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ロークアンディルテは檻の中  作者: 紺野 柚季
1・夢の中の彼女のお話(えせ童話風)
11/12

1_11:自負心、幸福感

 ふ、と浮かび上がった感覚に、ロッテはそっと瞼を開きました。


 目に映るのは、懐かしいのどかな町の風景でも、賑やかで活気に溢れた鮮やかな異国の町でもなく、初めて見るけれど、とてもよく知っている景色でした。


 かつては繊細な細工の施されていた内装は傷み、ボロボロになって、所々に赤黒いものがこびりついています。

 その跡は、ロッテの記憶の中にあるものと一致して、少し、ほんの少しだけ、俯き、目を伏せました。


 息を吸って、吐いて。

 やがて、頭を振って、記憶を振り払ったロッテは、顔をあげて目を閉じ、意識を集中させます。

 もうこの城の中に『勇者』達が入ってきているのは分かっていました。

 そうでなければ、ロッテが今この場にいる事も無いのです。


――大丈夫。出来る。


 声に出さずに、口の動きだけで、そう唱えます。


 だって、彼女達は、このために頑張ってくれていたのです。

 今日この日、やっと解放される事を願って、夢見て、そうやって、犠牲になっていったのです。

 もう彼女達が一人も残っていない事は、嫌でも分かってしまいました。

 昔々の、とても大切だったものは、本当の本当に、何もなくなってしまったのです。

 それでも、ロッテは、悲しみに囚われている場合ではありませんでした。


 だってだって。

 “鳥籠の中のお姫様”(わたし)を助け出す事が、ロッテに与えられた役割だったからです。


「……あっち」


 目を開いて、探していた人の元へ急ぎます。

 あれだけ靄がかかっていた思考は、驚くほどに鮮明になっていました。



 * * *



 走って走って、やっと辿り着いたのは、“鳥籠”へとつながる階段の前でした。


 その前に立つ姿に、ロッテは泣きそうなくらいの喜びを感じます。


 ひどく重苦しくて陰鬱な、曇天の雲みたいな色の髪。

 暗い、闇黒(あんこく)を写し取ったような、深い深い蒼の瞳。

 体を覆う真っ黒なマントに、全身から放たれている、刺々しい雰囲気。

 指先一つで操る、不可思議で強力な現象――魔法。

 その全部が、彼を冷たくて恐ろしい、人ではない何かに思わせて、周りの人を遠ざけるけれど。


 “勇者”は堂々とこう言っていました。

 彼が、自らの味方であると。


 “弓使い”は知っています。

 彼が、いつだって自分達を守ってくれていると。


 “剣士”は口には出しませんが、他の二人よりも深く理解しています。

 彼が、誰よりも努力して、今の力を手に入れたということを。


 ロッテ(わたし)はもうちゃんと、知っているのです。

 彼の優しさを、温かさを、その強さの全てを。


 “私達”は知っています。

 彼は冷たくなんてない。

 ただ、感情を表すのが苦手なだけの。


 “魔法使い”で、“仲間”で、大切な、“幼馴染み”だということを。


 だから。


「『魔法使い』!」


 険しい表情に少しだけ驚きを混ぜた彼に駆け寄って。


「ずっと、待ってたの」


 そうして、『魔法使い』を案内するように、ロッテは階段へと迷いなく足を踏み出しました。



 * * *



 『魔法使い』の作り出した光が周囲を淡く照らす中、ロッテは、人形のようにぼんやりとした自分を包むように、暖かな光となって、少しずつ解けてゆきます。


 光が視界を覆い尽くして、懐かしい自分の姿も、大好きな彼の姿も霞んでいく中、ロッテは心の底から嬉しそうに、笑みを浮かべていました。


 やっと、やっと。

 願いが、叶ったのです。


 最後までみんなの名前をちゃんと呼べなかったのは、心残りだけれど。


 ああ、願わくば。

 ほんの少しだけでもいいから、どうか。

 今すぐに、お姫様(わたし)がロッテ(わたし)を得てくれますように。

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