無視
「みんなおはよー」
朝、九十田ッチが私達に挨拶をしてきた。
「おはよ」「おっはよー、九十田ッチー」
鎮紅達はいつも通り挨拶を返す。
だが、私と楽音歌は違い、それを無視した。
「田川、伊藤、ちゃんと挨拶しなよっ」
鎮紅が私達に指摘する。
「……あー、聞こえなかった」
適当に返事をする。
休み時間。
私は楽音歌と話していた。
「でさー、昨日親がねー」
「うんうん」
「何の話してるのー?」
九十田ッチがそう言って、楽音歌の肩に顎を乗せようとした。
その直前に、私は楽音歌の腕を引っ張る。
「楽音歌、トイレ行こ?」
「あ、うん」
と、嘘を吐いて、隣の空き教室に入った。
「っはあー。ったく、何なの?アイツ」
大きく溜め息をつきながら、私は言った。
「本当、ウザいよね。あ、さっきはありがとう」
「いえいえ。それよりさー、何か策は無いかなー?」
「策?」
楽音歌が首を傾げる。
「九十田ッチが私達から離れるようになる策よ。いつまでも付きまとわれたら嫌でしょ?」
「確かに」
かと言って、そんな簡単に離れる訳無いか。
「ふー……。今は諦めるか」
「うーん……。そうだね」
チャイムが鳴る直前まで、私達は空き教室に居た。
「田川ー、移動教室行くぞー」
「ちょっと待ってー」
教科書とノートを急いで準備し、鎮紅達のところへ行く。
「よし、それゆけシズク隊出発」
鎮紅は九十田ッチと普通に話している。
「……鎮紅さ、九十田ッチのこと、何も思わないのかな?」
ボソッと楽音歌に言う。
「あー。いつも一緒に居るよね」
「何ヒソヒソ話してんの?」
胡桃が話に入ってくる。
「いやさ、最近の九十田ッチ、やたら肩に顎乗せてくるでしょ?迷惑だなーって話」
「そうそう。喋り方もキモいし。何とかするべきだよ」
「ねー」
胡桃が黙って聞いている。
「……そっちらさ、胡桃と考えてること同じなんだな」
「え?」
楽音歌と声が重なる。
「だからー、そっちと胡桃の考えてること、同じだって言ってんの」
「それはつまり――」
聞こうとするが、少し躊躇する。
「胡桃も、クヤのこと嫌い」
「えーーーーーー!?」
私と楽音歌は、同時に絶叫する。
それに胡桃はビックリしていた。
「まさか、私達以外にも同類が居たとは!」
「すげー!」
「そんな驚くことか……?」
その日から、私と楽音歌と胡桃は、九十田ッチのことを無視するようになった。




