異世界の物品が世界の法則から外れた強力な武器になるなら逆もまた真なりだよね
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……今日は多いなッ?!
「死んでください」
黒ローブのそいつは確実に不穏なセリフを吐いた。
それは私たちが普段時々吐く悪態のそれではなく、間違いない本物の殺意をこめたそれで。
私がバットエンドを迎えるときに向けられるそれは。
「いやだ」
涙が出る。
誰も聞いてくれない。誰も助けてくれない。
力づくで腕を握られ、ひどい目に遭わされて最後は殺されて。
「ぱん」
頬をはたかれた。
「しっかりおし。向うが神様ならあたしゃ女王様だ」
おばちゃんが笑いかけてくれる。
お空を床にして座り込む私と励ます彼女を黒ローブは小首を傾げてみている。その口元が嫌らしい。
「『通信』『高校』のいたいけな女子高生二人を捕まえて殺すなんて穏やかじゃないわね」
「女子高生? おまえがか?」
大袈裟なポーズで驚く黒ローブは嘲りを全身で表現している。
黒ローブの嘲りを意に介さずおばちゃんは鉄扇を手に呟く。
「うっさいよ。中退したんだから。若いころの過ちさ」
おばちゃんはそうつぶやくと私をはたくように背後に。
がくがくと震えが止まらなくて、涙が止まらない私。
「その年でセーラー服はちょっと」
悔しいけど同意する。黒ローブさん。
「還暦過ぎのおっさんだって着ているわッ。
てか、私の友達の市子ちゃんが『インターネット』『オークション』でカッコいい『オリジナル』『Tシャツ』を売ってるわよ。その品のないローブよりいいんじゃない?!」
悪態を返すおばちゃんの鉄扇が少し震えているのがわかった。
本当は彼女だって怖いのだ。それでも気丈に私の前に立つ。
「中卒で『就職活動』したり、今の旦那に『恋愛』して告白するよか怖かないわ」
しっかりおしと背中で笑う彼女。
彼女の鉄扇には先日ドラゴンに致命的ダメージを与えた『航空券』が張り付いている。
「市子ちゃんの仮説だと、あんたたちは異世界の物品がお嫌いみたいだね」
ちゃっちゃとすませると宣言して彼女は鉄扇を振り上げるが、相手は意に介さない。
そのまま振り下ろした鉄扇はしかし黒ローブの持つ小さな木切れに防がれ、消滅した。
その際、じゅっという音と焦げた臭いとともに魔法陣のようなものが描かれたが。
「えっ?」
戸惑き恐怖の色を浮かべるおばちゃんに嘲る黒ローブ。
「その理屈なら、あっちの世界の物品を用いれば貴様らを殲滅するのは簡単だということだろう?」
笑う黒ローブに理不尽を責める私たち。
「ドラゴンだって『航空券』やモップで倒せるのに?!」
「逆を言えば、『通信』『高校』生を二人殺すのには異世界の木切れで充分だということだ」
ついでに言うと私は"こちら"の世界の人間だぞと嘲笑う奴に息を呑む私たち。
つまり、鉄の扇はただの鉄の扇。武器に過ぎない。
「この空間は、"時をとめる"効果のほかに、あちらの世界の法則を安定させる効果もあるのだよ?」
小さな木切れが致命的な武器と知っておびえる私たちに歩み寄るヤツ。
「そこまで! ……大丈夫?」
市子の声が聞こえる。幻聴が聞こえるみたい。
「『インターネット』『接続』! 転送する!」
びきびきと空間が裂けた。
「おいっ?! 大丈夫かッ?!」
叫ぶが早いがクラウチングスタートを切って飛び出したのはあの陸上部の彼。
低空から頭突き気味に突っ込んだ彼。敵はたまらず木切れを放り投げる。
裂け目の中から『中古車』が飛び出す。
剣を持った先生が踊りだし、お姫様が呪文を唱えだす。
「つまり、この世界では私の呪文が強力な効果を発揮するということですよねッ?!」
大した術は使えませんがと前置きして彼女は実に小さな火の玉を放つ。
その炎を剣に受けた先生がニヤリ。
「『魔力付与!』確かに受け取った!」
先生! あなたの周りの世界だけヒロイックファンタジーです!
「『就職』先は選ぼうなッ?! 今日日は雇ってもらえるだけうれしくて選ぶに選べないけどなッ?!」
形勢逆転。おばちゃんが調子に乗る。小声で何事か悪態をつく市子。
「仕方ないな。今回は見逃してやろう」
そういって消えようとする奴。
逃がすか。私はコンタクトレンズを外そうとするが慌てていて外せない。
私がレンズを外した時には例のお城の中にいた。
軽率な行動を咎められたけど、私とおばちゃんは舌を出し合っていた。
「結果オーライじゃない? だよね」
「そうよね」
市子はにっこり微笑んでくれた。
……正座は。すごく痛いです。