夢
夢。
これは、夢……?
暗い。私以外の物が、暗い。黒い。
いや、ここに物など無い。ただの空間だ。
『――え』
何か聞こえた。
『ねえ、ねえったら』
誰かが、私を呼んでいる。
誰?誰なの?どこにいるの?
『ここよ』
声がはっきりと聞こえた。
声がした方を振り向くと、誰かが立っていた。
あなたは誰?
『こっちおいでよ』
言われたとおりに、その人に近づく。
そこに居たのは――私だ。
もう一人の私……?ドッペルゲンガー?
『ドッペルゲンガーとは失礼な。私は、あなたの中のあなたよ』
私の中の、私?
『そう。あなたの心……って言ってもいいかな』
意味がわからない。
『ハハ、あなたにはまだ難しいかなー』
馬鹿にしないでよ。
『ごめんごめん。怒らないでよ。さて、本題に入ろうか……』
本題?
『あなた、現実の世界で生きてきて、辛かったでしょ?』
何でそれを……。
『さっきも言ったけど、私はあなたの心。あなたのことなら何でもわかるの』
確かに、辛いこともあったわ。でも……、辛いことばかりじゃなかった。
『段林 奏慧とケンカしたのに?』
かななんの名前を出され、私はドキッとする。
『段林 奏慧は、あなたが意識不明の状態になって、とてもせいぜいしているわ』
嘘だ。そんなことない。
『そんなことあるのよ。あなたは段林 奏慧にとって、邪魔者でしかなかったのよ』
嘘だ嘘だ嘘だ。かななんに限って、そんなことを思うはずが無い。
『どうしても段林 奏慧を信じるのね。何を根拠に、段林 奏慧を信じているのかしら』
だって私とかななんは、ずっと一緒に居たもん。……ケンカをする前まではずっと、一緒に……。
『ケンカをした瞬間、段林 奏慧は呆気無くあなたから離れていったわよ?』
その言葉を聞いて、かななんとケンカしてからの生活を思い出す。
私がチラチラかななんを見ても、かななんは私を見ることは無かった。
本当だ。離れてイッテル。
『そうだろ?あいつは、あのケンカでせいぜいしたのよ。それと――あなた、九十田 夜宵のことをグループから外したでしょ?』
うん。……それに何の関係が……?
『そのことに対して……、あなた以外の人間は皆、反対だったのよ』
う、嘘だ。みんな賛成してくれたじゃないか。
『建前だけはね。内心、嫌だったのよ』
嘘だろ?何かの冗談だよな?な?
『……夢の世界においでよ』
え?そっちの世界……?
『そう。夢の世界では、あなたの願いは願ったり叶ったりよ』
私ノ願イガ、叶ウ――。
『もちろん……、大好きな段林 奏慧とも一緒に居れる』
かななんと、一緒に……。
『どう?来てみる気は無い?』
所謂、これが現実逃避というものか。
目の前に居る私が、私に手を差し伸べる。
私はその手を握ろうとした――。
でも。
……もう少し、考えさせて。
何を考えたのだろう自分は。迷うことなく夢の世界に行けばいいじゃないか。
『そう。返事はいつでもいいわよ。待ってるから』
もう一人の私は、そう言い残して消えた。
この暗闇に、私ヒトリ。
怖い。怖い。
誰か助けてよ。
私の中には、まだ理性があったのだろう。
その場に寝転んだ。
あの私が言っていたことは、本当なの……?




