朝のアラーム
朝。
カーテンで仕切られた窓から、薄く朝日が差しこむ。
ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
デジタル時計が六時十五分を電子音で伝え始める。
ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ
音の鳴る感覚が狭くなっていく。
「おい早く起きろよ」と言われているようだ。
ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピピ バチンッッ
「ん"ー……」
しつこく起きろと鳴る時計を乱暴に止め、俺は伸びをする。
起き上がった俺は、また夢の中に引きずり込もうとする布団を蹴りあげた。バサッと結構遠くに飛んだな……まあいいや。
「ふぁぁあ…………さて、起きるか……」
わしゃわしゃと頭を掻きつつ、時計を持って俺は立ち上がった。
と、聞こえたのは母さんの声。
「渉ー! 起きなさーい!」
「起きてる! 今行くからー」
返事をして俺は部屋のドアを開ける。
さぁて、今日も目一杯、楽しみますか!!
++++++ ++++++ ++++++
「……はぁ、旨い……」
目の前には、焼き鮭と白米、ほうれん草のおひたしに、味噌汁。
これぞ純・和風、といったような朝食が並んでいた。
俺は佐内渉。ごくごく普通の家庭で育った日本男子である。
言っておくが、ハーレム作ってもなければ鈍感でもなく、なにか常人離れした力も持ってないからな。
憧れたりはするけど。
そうだ、朝食食べてる間に俺の居るところの説明をしようか。
俺が住んでいるここ、長野県にあるS町は、山に囲まれ、四季折々桜や楓がきれいな――――――――
――――――――ド田舎である。
他の市とかに住んだことねえけど、一番近いスーパーまで一キロ弱あるってひどくねえか!?
俺の楽園の書店はニキロ弱離れてやがるし…………。
まあ、そんな感じのド田舎なんだ。
そして俺は、S町町立S中学校に通う三年だ。
制服がダサいのが玉にキズ。それ以外はまあまあいい学校だ。
あ、もうこんな時間だ。さっさと食べようか……。
「…………ん、ごちそーさま」
茶碗にこびり付いていた米粒を口に放り込み、物がなくなった食器をシンクの桶に突っ込む。
あとは歯ぁ磨いて家出るかな。よし、歯磨きしますか!
++++++ ++++++ ++++++
昇降口に着けば、そこら中から聞こえる吹奏楽部の音楽。朝から精が出ますねぇ……っと。
あ? 来るまでの説明はって? そんなん有るわけねぇじゃん。一人無言で歩くとこなんて聞きたくねえだろ? 大体登校する時、俺はボッチなんだよ。
…………寂しくなんか、無いんだからっ!!
一人で地味に自分の心の傷口をえぐりつつ、靴を履き替え、俺は教室へ向かった。
俺は美術部員なので、朝部活はない。大体の部活……いや美術部以外は必ず朝部活がある。そうすると必然的に――――――――
「おはよう……ってそうだ誰も居ないじゃん」
教室の中は人が一人もいない事になる。まだまだおれのボッチ時間は続きそうだ。
席に鞄を下ろし宿題を出せば、やることは何もなくなってしまった。みんなが教室に来る8時にはまだ15分あるな……。
よし、ピアノ弾くか。
そうと決まれば早速、と俺はすぐ近くにある電子ピアノの方へいそいそと近づいた。
俺は面倒くさがりではあるが、好きなことにはとことん集中できるタイプなんだ。例えば、読書とか読書とか読書とか……。まあ、そのせいで怒られるのがしばしばあるんだけど。
「うーん、何を弾くかな……。アニャと雪の女王のエリニャが歌ってる奴か、転がる少女か……」
最近デズニーが出した映画、『アニャと雪の女王』は面白いと専らの噂だ。CMを俺も見たことがあるが……あの姉妹に生えてる猫耳には、なにか抗い難い力が働いてる気がする。
と、まあアニャの事は置いといて。
弾くのは結局、アニャの『ありのままで』にした。
よしよし……いっちょやっちゃいますか!!