番外編~奏慧の嫉妬~
次は体育で、体育館へ移動していた。
この日は大雨で、グラウンドは使い物にならなかった。
そして、この学校は変わっていて、体育館に行くには外に出なくちゃいけないのだ。
「こんな中出るのー!?」
癒羽は文句タラタラだ。まあ、無理もない。
「濡れないために体育館で体育するのに、この中出るなら意味無いじゃーん!」
「文句言っても仕方無い。それゆけシズク隊、気合で行くよっ」
鎮紅のその言葉で、みんな一斉に走り出す。
取り敢えず、一番近くにあった屋根の下に入る。
それだけで、かなり濡れてしまった。
「よしっ、次も頑張って――」
「あの……」
近くに居た人に声をかけられた。
「あれ、落としましたよ……?」
何だろうと思い、指された方を見てみると、癒羽の肩にかけていたはずのタオルが落ちていた。
「えっ、まじで!?最悪ーっ!」
あのタオルも使い物にならないなと、癒羽は思う。
「オレが――」
「タユ、ちょっと持ってて」
奏慧が何かを言おうとしたとき、胡桃が癒羽に荷物を持たせた。
「え、胡桃?何するの?」
「取ってきてあげるから」
胡桃はそう言って、走って癒羽のタオルを取りに行った。
「ちょっ、胡桃!?」
そして、タオルを持って戻ってきた。
「あちゃー。これじゃ使えないなー」
「胡桃、わざわざありがとう」
「いや。取り敢えず、後でタオル乾かすから」
「えっ、そこまでしなくてもいいよっ」
「いいからいいから」
「わぁ、くーちゃんイケメンっ」
楽音歌が胡桃をからかうように言った。
「――クルミってさ、ユウと仲良いよな」
突然、奏慧が胡桃にそんなことを言い出した。
「どうした?急に」
「羨ましいんだよ。オレ、ユウと上手く話せなくてさ」
「何で?」
「何でだろうな。素直になれねーっつーか……」
奏慧が語尾を濁らせた。
「……なんか、嫉妬する」
癒羽にも同じようなこと言われたなと、胡桃は思った。
「……ヤエってさ、タユのこと好きなの?」
「はぁあっ!?」
奏慧が焦り出す。
「ちっ、違ぇよ!その、なんだ、ほら、ただ単に、『もっと仲良くしたいな』ってだけだよ!」
「ふーん……」
「それにさ、最近のユウ、……オレに冷てぇんだよ」
「そう?」
「そうだよ。この前だって、話しかけたのに軽く無視されたんだぜ?」
「……ヤエ、何かしたの?」
「してねーよ」
胡桃は腕を組み、少し考えた。
「……本人に聞いてみたら?」
「何て?」
「『何で冷たいの?』とか『避けてる?』とか」
「聞けるかな……」
「がんばれ」
胡桃の口癖、『がんばれ』だ。
「まあ……、そうだな」




