新たな扉 あるいは白いカラス
今回の話ですがシロエが出てきます&色々と捏造しています。
資金と『調理法』の交換の期日になった。
金貨500万と言うのはすさまじい大金である。ギルドレベルでもその金額を持っている人間は三大生産ギルドクラスだろう。
これほどの金額を≪エルダー・テイル≫内で動かすとなると銀行での直接取引しかない。
「では、まず『調理法』をお渡しします。」
三ギルドの幹部達が勢ぞろいする中で、メガネをつけた青年……シロエが3つの封筒を出す。
「わかった。資金はそれから……と言う事か。」
「はい、そうです。」
シロエはそう言ってカラシン、ロデリック、ミチタカに封筒を差し出す。
「やけに分厚いな……。」
『調理法』と書かれた封筒を慎重に開きながら3人は確認にうつる。
「こいつは……≪レシピ≫じゃない?」
そこには絵でわかりやすくハンバーガーなどの作り方が書かれており大きな文字で『〈調理人〉スキルが必要』と書いてあったのだ。
「……約束は約束だ、150万は支払おう。」
ミチタカはやや納得がいかない様子で答える。
「……もし、私達が、150万を支払わないと言ったらどうするつもりだったんですか?」
カラシンもやや、納得がいかない様子だ。
「どうしてその資料の価値が150万以下だと思うんです?」
にこやかにシロエが返事をする。
「まさか、その『先』があると?」
「はい、幾つかの事項において『三日月同盟』で確認しています。流石に全ての組み合わせに挑戦している時間も人員もありませんでしたが。」
ロデリックの問いにシロエは平然と答える。
「『先』だと?」
「カレーライスおいしかったです。班長なりのアレンジが効いてて。」
シロエは謎の返事をする。
「何言ってるんだ?さっぱりわからないんだが。」
カラシンがやや、混乱気味に問い詰める。
「つまり『生産職ならばメニューを使わずに自分の手で物を自由に加工する事ができる』と言う事です。
本来、メニューにないアイテムは現状では作れないはずですが、生産職ならば作る事ができる。そういう事ですね。」
「そうです。」
ロデリックの言葉を素直にシロエは肯定をする。
「わかった、そこまで見抜けなかった俺達の負けだ、『はらぐろ』。150万は素直に払うさ。」
ミチタカ達はそう言って窓口へと向かっていく。
「とりあえずの500万。何とかなりましたわね。」
シロエの後ろに控えていた眼鏡の女性がシロエに声をかける。
「皆さん、ありがとうございました。」
シロエが後ろに控えている三日月同盟のメンバーにねぎらいの声をかける。
「それで、やろうとしている大規模作戦ってのは………。」
「それについては、こちらを開催する為のものです。」
そう言ってシロエは小さな封筒を1通ずつミチタカ達に渡す。
「『アキバのこれからについて』だと?」
「はい、そうです。これの開催の為に金貨500万が必要でした。」
「無視されたらどうするつもりだ?」
「皆さんの善意と希望を信じます。それが無ければ僕は負けます。」
シロエのその気迫に3人が一瞬たじろぐ。
「三日月同盟の奴等が必死になっていたのはこれの開催の必要を感じていたからなのか。」
だとすれば、今まで不満が飛び出さなかったのもわかる。それほどまでに今の状況が悪いと感じていたのだ。
三日月同盟のメンバーも疲れが噴き出したのかどっと倒れ込む。
「とりあえず、金だけは集まったな。これでようやく入口に立てたってわけか。」
「……それで、これから先どうするつもりですか? まさか金で『D.D.D.』や『黒剣騎士団』が動くとでも?」
その言葉を聞いた瞬間、3大生産ギルドの幹部達の顔が引きつる。
「いえ、彼等が金で動くとは思えません。彼等にもこれと同じものを配布しました。」
「……彼等にもアキバのこれからについて話し合ってほしいという事ですか?」
「はい、その通りです。
資金の使用詳細などについては会議の途中または会議が終わってから説明します。」
「わかった。」
「それと。これはまだ未検証の部分が多い物ですが。」
そう言ってシロエは3冊の本をそれぞれに渡す。
「大型クレーン、揚水機、蒸気機関、こいつは新型の窯か?………どれもゲームには無い代物だな。」
本の中身を見ながらミチタカが呟く。
「大規模作戦の為に細かな設計はできませんでしたが。」
これはシロエの切り札の一つであった。工学部のCAD知識を生かした『設計図』の作成。
もしメニューに頼らず大型の道具を作ろうとするならば必ず部品ごとの調整が必要になってくる。
そのあたりの設計図を書ける人間の価値はそこそこあるはずだ。
「……これについては、こちらで作成してみましょう。多分問題点が出てくるとは思いますが。」
「わかりました、お願いします。」
その言葉と共に3大生産ギルドの面々は銀行から去って行った。
3大生産ギルドの面々が立ち去ったのを見て三日月同盟のメンバーが喜びの声を上げる。
「やった……やりましたよシロエさん!! 金貨500万枚達成です!!」
「ああ、これを運ぶだけで大変だが、で、これからどうするんだ?」
「………………。」
シロエの言葉に全員がガクンと顎が外れる。
「悪魔だ。」
「悪魔の方がまだ可愛げがありますわ………。」
「とりあえず条件は整いました。あとは皆の良心と希望を信じます。」
そう言うとシロエは様々な書類を整理の準備を始めた。
次の日、シロエは金貨500万をおろした。あまりの重さに自分一人だけで運べないのは確実なので、複数人で運び始めた。
だが、次にシロエがその建物から出た時、500万はまるで何も無いように消えていた。
白いカラスの報告はなされた。後は何故白いかを調べ、それをこれから先どう生かすかを計算する事だ。
今回設計図を切り札の一つとしましたけど、それ以外にもあると個人的には考えています。




