表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロークアンディルテは檻の中  作者: 紺野 柚季
1・夢の中の彼女のお話(えせ童話風)
5/12

1_05:(怒り、悲しみ、)驚き、恐れ

 ぱちりと開いた目にうつるのは、少し傷んだ木が光に照らされたもので、ロッテは横になったまま、首を傾げました。

 むくり、と体を起こして周囲を見まわし、もう一度かくり、と首を傾げて、ああ、と思います。


「『魔法使い』の、おへや」


 そういえば、遊び疲れて眠ってしまったのでした。


 よく眠ったけれど、何故か少し、胸におもしをのせられているような、頭をしめつけるような、そんな妙な感覚に目を伏せ、ロッテはやっとベッドから降ります。

 とことこ、軽い足音を響かせて誰もいない廊下を通り、ドアを開いて外へと出ると、よく晴れた空が目に入ってきて、ロッテはほわぁ、とため息をつき、目を細めました。

 ぽかぽかと暖かい太陽の光が、何故だかとても懐かしくて、ロッテはしばらくじっと立っていたのですが、一人でいるのは何だか違う気がして、きょろきょろと知っている人を探します。

 右、左、ちょっと動いて、家の向こう側。

 森へと続く道の入口に、真っ黒な色を見つけて、ロッテは、ふらふら、ぱたぱた、とそちらへかけてゆきました。


「『勇者』」


 近付いて呼びかけると、『勇者』はめいっぱい目を見開いて、


「ロッテ!?」


叫びました。


「ちょっと、ここにいて! 居なくならないでね!」


 そう言って走り出す『勇者』の背を、ロッテは少し首を傾げて、見送ります。


「……大きい?」


 ロッテが小さく呟いた言葉は誰に届くこともありませんでした。



 * * *



「ロッテ!」


 『勇者』に言われた通りに森の入口でぽつりと立っていると、ばたばたと騒がしい足音と懐かしい声が聞こえてきました。

 そちらを向くと、鮮やかなピンク色と暗い灰色が目に入って、ロッテはぱぁっと表情を明るくしました。

 その後ろから走ってくる『勇者』の顔色は青くなっていたのですが、ロッテは気付きません。

 ぱたぱたと、三人の方へかけよります。

 手を伸ばせば届く距離まで近付いた頃、ロッテはやっと、『弓使い』と『魔法使い』の様子がいつもと違う事に気付きました。


「?? どうしたの?」


 ロッテは問います。

 けれど、今回に限っては、『魔法使い』も難しい顔で黙り込んだままで、ロッテは困惑してしまいました。


「ロッテ……」


 ゆらり、とでも言えばよいでしょうか。

 弱々しく、だけど、重苦しく、『弓使い』がロッテを呼んで、その距離を縮めます。

 『勇者』の制止も間に合いません。

 そして、『弓使い』はロッテの肩口の服を掴んで。


「あんた、三年もどこに行ってたの!? いきなりいなくなって! ……っ心配したのに!!」


 赤い顔で、泣きそうに、歯を食いしばって叫ばれた『弓使い』の言葉に、ロッテはただただ固まることしか出来ませんでした。



 * * *



 その日、『勇者』がなんとか『弓使い』を宥めて、その場で一度二人とは別れたロッテは『魔法使い』の部屋へ行くことになりました。

 離れる際、『弓使い』が嫌だとごねるなどの一悶着はありましたが、三年の間に『勇者』の宥めスキルも成長していたので、最後にはしぶしぶ、『勇者』に連れられて行ったのです。


 さて、見た事のない、『魔法使い』と『弓使い』の反応に、ロッテはおろおろと視線を彷徨わせながら、『魔法使い』のあとについて歩きます。


「ロッテ」


 『魔法使い』の部屋に入り、扉を閉めたところで、『魔法使い』はようやく、口を開きました。


「……おどろかせて、ごめんね。だけど、ぼくも『弓使い』も、それに『勇者』だって、きみのことを心配していたんだ」


 そう言われて、ロッテは、ぱちぱちと瞬きをしました。

 どうやら自分は驚いているようです。

 そして、みんなに、“心配”をかけてしまったのだと、そう学んだのは良かったのですが。


「……、……」


 ロッテはぱくぱくと何かを言おうとして、だけれど何を言えばいいのか分からなくて、結局口を閉じました。

 その姿に、『魔法使い』はいつものように困ったように小さく笑って、少し屈んでロッテの頭を撫でて言いました。


「ゆっくり、わかるようになればいいよ」



 『魔法使い』の手は、とても優しいものでしたが、その日の夜は少し複雑そうな顔をして、『魔法使い』の部屋だというのに、ロッテ一人を寝かせて、『魔法使い』はどこかへ行ってしまいました。


 目覚めた時よりも、より強く、寒さを感じる中。

 あっという間に落ちた眠りは、よく分からないものが渦巻いていて。

 翌朝、十分暖かいはずの室内で、ロッテはぎゅっと、震える自分の体を抱きしめました。



2015/01/15 投稿


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ