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乙女ゲーム世界転生って脇役や悪役主人公が定番でヒロインなんてアンチされるよね

起業 ニキビ跡 Tシャツ オリジナル インターネット接続 貯金 ペニーオークション 英語教材 バイク ホンダ

 地にあふれるのは血と人間だったものの肉塊。

 すえた臭いにたかる蠅の羽音。早くも血の臭いを感じてかカラスのような生き物が集まってきている。



 呆然としているお姫様は泥の中に膝をついて、かつての従者だった者たちを眺めている。



 涙を流す瞳はかれ、嗚咽をもらす喉は動かない。

 私たち? 当然吐いて吐いて吐きまくったわ。

 どこの世の中にゲロ吐くヒロインがいるのかしら。まったく。



「ひろ……いん? 誰が?」

「悪い? わたしよわたし」



 『ニキビ跡』目立つ彼の服装は〝めっちゃがんばれ”と描かれた『オリジナル』『Tシャツ』と短パン。運動用のタイツに汗吸いの長袖。

 インチキ『ペニーオークション』で芸能人がゲットしたというスニーカー。


 対する私は『英語教材』を指示棒代わりに振り回して事情を説明する。

 呆れる彼に洒落にならない私の境遇を説明せねばならない。



 私たちの住む世界は『ヤンデレ系乙女ゲームの世界』であり、私はそのゲーム世界のヒロインであると。


 ……その目は辞めて。



「別に頭うったわけじゃなくて事実だからね?! そして私の大好きな義兄あにはそのゲームの攻略対象。ただし特殊エンディング限定になる」

「よくわからないけどいいお兄さんなのね」



 そう。我が優しい兄はヤンデレなヒーローどもからその身を削って私を守ってくれる特殊キャラである。



「がっ?! ハーレムエンドをこじらせるとヒーローどもを様々な病んだ手段で皆殺しにした挙句、ヒロイン(つまり私だ)をレ〇プして殺すというバットエンドが用意されている。

 そして、私は彼と曲りなりに結ばれるエンディングはそれしかない?!」

「そう。進学校だの神学校より病院をお勧めするよ」



 お分かりだろうか。

 私が神学校に入っていたら敬愛する義兄に犯されるか、ヤンデレどもに付きまとわれるかの二択なのだ。


「いくら義兄が大好きだって犯されるのはあり得ない!

 私だって乙女なのだ。もっと優しく盛り上げてほしい!」

「……君もどう考えてもブラコンだよ」


 まぁ。ヤンデレ攻略対象どもに関わったらそんなことは望めないのだが。


「だれだよ?! こんなゲームを好んでプレイする変態女は?!」

「キミの言っている事の半分も理解できないけどそういう女性向けえっちなゲームのシナリオについては、実際に犯されるのは嫌でもというか程度の大小はさておき、『美形の異性の思うがままになりたい』という妄想という形ならば好きという人間は少なからず存在するらしいけど」



 色々あるが多少の理解を示してくれるようになった彼に今までの周回の苦労を語る私。



「『起業』して逃げようと思ったくらいなのよ」

「どこの乙女ゲーム世界に己の役割を放棄して逃げるヒロインがいるのさ」



 名前もないモブの僕からすればうらやましい限りだってのにと彼。

 彼曰く、「確かに自分にも名前で呼ばれた記憶がないから案外この世界はゲームかもね」とのこと。納得してくれた! 同士よ!



「名前が無いって?! 私だってデフォルトネームしかないわよ?! それってないより厄介よ?! だって毎回自分の名前を憶えないといけないじゃない?!」

「それは盲点」


 わかった? まだまだ苦難はあるわよ!?


「『貯金』だって毎回リセットされるのよ?!」

「うわ。それはエンディング前は浪費するべきだね」


「もう『インターネット』接続しまくって買いあさりよ」

「ははは」



「『ホンダ』の『バイク』を買って神学校を暴走してもリセットされるのよ。盗んだバイクで走りだすじゃすまないわ」

「ひど」



 おばかなやり取りをやっている私たち。

 そんな中でも死体をまとめて穴掘って埋めている。



 お姫様は気丈にも手伝おうとしてくれるのだが非力だし要領は悪いしで役には立たない。


 ちなみにスコップの類は一瞬だけコンタクトを外して工事現場のおっちゃんの道具をパクった。

 私たちが操る……すごい勢いで凍った地面を削岩していくドリルを見て、お姫様は引いていた。


「パイルバンカー!!」


 いやぁ。

 これ、癖になるかも。頭揺れすぎるけど。

 そういってハイテンションになりながら私と彼は地面に穴を開けまくって死体だかミンチだかわからないものを突っ込んで、あるいは蹴りこんで処理。

 この世界の弔いなんてわからないから『なんまいだ~!』。



 そして、彼女にちょっと手を振ると、私はカレの手を握っておもむろにコンタクトレンズを付けた。



 うん。元の道だ。


『消えた?! 道具が消えた?!』


 ……とか言ってたおっちゃんは手元に道具を見つけて『おっかしいな』とか言ってる。ふふふ。面白い。



 彼と連絡先を交換し別れた私は自転車に乗って学校に向かう。



 あれ?

 なぜか異常にペダルが重いんだけど、なぜ?



「凄いです。これは天使の翼ですか?」

「なっ?!」



 先ほど異世界にいたお姫さまだった。

 私の能力って触れていないと移動できないのだけど、相手が私の服とかに捕まっている場合その限りではない。



「あんた降りなさいよ?! 学校に遅れちゃう?!」

「供のものを弔ってくれたあなたたちにお礼をしなければいけません!」


「だったら降りんかぁああああああああっ?!」



 私と彼の冒険は、始まったばかりである。

 あ。もう一人邪魔な足手まといも。ね♪



「このパンはとても美味しいですね。甘いです」

「私の昼ご飯のクリームパン?! 殺す!? あんた死ね?!」

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