ゲームものの『修正力』ってわけわからない
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……無理だッ?!
「おっちゃん」
「うん?」
私が震えているのに気付いたのか、組長は案外優しかった。
しゃがみ、私の肩に触れる。びくんと震える私に優しい目。
ヤンデレどもより悪行を重ねているはずである。彼は。
ついでに言えば女性に対してもたぶんもっとひどいことをしていると思うのだが。
……スカートの奥が見えて、白いショーツから世にもおぞましいものが一瞬はみ出て見えるのですべて台無しである。
「ああ。いかんいかん。水泳用のサポーターを下に穿いているのだが」
組長……。
「あんた、ちょっとその恰好はないと思うよ」
「お前さんだってセーラー服だろうが」
悪態をつきあうおばちゃんと組長。どちらもセーラー服。
「……神様っていないの? ひどすぎるよ。異世界に来たのにここも酷いじゃない。あのお姫様も私みたいに酷い目にあうの? 困っている子を助けてくれないの? 異世界にも神様はいないの?」
「いるんじゃね? 便所で尻を拭くのに使える」
ひょうひょうと答える彼に私は肩を抱きながら問う。
「寒いなら『温泉宿』にでもとまるといいな」
「寒くないもん」
肩をすくめる彼。一瞬下から伸びる剛毛腹が見えた。汚物である。
「お姫様。可哀想」
「だが、俺らに何かをさせようとするのは筋違いだな。基本的に俺たちのことは俺たちが解決する。あちらさんのことはあちらさんで解決するのが筋ってもんだろ」
ヤクザだけに筋は通すのがポリシーらしい組長に『可哀想だろ』とつっかかるおばちゃん。
「信頼している人の記憶が変わって敵になったり、あちこちで魔物に襲われたり」
「まぁ厄介な奴に狙われているって状況は理解したが、俺たちが『コンサルティング』するにはちょっとな」
「そういえばあの黒ローブ、今頃『就職サイト』でも見ているのかね。『パソコン』で」
軽口をたたくおばちゃん。
「ついつい別のサイト見ちゃうんだよね」
「わかるわかる。『ペニーオークション』とかちょっと入会しかけたもの。詐欺でなければあの『価格』はありえないけどさ」
「『起業』した奴はシノギのセンスが少しはあるが、脇が甘えな」
「だねえ。でも『ノートパソコン』のいいのがほしいから今度流出品頂戴ね。組長」
なんか市子まで会話に参加しているし。
こうしてわかったことは彼らは私を慰めようとしてくれているということだ。
「これ、すごくオイシイです。もっとください。もっともっと」
「もう『ブルーベリー』味ガムはない」
「ええっ?!」
陸上部の彼に対して天然なセリフを吐くお姫様に失笑する私。
わたしたちが彼女に同情している間に彼女はすっかり餌付けされていた。
……この子、強いなぁ。私も頑張らないといけないな。
「ね。市子」
私は親友に問う。
「今回の騒動、修正力のせいかな」
元のヤンデレゲームの設定世界に戻そうとする『世界』そのものの圧力が強力なのは私も市子も知っている。
「そうかもね。そしてこの世界もそう。お姫様には一種の修正力が働いている。そう考えるのはまだ結論を出すには早すぎるけどね」
私は彼女の尻を強くたたいた。
「ありがとう。今度も助けてくれるよね」
「なにするのよ。セクハラ?」
ぶうたれる彼女に笑う。
「是非もなく、助けてあげるわよ」
今度は反撃。背中に受けた衝撃に咳き込む私だった。