巻き込まれ召喚って『やれやれ』系ダウナー主人公の基本だよね
一人暮らし、英語教材、体脂肪、ニキビケア、就職、ダイエット法、通信、高校、ピラティス
さて。事情を説明せねばならない。
ワケあって『一人暮らし』をしながら『体脂肪』や『ニキビケア』『ピラティス』に励みつつ、『ダイエット法』やたまに思い出したように『英語教材』を試し、『通信』『高校』に通う私は別段『就職』したわけでもないどこにでもいる女子高生である。
そんな私だがコンタクトレンズを外した瞬間別世界に転移する能力を得た。
そういうわけで小遣い稼ぎにこの男を異世界に連れ込んだ次第である。
拉致とも言うわ。
私は事情を簡略に彼に説明し、襲われている馬車に向けて彼の背を叩く。
「さぁ! 働け我らのチート主人公! 君の力であのお嬢様を救い出すのだ!」
「えっ?! えっ?! ええっ???!」
ランニングシャツに短パンの高校生はそんな私の発破を無視して泣き出しそうだ。
「早く行け! 間に合わなくなっても知らんぞ~~!」
餓鬼族どもはサル並のパワーを持っていて、サルほど素早くはないけど小柄な体を活かした回避能力と圧倒的な力任せで護衛をなぎ倒している。
「あんな毛のないサルに陸上部の僕が勝てるわけないだろ!?」
「成せばなる! お前は金がいらんのか?!」
つばを飛ばして罵り合う私たちの近くに血の臭いが近づく。
「うが」
「……」「……」
さわやかな笑みを浮かべている餓鬼族A。
彼の手には錆だらけ。ウンコの臭いのする剣だったものがガッチリ。
左手には彼の今日のお弁当らしい人間の生首がって?! ホラーよね?!
「逃げよう」
「異議なし」
私たちは全力ダッシュで逃げる。
お姫様を助ける? まさか。できるわけない。
「これって死ねるほどダイエットできるよね!」
「ピラティスでもやってろよ?!」
汗が吹き出すが、額と背中からは冷たい汗。ぐんぐん近づく餓鬼族の悪臭。
「なんか数増えていない?!」
「たぶん、護衛の人を倒して次は僕らなんだろ」
ひきつった笑みを浮かべてしまっているのが自分でもわかる。
となりで走る彼の笑みがある種の皮肉じみているからだが。
「良かったな! 体脂肪をみんな食べてくれるぞ!」
「私は言うほど体脂肪はないわ?! こっちの陸上部のお兄さんは身がしまっていて美味しいよ?!」
必死で身振り手振りで後ろを走る餓鬼族さんにアッピルする私。彼もすかさず反論する。
「陸上部の人間に脂肪をつける余裕などない! こっちの娘さんのほうがおいしいぞ?!」
後で気が付いたことだがこの周りに広場はここしかない。
つまり、私たちは広場のど真ん中に停まった馬車の周りをグルグル回ってすべての餓鬼族の意識をひきつけていたらしい。
普通、サルなら前に回り込む、横から襲うなどの措置をとって獲物を逃がさないものだが、餓鬼族たちは律儀にも全員後ろから私たちを追った。
グルグルグルグル。私たちバターになっちゃうよ!?
「ちび〇ろサンボだね!」
「ラ〇ダー大車輪かもしれないわ!」
意味なくマニアックな会話をする私たち。
律儀にそれを追う餓鬼族の皆様。
間一髪で剣を振り上げていた餓鬼族が楽しそうな追いかけっこに参戦して命拾い。呆然とそれを見守るお姫様。
「というか、助けてぇ?!」
「僕が言いたい!」
さんざんクルクルクルクル回って遊び狂った餓鬼族は、戦利品(死骸)を手に機嫌よく巣に戻っていった。
餓鬼族。……あいつら、その。独特の感性があるのね。餓鬼だけに遊び心があるのかも。
「というか、コンタクトはめばいいのよね」
「なにそれ?」
あんな状況でコンタクトなんてつけられないだろうけど。次からこいつを盾に自分だけ帰還できるよう努力しよう。