1_04:鳥籠のお姫様のお話・2
鳥籠の中の彼女は、黒の中でぼんやりと座っていました。
音も、温度も、色彩もない場所で、ひどくゆっくりと、時間だけが過ぎてゆく中。
不意に、暗幕の向こう側から、カツン、カツンと何かが近付いてくる音が響きます。
カツン、カツン。
カツカツ、カツ、コツ。
その何かは、鳥籠に向かってまっすぐ近付き、暗幕の前で立ち止まったようでした。
『***』
何かは何かを口にしました。
ですが、彼女には分かりません。
いえ、正確に言えば、“知っていたけれど、分からなくなってしまっていた”のです。
『***、*************、******』
なおも聞こえる音に、彼女はなんの反応も返すことなく、ただただぼうっと宙を眺め続けます。
やがて、何かが苛立ったように暗幕の中に入って来ても、彼女は身じろぎひとつしませんでした。
* * *
鳥籠の内側、彼女に唯一与えられた場所。
静寂の中に入り込んできた異物は、それから長い時間、苛々と、好き勝手に暴れてゆきました。
衝撃、反動、衝突。
振り上げられたものが振り下ろされて。
体には確かに何かが触れているのに、彼女の感覚はどこかに置き去りにされたままで、他に何を感じることもありません。
与えられる、分からない行為の中、彼女は微かに首を傾げて。
ああ、ここには、くすぐったいようなあの感覚は有り得ないのだと。
ただそれだけを、ようやく、ほんの少しだけ、分かったのです。
それがどこにあったのかは、分からないまま。
2015/01/15 投稿