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ヤンデレ乙女ゲームの主人公だけどコンタクトレンズを外すとVRMMO風異世界に飛んだ  作者: 鴉野 兄貴
学生生活って一度しかない。なんていうのは普通の人の話である

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閑話 迎えにきたよ!

占い スキンケア レンタルサーバー 大学受験 高収入 パソコン 激安 ブルーベリー 恋愛

 ある少女のお話


 私は今が気に入らない。

 通信制高校なんてのに在籍しているけど一度も行ったこともないし課題も出したことはない。


 両親に無理やり連れだされて出席した始業式は自由参加だった。

 なんか変な人がいっぱいいたなとか思っていたけど関係ない。『大学受験』しなきゃと母は言うけどここまで追い込んだのはアンタたちだ。



 こうやって小さな部屋に鍵をかけ、扉の前に出された食べ物をむさぼり、捨てる。

 朝が来ていつの間にか夜になっている。

 苛められた記憶がぐるぐる。いつの間にか眠るといじめっ子たちと仲良く遊んでいる嫌な夢に吐き気を感じてまた眠る。



 『レンタルサーバー』『激安』。


 『パソコン』の広告を閉じて一瞬画面に浮かんだ自分の顔にしかめづら。


 鏡なんてずいぶん見ていないし、きっとひどい顔になっているのだろう。

 おなかだって西洋梨状態だし。『スキンケア』だってしていない。



「今日はラッキーディ。『高収入』のチャンスあり」



 『占い』はそう言っているけどトイレ以外に外に出る気はない。

 そういえばお風呂はいつ入ったっけ。



 『ブルーベリー』ジャムをトーストに載せて齧る。ぽたぼたと膝に落ちて手を汚すけどどうでもいい。寝る。そのうち落ちる。


 ペタペタのキーボードは気持ち悪いけど慣れた。

 オンライン『恋愛』ゲームを起動する。最後に恋愛なんていつしたっけ。



「こんにちは。素敵な姫君」



 窓がひらいてこんにちは。

 超絶イケメンさんが目の前にいました。



「あなたの心を盗みに来たピーターパンです」



 ぽかんとなる私の胸元に風がびゅうびゅう。秋風だ。



「離せ怪盗エーロスめ。貴様の悪事もここまでだ」

「おのれ抗魔貴族ゴールドめ」



 私の目の前でチャンバラをはじめる二人。なぜかその剣はスポンジ製。



「こら、騒ぐな。落ちるぞ」


 って、ここってマンションの高層階だよね?!



 ……見下ろすと金色の何かが下を浮遊している。全貌はわからない。大きすぎる。

 エーロスと名乗った眼だけを隠すマスクのイケメンさんと貴族みたいな恰好のイケメンさんが窓伝いに入ってくると、同じく女の子たちがぞろぞろ。

 金色の何かが浮遊して離れ、全体像が見えてくる。そこでまた絶句。



「……竜?!」

「ああ。アレ、ラーズさんっていうの。よろしく」


 眼鏡の女の子が告げる。


「あなた、退学になるっていうじゃない。私市子。よろしく」


 現実味のない光景の連続で思考を放棄していた私は彼女の手を取って凄い美人さんだと思った。

 ああ。この姿が恥ずかしい。同じ女の子なのに。それもあいつらのせいで。



「行こうよ。学校に」

「迎えに行かないと単位を落とすって先生に言われた」


「それ、私に関係ない」

「なによ」

「なにさ。勝手なこと言うな」


 こんなポンポンと悪口を言い合える人間っていなかったな。不思議な子。


「そりゃそうよ。私はコンタクトレンズをつけ外しすると魔法が使えるもの」

「??? ……なにそれなんの冗談?」



 彼女はまじめぶってこたえる。


「世界を変える魔法よ」


 そういって唇に指先を添える。


「いこっ!」

 手を引かれて私の身体が重力から逃れる。

「えっ?! ここ高層階?!」


「ひゃっはー! ゴールドよろしくッ?!」


「ちょ?! 麗しの姫君?!」


「追えゴールド!」

「言われるまでもなく!」


 あのイケメンさんたちって自分たちが仲良くするために私たち使っていない?!

 そう思っているとゴールドと名乗った貴族みたいな子が腕時計を取り出して「出でよゴールドカー!」と叫ぶ。


 きらりと空が光って翼の生えた車がすっ飛んできて。もうダメ。頭がパンクする。

 これは夢だ。最大級の悪夢だ。私の意識はそこで途絶えた。



 寒い。


 身を起こすと分厚い毛布。誰かの肌の暖かさ。

 ぶわっ ぶわっ 定期的に大きなものが動く音と振動。



「あ。目覚めた」

「驚かせてごめんね。こいついつもそうで」



 女の子たちと私は一緒の毛布に入っていた。お姫様みたいな女の子が「ひいちゃんに触らないでください」とか言ってきた。なによ。こいつ。



 空。曇っていたのに。

 大きな大きな満月の下。風を受けて私たちは飛んで……飛んでいる?!



「これ、あの夢の中の金色の竜さん?」

「その通りですよ」


 紳士的な声が足元でとどろく。いや、脳みそに直接だ。



「あ。このドラゴンさんはラーズさんっていうの」

「ラーズ様です」



 ……どらごん。どらごん……なにそれ。

 傍らでは羽の生えたロールスロイスみたいな車が平行にとんでいる。

 これ、絶対夢。



 私はブルベリージャムの臭いのしみ込んだ指を軽くしゃぶると、毛布のぬくもりにもう一度目を閉じた。



 目が覚めた先は、テスト会場だったが。

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