まひる
女の子と二人きりなんてシチュエーションに憧れている男子共よ。
そんなもん、幻想以外のなにものでもない!
どうせお前らのことだから、屋上に彼女を呼び出して、
二人で手を握り合いつついい雰囲気に持ち込んで
最終的にはお互いの欲望をぶつけまくるなんてシーンを思い浮かべてるんだろ。
甘い!甘いわ!お前らのムッツリぶりにはあきれて声も出ない!
否定はしないよ。実際その幻想のような場面に出くわすリア充もたくさんいるからな。
そいつらは今すぐ爆発するべきだ。ダイナマイト100個使っても物足りない。
問題はそういった展開になることがない我々の思考なのだ!
女に期待するな!女は魔物だ!女は悪魔だ!
・・・・・・だからこそ。
「ひろゆき~」
「・・・・・・なんだよ」
「ふふっ、呼んでみただけ」
俺の隣にいる女がすっげぇうっとおしいわけで。
え、なにこの女。なんで深い意味も無いのに俺の名前を呼んだの? 馬鹿なの?
実際ドラマでカップルが互いの名前を交互に発しながらのエンドレス展開があるが、
アレは二人で意思疎通ができているからこそなせる業なのだ。
いや、別にコイツ・・・・・・日笠まひるのことは嫌いじゃないよ。
頭にかぶっているベレー帽は似合ってると思うし、まひるの天真爛漫な性格も俺的には好感触だ。
肩までかかったくらいのこげ茶色の髪、くりくりとした瞳、・・・・・・そして矮小な胸板と身長。
むぅ・・・・・・もうちょっと成長すれば幅広い支持を受けるだろうが、
これでは特定の層にしか受けないんじゃないだろうか。まあ、俺もその中に含まれるけど。
ここまで語った部分だけ見れば、彼女に特に問題はないように思えるが、一つだけ許容できないことがある。
それはコイツの常識と知能レベルが小学生高学年と同程度なので、いろいろと俺の周りで面倒を起こすのだ。
こないだなんか、俺が図書室で読書をしているといきなりコイツがやってきてて、
「弘幸弁当なくしたー」と泣きわめき、周りで本を読んでいた人から白い目で見られてしまった。・・・・・・俺何もしてないってのに。
結局その時は俺が弁当を支払うハメになってしまった。無論お金は返してもらってない。
だから正直まひるとはあんまり関わりたくない。
いくら可愛くても、中身がそれに伴わなければイチャイチャする気も失せるのだ。
しかし、「今日の昼休みに屋上に来て」と呼び出された以上、ほったらかしにするわけにはいかない。
という訳で現在屋上で彼女と二人きりな訳なのだ。
彼女が満面の笑みをしている中、俺はふと思っていた疑問を口にする。
「お前クラス委員の仕事しなくて大丈夫なのか?配布物があるからって先生に呼ばれてただろうが」
「大丈夫だよ、あの口うるさい委員長様が勝手にやってくれるから」
「そうですか・・・・・・」
なんて責任感の無いやつだろう。間違ってもこいつに世界の命運がかかる大事な場面を託してはいけないな。
いやあの委員長も相当アレなヤツだから関わりたくない気持ちはわからない訳でもないが。
「そんなどーでもいいことなんていいんだよ!私は弘幸に用事があるんだから」
「いったいどうしたってんだよ。宿題なら見せてやらないぞ」
「宿題?そんなものあったっけ?」
まひるはぽかんとしている。
「今日数学のプリントやってこいって教師に言われてただろうが」
「ええっ!? まだプリントやってないよ!どうしよう・・・」
慌てふためくまひる。・・・・・・はぁ、こいつは。
「仕方ねえな。プリント見せるの今回だけだからな」
「本当!? 弘幸殿、この恩義は一生忘れませぬ!」
その恩義を忘れる気ないなら、俺の身の回りで面倒事起こさないでくれよ・・・・・・。
でもどうやらまひるの用事は宿題の件とは違うらしい。俺は再度彼女に尋ねてみる。
「そういえばお前の用件ってなんだ」
「ええとね、もうすぐ夏休みでしょ。だからさ、休みを利用して南の島へ遊びに行かない?」
南の島か・・・・・・。そういやコイツの両親は大富豪で、いろんなところに土地を所有しているって話聞いたことあるなぁ。
「誰と行くんだよ。まさかお前二人と?」
「えっ!? ・・・・・・そ、そのっ、ともだちといっしょに」
「どうした?お前、目がキョロキョロしてるぞ」
「な、なんでもないよ! 挙動不審なだけだよ!」
「ああ、納得」
「納得するんだ!」
なぜかまひるは不服そうな様子だが相手にしないでおく。
俺は旅行の件について思考を巡らす。確かにまひると二人なら不安なことこの上ないが、友達がいるなら安心かな?
それにこれは「アイツ」にとっていい機会かもしれないな。
「なぁ、俺も連れてきたいやついるんだけど連れてきていいのかな」
「え・・・・・・別に、いいけど」
「決まりだな、明日その友達にも召集かけといてくれよ」
「うん」
そういって俺達は解散することになった。
しかしなんでまひるのヤツ、なんで最後のほう悲しそうな顔をしたのだろう。
そんなことを考えながら、俺は「アイツ」の家に赴くことにした。