ニックネーム
なんか今回、かなり長いです(´・ω・`)
読むの大変でしょうが、サーセン(´・_・`)
今日からは授業がある。そして放課後には掃除まである。
「授業嫌だなー」
楽音歌が溜め息と一緒に呟いた。
「確かに。面白い先生とか居ればいいけどね」
「あっ、面白い先生といえばねーっ」
楽音歌が話した中学の頃の話を聞いて、私は学校に着くまでずっと笑っていた。
「もー、癒羽ったら笑いすぎだよー」
「だって、楽音歌が面白い話するからー」
腹を抱えて笑う私を、楽音歌が半分呆れ顔で見ていた。
「二人共おはよー」
と、声をかけてきたのは案の定、上埜さんだった。
その横には、段林さんも居た。
この二人、仲良かったんだ……。
「おはよう」
楽音歌と私の声が重なる。
不意に、段林さんと目が合った。
声をかけるべきなのだろうか……。
「えっと、おはよう、段林さん」
「……ども」
段林さんは無愛想な声で答える。
声をかけちゃいけなかったのかな……。
「癒羽、行くよ?」
「あ、うん」
私達は4人で教室へ向かった。
「田川さーーん!」
廊下を歩いていると、後ろから名前を叫ばれた。
「あ、如月さん、おは――」
「はいっ、これっ、鎮紅のメアドねっ」
如月さんに紙を渡される。
「え、あ、うん、ありが――」
「かなっしーー!!」
私が言い終わらない内に、如月さんは向こうへ走って行った。
「本当にメアド交換しちゃったねー」
楽音歌がのんきな声で言った。
「てか……、朝から元気すぎだろ……」
さっきまでずっと黙っていた段林さんが呟いた。
よしっ、今なら話せるかもっ!?
「段林さんは、元気ないみたいだけど……?」
「……学校とかだるいっしょ」
「ま、まあ……」
そして沈黙。
ああダメだな、私……。
退屈な授業。
先生はどの人も真面目な人ばかりで、面白い人なんて一人も居なかった。
現在3時間目が終わり、休み時間を過ごしていた。
こういうときの時間は長いな。
私の後ろには、段林さんが座っている。
『段林さんと仲良くなりたい』という気持ちが、どこかにあった。
「……なんか、どの先生もつまらなかったね」
私がそう言うと、段林さんはチラッと私を見て、すぐに目を逸らした。
「先公とか、どれもつまらんっしょ」
「まあ、そうだけど……」
よく見ると、段林さんは机の下で携帯をいじっている。
「……この学校、携帯は禁止でしょ?大丈夫なの?」
「バレなきゃいいんだよ」
薄々思っていたが、段林さんは結構グレているのかも知れない。眉も剃っているか抜いているだろう。
「なあなあ」
突然、上埜さんが肩を叩いてきた。
「あ、何?」
「今日の弁当さ、一緒に食べない?4人で」
「いいけど、4人って?」
「そっちらと、こっち」
「そっちら」というのは、私と段林さんのことで、「こっち」というのは、上埜さんと楽音歌のことらしい。
「でさ、そっちの下の名前、何?」
「癒羽だよ」
「癒羽か……」
上埜さんは、紙に何かを書き出して考え事をしている。
「……上埜さん、何してるの?」
「みんなのニックネーム考えてるらしいよ」
楽音歌が答える。
「因みに、私のことは『とね』って呼ぶんだってさ」
「な、なんで『とね』?」
「なんか、『いとう』の『と』と、『らねか』の『ね』だって」
「変わってるんだね……」
ユニークというかなんというか……。
「段林さんは、上埜さんに何て呼ばれてるの?」
「……まだ」
「あ、そっか」
これまた終わっちゃう会話。
いつになったら心を開いてくれるのだろうか……。
「出来た」
上埜さんが紙を持ってきて言った。
「今日からそっちのこと、『タユ』って呼ばせてもらう」
「……『タユ』?」
「『たがわ』の『た』と、『ゆう』の『ゆ』」
「な、なるほど……」
「因みに、そっちのニックネームも決まったよ」
上埜さんが、段林さんの方に向き直って言う。
「『だんばやし』の『ヤ』と、『かなえ』の『エ』で、『ヤエ』」
ヤエって……。私的にはどうかと思うが……。
「ヤエ、それでいいか?」
上埜さんが段林さんに訊く。
「……ウチは構わんよ」
「OK。じゃあヤエで」
すんなりOK。上埜さんは変わった子だ。
「じゃあ、上埜さんのことは何て呼べばいい?」
「何でもいいよ」
「何でもいい」と言われると、少し考えてしまう。
「じゃあ……『くーちゃん』ってのは?」
「嫌だ。やめて」
上埜さんが速攻で拒否した。
「え、何で?可愛いじゃん」
「ちゃん付けはヤダ。嫌いだ」
「えー。……じゃあ『胡桃』は?」
「OK」
何でもいいと言ったのに……。
そしてチャイムが鳴り、みんな席に着いて授業を受けた。
待ちに待った昼休み。
「もうお腹ペコペコー」
楽音歌が自分の椅子を持ってきながら言った。
私は段林さんと机を合わせる。
「よし、じゃあ食べるぞ」
胡桃がさっさとお弁当を広げる。
それにつづき、私達もお弁当を広げていく。
「とね、もう少しそっち行け」
「えっ、嫌だよー。こっちだって狭いんだからー」
いつの間にか、楽音歌と胡桃は仲良くなっていた。
私も、段林さんと仲良くなれたらいいけど……。
「そういえば、段林さんのことは何て呼べばいい?」
私がそう尋ねると、段林さんは視線を変えないまま答えた。
「別に、何でも」
何でもか……。普通に『奏慧』って呼んでもいいけど、それじゃつまらないよね……。
私も胡桃も変わらない考えなのかも知れない。そう思って苦笑する。
「じゃあ……、『かななん』は?」
「あ、『バナナ』って聞こえた」
楽音歌がそう呟き、それを聞いた私と胡桃が爆笑する。
「まあ……、いいよ。それで」
「OK!よろしく、かななんっ!」
取り敢えずニックネームは決まった。これで少しは仲良くなれますように。
何となく、周りをキョロキョロしてみる。
落ち着きが無いのは私の悪い癖だ。
そこで目に入ってきたのは、一人でお弁当を食べるカナガさんの姿だった。
(カナガさん、いつも一人だなあ……)
友達とか作らないのだろうか。一人が平気な子なのかも知れない。
昼休みもすぐに終わり、5、6時間目へ突入した。
ここまで来れば、一日ももう少しで終わりだ。
「はああ……」
後ろから聞こえる深い溜め息。今日で何回聞いただろうか。
かななんは、溜め息が癖なのかな……?
「かななんって、よく溜め息つくよね?」
後ろを向き、小さい声で話しかける。
「そりゃ……、こんな学校に居ちゃ、溜め息も出るっしょ……」
「まあ確かにね。でも、溜め息つくと幸せが逃げちゃうよ?」
私がそう言うと、かななんは『はあ?』とでも言いたげな目で私を見てきた。
「こんな学校に居ること自体、幸せが逃げてくよ」
よっぽど、この学校が嫌いなのだろう。かななんの表情はいつもだるそうだった。
放課後。今日から掃除が始まる。
掃除は名列順で班を決め、前半後半に分け、一週間ごとに各班で掃除をしていく。
私はギリギリ後半の班になり、掃除は来週からになる。
「楽音歌、私は下駄箱のところで待ってるね?」
「うん、わかったー」
楽音歌と胡桃は前半の班だ。
「かななんは、誰か待つの?」
「まあ……、クルミ待つかな」
「そうなんだ。じゃあ、一緒に下駄箱のところで待ってよう?」
私が下駄箱のところに向かうと、かななんは何も言わずについてきた。
「……その、ごめんな」
「へ?」
歩いている途中、かななんがいきなりそう言ってきた。
「ウチ、無愛想で……」
「そんなっ、全然気にしてないよっ」
本当は、少し気にしていたが……。
「ウチさ、こう見えても人見知りだから……すぐ人を睨んじゃったりするんだよね」
「そうなんだ……」
人見知りなんて意外だな……。とてもそうには見えないが……。
「……前から気になってたけど、かななん、もしかして田舎出身?」
「そうだけど、何で?」
やはり。前から訛りが気になっていたのだ。
「実はさ、私も田舎出身なんだよ」
「……まじで?」
かななんが目を見開く。
「でも……、ユウ、訛り無くね?長い間住んでるとか?」
「ううん。楽音歌に教えてもらったの」
「へえ……」
そんな話をしながら歩いていると、角を曲がったところで誰かとぶつかった。
「きゃっ」
思い切り尻もちをつく。
「ああ、大丈夫ですか?」
相手は、とても背が高い――カナガさんだった。
「ご、ごめんなさいっ」
「いや、こっちもボーッとしてたから……」
そう言って、カナガさんは私に手を差し出してきた。
「立てる?」
低音の声で言う彼女は、マンガに出てくるような王子様に見えた。
「だ、大丈夫ですっ。立てますっ」
そして、ありえない早さで立ち上がる私。
「良かった。じゃ」
それだけ言って、彼女は教室の方へ歩いて行った。
「……大丈夫か?」
かななんが心配そうな目で私を見ている。
「あはは、大丈夫だよ。私、ドジだからさっ」
下駄箱に着くと、私達の間には沈黙が流れた。
(気まずいな……)
かと言って話すこともないし……。
「――あっ」
「え……?」
話すことを一生懸命考えていて、思いついたときに私は、思わず声をあげてしまった。
それを不審そうに見てくるかななん。
「……どうした?忘れ物か?」
「あっ、いやっ、何でもなんのっ。あははっ」
「?そうか……」
うわー。思い切り『変な子』って思われたよねコレ。
「あのさ、かななんって、何で都会に引っ越してきたの?」
「……」
かななんは私を一瞬見て、黙り込んでしまった。
「あっ、えっと、言いたくなかったらいいよ。ごめんね?」
「ああ……」
折角思いついた話題も一瞬で終了。
楽音歌、早く来てくれ……。
それから数分後。
「お待たせーー」
ようやく楽音歌と胡桃が来た。
「遅いよー」
「ごめーん。意外にも掃除が長くてー」
「ヤエ、帰ろ」
「ん」
胡桃と楽音歌が靴を履き替える。
そして、途中まで4人で帰った。
「じゃ、胡桃らはこっちの道だから」
「うん。また明日ね」
そう言って私達は互いに手を振る。
「胡桃っ!かななんっ!バイバーイ!」
何となくもう一度言ってみる。
胡桃は「バイバーイ」と言って手を振り返してくれた。
かななんは何も言わずに、手を振り返してくれた。
「癒羽、帰ろう?」
「うんっ」
かななんと仲良くなるには、まだ時間がかかりそうだ。
でも、それはそんなに長くも無さそうな気がした。
長い小説を読んでいただき、有難う御座います○┓ペコリ
次回ゎ番外編にしようと思います(沙*・ω・)