラスのやつらは全員自分の席へと座りあっという間に静かになった。
そしてしばらくして教室のドアが開いて先生が入ってきた。
愛梨「起立! 礼!」
クラスのみんな「おはようございます!!」
クラスの生徒全員の声が教室中に響き渡った。
ちなみに愛梨はこのクラスの委員長である。
委員長は朝の挨拶やその他いろんな事をしなければならないので、とても大変だ。そういう意味では俺は愛梨を尊敬している。
先生「は~い、みんなおはようございま~す」
この人が俺たちのクラスの担任の先生、北上 薫だ。
紫色のショートヘアのような髪型をしている女の人でおそらく年齢は20代である。 俺の予想だが。
薫先生「早速ですが、今日は転入生を紹介します」
先生のその一言でクラス中はザワザワとし始めた。
まぁ転入生が来るとワクワクする気持ちはわかる。
薫先生「入ってきて~」
先生がそう言うと制服に身を包んだ愛乃の姿があった。
しばらくしてクラス中からは「お~」という声や「可愛い~」という声がちらほら。
薫先生「じゃあみんなに簡単に自己紹介してくれる?」
愛乃「朝野愛乃です。 よろしくお願いします」
愛乃がそう言うとクラスのやつらがなぜか俺のほうへ顔を向けた。
そうか、苗字が同じだからか。
薫先生「はい、朝野さんは奏太君の親戚で家庭の事情で奏太くんの家に居候しています。 みんな、仲良くしてあげてね!」
クラスのみんな「ハ~~イ!」
親戚で家庭の事情で居候か……
そうか、これなら何も不自然なことじゃないな。
ナイスな設定だ愛乃! と俺は心の中でガッツポーズした。
もし、居候とかじゃなかったら絶対怪しまれるもんな、うん。
薫先生「それじゃあ、愛乃さんの席は奏太君の隣ね。」
愛乃「はい」
そう返事をした愛乃はスタスタと俺の席の隣へと向かい、座った。
ちなみに俺の席は、ほぼ真ん中の一番後ろの席だ。
右に愛梨の席があって左の席に愛乃が座ることになる。
そしてあっという間に朝礼が終わり、今から授業が始まっていく。