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ロークアンディルテは檻の中  作者: 紺野 柚季
1・夢の中の彼女のお話(えせ童話風)
10/12

1_10:》省略、バッドエンドとノーマルエンドと、それで終わらせられない彼による強制リドゥ

1:


 今は亡き国のお姫様、ロークアンディルテ。

 彼女の国も家族も大切な者達も、全てを破壊しつくし、そして彼女の心を壊して人形にした魔王は、何の反応も返さない彼女に飽き、彼女を他国への侵略の際の仮初の旗頭として使いだしました。


 表情も意思も抜け落ち、魔性の美しさだけを持った、“姫”というお人形。


 限られた者の前にのみその姿を晒し、祝福を授けるという彼女に、魔王の軍勢は大いに士気を高め、侵略は勢いを増していきました。

 広がる惨劇と共に、意図された“姫”の噂も広がり続け、そして――



 魔王が勇者によって討たれた、そのひと月後。

 大勢の“被害者”達の声によって決まった、“姫”の公開処刑の日。



 処刑台の上に立たされた、ロークアンディルテは檻の中。

 眼下に集まった人達の憎しみを、一身に受けて。

 永遠の檻に囚われるその直前、涙を一筋流しましたとさ。




1.5:


「めでたし、めでたし――とは、いかないんだよなあ、これ」


 神聖な雰囲気の遺跡の中、ぽっかりと開いた空間の真ん中で、青年はぽりぽりと頭をかいて言いました。


「というか、思いっきり胸糞悪い……」


 溜め息を吐いて見上げた空は青く澄み渡っています。

 青年が、先程まで見ていた光景との落差に、思わず遠い目をしてしまうほどに。


 さて。

 目頭を揉みこむ青年の前、華奢な台に据えられた水盆が映しているのは、遠い場所にある、青年にとって大切な()の一つです。

 青年の求めるもののためには、いくつもの歯車を上手く噛み合わせなければならないのですが、その作業が青年はとてつもなく苦手でした。

 しかし、苦手だからといって、今更やめる訳にはいきません。


「あー……。どうしようか」


 ほんの少し痛み始めた腹部をさすりながら、青年は水盆の上で指を滑らせ、しばらく悩んでから、その指先を浅く水面に沈ませました。

 淡く光を放ち始める水面。

 それによし、と頷いて、青年はすぐに引き抜いた指から水を払います。

 そして水盆を覗き込んで――顔を蒼褪めさせました。


 波紋の広がる、水面の向こう。

 確かに向けられている、射抜くような強い視線。


「……え、もしかして…………気付かれた?」


 青年は深淵を覗いてしまったような感覚に、冷や汗を流しました。




2:


 今は亡き国のお姫様、ロークアンディルテ。

 彼女の国も家族も大切な者達も、全てを破壊しつくし、そして彼女の心を壊して人形にした魔王は、何の反応も返さない彼女に飽き、彼女を他国への侵略の際の仮初の旗頭として使おうと決めました。


 表情も意思も抜け落ち、魔性の美しさだけを持った、“姫”というお人形。


 限られた者の前にのみその姿を晒し、祝福を授けるという彼女に、魔王軍の大多数は大いに士気を高めましたが、突然の決定を疑問に思う者や、“姫”の存在を面白く思わない者もいました。

 そして、彼女の初舞台の日。

 微かな揺らぎを内包した魔王軍は、侵略の標的となった国との戦いの途中、突然現れた勇者達によって、瞬く間に追い落とされました。

 そして、半月後。

 世界中に“魔王”であると認定された魔王の城は、各国の連合軍に包囲され、一日の内に落とされたのです。


 時間さえあれば、“姫”は稀代の悪女と呼ばれていたでしょう。

 ですが、今の彼女は、怪しくはあれど、いきなり現れた、素性の分からない美しい女性でしかありませんでした。


 それでも。

 魔王の隣に座らせられていた彼女を、何の咎も無しに開放する事は出来ません。

 本当に何もしていないと、誰も証明できないのですから。


 そうして。

 勇者の言葉も空しく、彼女は薄暗い、けれど、冷たくない牢に閉じ込められてしまいました。



 ロークアンディルテは檻の中。

 日毎に弱っていく感覚に、膝を抱えて。

 けれど彼女は、静かに微笑んでいましたとさ。




2.5:


「うーわー、まさかとは思ってたけど! 思ってたけど!」


 まじで来た!と騒ぐ青年に、魔法使いは問いました。


「……貴方ですよね? “あれ”」

「うー、あー、まあ、はい、そうです」


 本来、今この場で一番力を持っているのは青年なのですが、魔法使いの目つきが怖すぎたのでつい敬語で返してしまいました。

 しかし、いつもよりも余裕が無く苛々しているとはいえ、魔法使いは青年に対して怒っている訳ではないので、構わずに続けます。


「もう一回」

「……え?」


 魔法使いの言葉に、青年は問い返します。

 ふざけている訳ではありません。

 魔法使いが怖すぎて、現実に戻るのに少し時間がかかったからです。


「もう一回」

「……んん?」


 もう一度繰り返された言葉に、青年はまたもや問い返します。

 一応言っておきますが、これもふざけている訳ではありません。

 久し振りに他の人間と会話をしているという事実に、青年の頭はフリーズ寸前だったからです。


「その耳は飾りなんですか節穴なんですか腐り落ちているんじゃないですかもう一回と言っているんですが」

「うっわあ、めっちゃ酷いこと言うね君! 初対面なのに!」

「こっちは他に手がないんです。そんなこと気にしていられないので」


 半泣きで返す青年でしたが、まあ自業自得でしょう。

 基本的に遺跡に引き籠もって暇を持て余さざるを得ない青年と違って、魔法使いは“今”、“すぐに”、行動を起こさなければならないからです。

 この空間と青年の力について、魔法使いは何一つ知りませんでしたが、本能的にその制約を察知できるからこそ、ここに来られたのでしょう。


「……はあ」


 青年は一つ、深く息を吐いて。

 目の前の、いわば同志――対象は違いますが――である魔法使いを見据え、口を開きます。

 その姿に、先程までのヘタレさは微塵も見られません。


「まあね、こちらとしてもさ。この結末じゃあ、ちょっとこれからが厳しい気もしてたし。やるけど……」


 そこで一度、僅かに言い淀んで。




「ねえ。これから先、彼女との未来の中で、君は――」


 青年の問いに、魔法使いは目を瞠って。


「当たり前です」


 そして、すぐさま返された答えに、青年は困ったように、けれど、どこか安心したように、笑みを浮かべました。


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