第5話 選ばれし者
しかし、さっきのは一体なんだったんだ!?
公園から家に帰る途中、俺はそんな事を心の中で思っていた。
大きな爆発音みたいなのもそうだけど、人が剣に変身したり狼のようなモンスターが急に襲いかかってきたり……どうもおかしい。
ゲームや漫画ならこういう設定はありそうだが、現実では到底ありえないことがさっき起こっていた。
そうこう考えているうちにアルファと俺は、家へと戻ってきた。
そして自分の部屋へと向かった。
奏太「なぁ、アルファ」
アルファ「なに?」
奏太「説明……してくれないか、さっき起きたこと」
アルファ「……分かったわ」
俺の質問にアルファは素直にそう答えた。
あの時、狼のようなモンスターが現れた時に彼女は一瞬にして剣に変身した。
それが俺は特に気になっていた。
アルファ「私の事は妖精って言ったわよね?」
奏太「あぁ。 本当に妖精なのか?」
アルファ「……そうよ。 信じられないかもしれないけど、私は異世界からやってきた妖精。 アナタに会うためにこの世界に来た。」
奏太「剣に変身できたのは?」
アルファ「私が妖精だからよ。 妖精の力を使って剣に変身できたりこうして人の姿になれることができるの」
奏太「……」
俺は沈黙するしかなかった。
こんな可愛い姿をしている子が妖精でさっき剣に変身できたは妖精の力のおかげだっていうのか。
ここはゲームの世界じゃない、間違いなく現実世界だ。
俺は半信半疑で彼女の話を聞いていた。
アルファ「アナタは選ばれし者。 だから幻術を使えた。」
奏太「え? 幻術って?」
アルファ「幻術というのは50人の人間に1人の割合で持っているとされる隠された力よ。 でも大体の人は持っているのを気づかず死んでいくの。 」
奏太「俺はその50人のうちの1人ってわけか・・・」
彼女の話によると、幻術というのは俺たち人間はみんな必ず持っているとされる隠された力の事らしい。
だが、みんな持っていることを知らずに死んでいくらしい。
というか幻術って一体なんなんだろう、魔法みたいなものなのかな。
俺はそんな事を考えつつ彼女の話を聞いていた。
アルファ「でも普通は女の人以外は幻術を使うことはできないの」
奏太「え?」
アルファが言ったこの言葉で俺の頭は真っ白になった。
常人なら間違いなく俺と似たような反応をするだろう。
女の人以外は使えない……? ちょっとまて、俺は男だ。
自分で言うのはとても恥ずかしいがちゃんとアソコもついてるし、まだ童貞だ。
彼女? いるわけないだろう。
アルファ「だからアナタはかなり特別な存在よ。 まぁイレギュラーってところね」
奏太「お、おう。 でも俺の幻術って?」
アルファ「私と同期することで幻術が使えるようになるわ。 さっきの戦いで剣を持った時呼吸が乱れたでしょ?」
奏太「あぁ。 正直死ぬかと思った」
アルファ「あれは最初の同期だったから体が制御できなかったから起きたのよ」
どうやらアルファと同期することで俺は幻術を使えるようになるらしい。
あの時、剣を持った時に呼吸が速くなったりしたのは最初の同期だったからか。
ん? 待てよ? じゃあ体が軽くなったのは一体なんだったんだ?
あれも同期したらなるのか?
奏太「じゃあ体が軽くなったのは?」
アルファ「同期の影響ね……。 同期すると身体能力が飛躍的に上昇するわ。 でもこれは幻術を使っている時だけ……」
なるほど、そういうことだったのか。
どうやら幻術を使っている間(俺が彼女と同期してる間)は身体能力が上がるらしい。 体が妙に軽くなったのはそれが原因だ。
しかし、まだ信じることができない。 自分が幻術を使える事を。
でもさっきの狼みたいな奴を倒したのは俺で、剣を使って倒した。
それは間違いなく事実だ。
ん? じゃああの狼は一体なんだったんだ? 気になった俺は彼女に質問することにした。
奏太「じゃあさっきの狼はなんなんだ? 急に襲いかかってきたけど」
アルファ「・・あれは、幻獣。 神出鬼没のモンスターよ」
奏太「幻獣? なんだよそれ」
アルファ「大きな爆発音と共に異世界から現れるモンスターよ。」
奏太「……!? そうか!! さっきの爆発音は……!」
アルファ「……そう。 幻獣が現れたってこと。 まぁサインみたいなものね。 幻獣は幻術でのみ倒すことができるわ。」
奏太「なんで幻獣? ってやつが現れたんだ?」
アルファ「異世界の魔王がこの世界を滅ぼすために召喚させたモンスターよ。」
奏太「おいおい 魔王とかいるわけないだろ!? 嘘だろ?」
アルファ「奏太、これは現実よ。 だから私はこの世界を魔王から救うためにアナタの所に来たの。 アナタは男で幻術を使えるただ1人の幻術使いなのよ。」
奏太「……」
俺はアルファの話を聞いて沈黙してしまった。
異世界の魔王? 世界を滅ぼす? 俺が選ばれし者?
……いやいやいや、絶対ありえないだろ。
俺は学園に通うごく普通の学生で、最近日常が退屈だと思っていた。
そんな俺がこんなことに巻き込まれるなんて。
なぜだか俺は胸が締め付けられる思いだった。
奏太「魔王を倒さなかったらどうなるんだ?」
アルファ「この世界が滅ぶわ」
アルファの口から発されたその言葉が俺の胸に突き刺さった。
あぁ、こんなことになるならもっと退屈な日常を満喫しておくんだったな。
俺はふとそう思ったのだった。
奏太「本当に俺だけしかこの世界を救うやつはいないのか?」
アルファ「アナタしかいないの。」
俺しかいない……この世界を魔王から救えるのは俺だけ……
俺の顔に向けられるアルファのそのまなざしは嘘ではなく真実であるかのように語るとても真剣な目だった。そして俺は、決心をする。
奏太「……俺、魔王を倒すよ。」
アルファ「いいの!? 本当に?」
なぜかビックリした様子のアルファはそう言い放った。
俺も魔王とか、まだ完全には信じていないけど可愛い子にそんな風に頼られたらかっこつけたくなっちゃうだろ。
奏太「だって、俺しかいないんだろ? 怖いけど……やるよ」
アルファ「……奏太……ありがとう」
アルファの目は少し涙を浮かべていた。
その目を見て俺もなぜか泣きそうになった。
アルファ「じゃあ、私今日からここに住むね!」
奏太「は?」
アルファのその言葉に俺は咄嗟にそう反応してしまった。
こんな美少女と二人っきりで住むなんてまさに夢のようだった。
というかなぜか怖くなった。
奏太「(今は自分にできることをやろう)」
こうして俺は魔王を倒すことを決めた。
これから壮大な物語が始まることをこの時の俺は知る由もなかった。