三学期
遂に、三学期が始まった。
だが、癒羽は目覚めないままだった。
「癒羽……、いつになったら目覚めるの……?」
楽音歌がか細い声で言う。
「伊藤……」
鎮紅が楽音歌の背中をさすった。
「でも……、あまりにも意識不明の状態が長いよな」
芹亜が奏慧に言った。
「え、あ、ああ。そうだな」
「――いい気味」
横から低い声が聞こえた。
その声は夜宵だった。
「九十田、今何つった?」
奏慧がキレながら言う。
「『いい気味』って言ったの。あたしを除け者なんかにするから、こうなるのよ。自業自得――」
夜宵が言い終わる前に、奏慧が夜宵の顔を殴った。
「ちょ、ちょっと!?」
教室に居る人達が焦り出す。
「お前、自分が何言ってんのかわかってんのか?」
「当たり前でしょ」
夜宵は殴られたにもかかわらず、平然な顔をしていた。
「前にもあんたに殴られたな。よっぽどあいつのことが大切なのね」
「当たり前だろ。ダチなんだからよ」
「ケンカしたクセに」
「九十田、最低だな」「本当サイッテー!」
胡桃や楽音歌も口々に言う。
「最低なのはどっち?人をいじめてるような人達に言われたくないね」
「コイツっ……!」
奏慧がもう一度殴ろうとすると、チャイムが鳴った。
「先生来たよ……!」
級長の榎本さんが小さな声で言った。
「チッ」
奏慧は舌打ちをして夜宵を放し、席に着いた。
「――にしても九十田の奴、本当最低だよね」
学校が終わった後も、楽音歌達の夜宵に対する怒りは治まらなかったようだった。
「アイツ、ぜってー許さねえ」
中でも一番キレていたのは奏慧だった。
(ヤエ、本当にタユのことが大切なんだな)
胡桃がそんなことを思う。
「……でも、癒羽、いつになったら目覚めるんだろう」
楽音歌が呟く。
「――医師に訊くってのは?」
「訊いてどうすんだよタヌキ」
胡桃の提案も、鎮紅にあっさり却下された。
「いや、いいんじゃないかな。……このまま目覚めないのも嫌だし」
芹亜が胡桃の意見に賛成する。
「ま、まあ……、かなっしーがそう言うなら……」
「何それっ」
胡桃が少しキレ気味になる。
「こんなときにケンカしないの。ほら、早く行こ?」
楽音歌と芹亜で仲裁に入って、病院へ向かった。




