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真夜

「例えば『ヒロ』の目の前にロングの黒髪を纏い、鋭い目つきをしたクールビューティーがいたとする。

ここでは仮に『影山真夜』としておくわ。私と名前が同じなのは偶然よ、気にしないで。

もし、その子が『ヒロ』のことを変態的に愛しているとする。毎日『ヒロ』のことを想像しながら、

『真夜』が発情しているの。もっと『ヒロ』分が足りない、激しく『ヒロ』を貪りたい。

そして、いつしかその想いは『真夜』の胸の中にこびりついて離れなくなってしまった。

ああ、何て悲劇。この恋心は伝わることなくこのまま増殖されてしまうっていうの?

ねえ『ヒロ』。『真夜』はどうしたらいいの?」

「うん、黙れ引きこもり」

正直初見でここまでキャラ把握出来るヤツも珍しい。もちろん褒め言葉でもなんでもないが。

真夜は俺の幼馴染で本人の説明通り容姿端麗。その上あまりにも頭脳明晰なので、

全教科テスト満点を条件に高校欠席許可を貰ってる凄いヤツ。

別に体調が悪いから学校を休んでいるという類のものではない。


一言でいえば「狂っている」のだ。


小学校の頃、とある事件がきっかけで極度の人間不信に陥ってしまった。どこにも外出することなく引きこもってしまった。

あれは、俺のせいだ。俺がもうちょっと彼女のことを気にかけていてやればこんなことにならなかった。

だから俺は罪滅ぼしのために彼女に対しては人一倍暖かく接してやった。血をにじむような努力をした。

おかげで俺に対しては心を開いてくれた。・・・・・・ただし異常なほどに。

どうやら精神科医の話によると俺以外の人間には未だに嫌悪感を向けていて、そのストレスの反動で俺に執着するようになったらしい。

そんなわけで俺と真夜は俺が学校に登校しているとき以外はほとんど一緒にいる。

こちらの高校に登校する際も、真夜がしつこくついてきた為、この二階建てのボロアパートの部屋に住んでいる。

だがさすがに寝る時まで一緒なのはどうかと思うので部屋はそれぞれ別室を借りた。ちなみに真夜の右隣が俺の部屋だ。

今は真夜に話したいことがあるから彼女の部屋にお邪魔している。

真夜は無表情のまま頬を紅潮させて、俺に迫ってくる。

「ヒロがいなくて寂しかった」

「そうか。まずは俺に近づくことからやめようか。おい、なんで上着脱いでんだ!」

「もう何年間もスキンシップしてるでしょ?あんなやらしいことやこんな淫らなことも・・・・・・」

「やってねえよ!全てお前の妄想だよ!」

「私のこと嫌い?私はただの使い捨てだったとでもいうの?」

「ちっげぇよ!嫌いじゃないから俺から離れろよ!そしてシャツ着ろよ!」

「ふふっ、ヒロ大好き」

・・・・・・言っておくが、これが毎日である。年中無休だ。

もしもネットでこんな場面が流れたらお前らはリア充爆発しろというだろうな。

こんな場面を女子にみられたら、真夜に殺意沸くやつも多いことだろう。

いい加減こいつに「自立」という言葉を教えなければ、死ぬまで一緒にいそうな気がする。

だが、別にコイツのことが嫌いなわけではない。「恋人」というよりは「親友」って感情の方が強いのだ。

実際俺も困った時には真夜の頭脳を借りて、一人じゃ解決できないような問題を解決してもらってる。

そんなこともあって、俺は真夜のことを一番信頼している。でも恋愛感情が沸くかというとそれは別問題。

だってその感情は彼女の人間不信の念によって生まれた仮初めのものなのだから。

だから俺は彼女に独り立ちして欲しいと思い、まひるの旅行の話を持ちかけようと思ったのだ。

この旅行でまひる達と友達になって、真夜の人間不信が少しでも解消されたらいいというのが俺の望みだ。

まひるはああ見えて友達は多い。アレだけ騒動起こしてばっかりだと皆に嫌われそうだが、

あの屈託の無い笑顔で誰とでも仲良くなってしまう。それがアイツの才能だな。

だから真夜を連れて一緒に旅行に行こうと思ったのだ。

このままでいいはずがない。彼女の将来のために動こうと決意したのだ。

だから俺が彼女に出会って一度も行うことの無かった禁忌に挑む。

「真夜!」

「ん」


「俺、旅行いくんだけどさ、一緒に旅行、行か・・・・・・ない?」


・・・・・・。

沈黙。ただ沈黙のみがその場を支配する。

そしてしばらく経って、彼女は全く表情を変えるようすもなく、静かに口を開く。

「ごめん・・・・・・私まだ怖い」

彼女の出した答えはNOだった。ま、やっぱまだ心の準備が必要だよな。

「そうか。じゃあ俺だけが旅行に行くのもアレだな・・・・・断るか」

しかし、次に彼女の口から出てきた言葉は意外なものだった。


「ヒロだけで・・・・・・行ってきてもいいよ?」


「え・・・・・・」

・・・・・・俺は驚いた。今までの彼女からは信じられない言葉だった。

「聞こえなかった?ヒロだけで行ってきていいんだよ」

「でも、お前は・・・・・・」

「大丈夫。ヒロがいないのは寂しいけど、私がヒロの人生縛っちゃダメだと思う」

真夜はそういうと、俺に向かってやさしく微笑みかけた。

・・・・・・なんだ。真夜もちゃんとわかってるじゃんかよ。

コイツは俺の知らないところで、ちゃんと「成長」していたようだ。

ならば俺は彼女の選択に答えて上げなけらばならない。

「ったく、そこまでいうなら行ってきますか」

「お土産かってきてね」

「ああ。友達と仲良くやってくるよ」


「・・・・・・友達?」


「ああ友達と・・・・・・。っておい、どうした?」

真夜がなぜか怒気を纏い、ぶるぶると震えている。な、なにか怒らせるようなこといったっけ?

そして真夜が一言。


「私も行く!」


「は!? お前外出るの怖いんじゃなかったのかよ!?」

「怖いけど・・・・・・怖いけど・・・・・・」

「?」


「私はヒロを取られるのは一番嫌なの!」


彼女の声がアパート中にこだまする。

・・・・・いや俺の望んでいた展開だけどさ、これって「自立」と違くない?

むしろ「依存」の方が悪化してないか?

まあ当初の目的は達成したが、こりゃあカオスな旅行の予感がするな・・・・・・。

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