第六章 追憶 亜紀編
■第六章 追憶 亜紀編■
~社会人1年・12月~
智史には大学の時彼女ができた。
その時から私は亜紀さんってさん付けで
よそよそしく呼ばれるようになった。
どんなに悲しかったのか。
どんなに寂しかったのか。
それは私にも分からない。
けれどあの夜さん付けで初めて呼ばれたあの夜は
どれほどの涙を流したやろうか。
どれほど智史を恨んだやろうか。
でもそれと同時に
私にとって智史は大切な存在なんやって気がついた。
「亜紀」
そう呼ばれた今日。
昔の関係に戻れた今日。
私が待ち望んでいた今日。
そして今日流した涙は・・・
今までで一番美しかった。
自分でもそう言える。
やっぱり智史とのカラオケは楽しい。
二人でオールナイトでもまだ足らんぐらい。
今日は本当に楽しかった。
またよろしくな!って言って解散できる。
そう、思っていた。
亜紀「ふ~楽しかったな」
智史「まだ歌い足りんな」
亜紀「同感、あちょっとトイレ行ってくるわ」
智史「分かった、会計しとくで」
亜紀「今日は智史のおごりやろ」
智史「分かってるって」
ふ~、すっきりした。
そう言えば智史が小学校の時
学校での朝の便所が日課やって言うてた気するけど
分からんでもないな。
それにしてもまたこんな話できるねんな。
智史と。
亜紀「智史お待た・・・え?」
智史が知らん女と言い合いしてる?
ていうか・・・この空気もしかして・・・
女性「あなたが亜紀さんですか?」
智史「ちょっとやめろって綾香」
綾香・・・?
そう言えば智史の彼女の名前って・・・
綾香「智史とカラオケしてはったんですか?」
智史「ちょっと一回落ち着けって」
智史って確か・・・仕事が疲れたって言って
デートドタキャンしたんやんな?
しかもイブに。
これマジで・・・
やっばい状況。
智史「ていうか!何でお前がここにおるねん!」
綾香「智史がドタキャンしたから友達とカラオケ来たんやけど」
マジですごい悪運。
カラオケボックスなんて腐るほどあるのに。
まさか同じとこ来るなんて。
私が最近いやな顔してるから
智史は無理矢理私と遊んでくれたんや。
しかも呼び捨てに戻すって。
何なんそれ。
結果的に彼女を悲しませてるから意味ないやん。
でも・・・
悪いのは私や。
亜紀「すいませんでした!」
智史「・・・亜紀?」
亜紀「私が悪いんです!私が最近落ち込んでたから・・・智史は励ましてくれたんです!」
綾香「・・・落ち込んでた?」
亜紀「はい!私と智史は大の親友でした。けど最近遊ぶ機会が減って・・・」
綾香「・・・」
暫くの沈黙が流れる。
会計のため並んでる客の視線が痛い。
綾香「・・・ホンマに親友なんですか?それ以上の関係じゃ・・・ないんですか?」
智史「違うから!僕は亜紀を別に好きとかそんなんちゃうから」
ドキッ。
またや。
忘れかけてたこの心臓の高鳴り。
何なん?これは・・・
亜紀「・・・失礼します」
智史「亜紀待ってや・・・亜紀!亜・・・」
私は逃げ出した。
最悪や。
ちゃんと事情を説明せなあかんのに。
それを智史だけに任せてしまうなんて
ホンマ最悪や。
私はそれからだいぶ走った。
ここまで来れば・・・大丈夫やろ。
最悪やけどあの場は逃げるしかなかった。
あの空気に耐えられへんかった。
でも私大人気ないな。
こんなんやから彼氏できひんのかな。
・・・ていうかあれが智史の彼女か。
確か綾香さんとか言ったっけ。
智史に綾香さんの連絡先聞いとこう。
そして謝ろう。
多分智史を好きになった人や。
話せば分かってくれるし
きっとよく他人のこと理解できる人やって
そう思うから。
それにしても・・・
さっきの胸の高鳴りは何やってんやろ。
僕は亜紀を別に好きとかそんなんちゃうから。
その言葉を思い出すと少し
胸が痛い気がする。
何でやろ。
智史に最後に告白されたのは高3の時。
それ以来は智史から私に好きって言ってこない。
やっぱり彼女できたからかな?
あんだけしつこかったから
智史は結婚しても私のこと好きやって
そう思ってたけど・・・
今日針万本飲ます約束の話をした。
ずっと友達でいるって約束。
ってことはもう智史は
智史は私のこと好きとちゃうんやろか。
~社会人2年・12月~
あの修羅場の日(?)以来、私は綾香さんと仲良くなった。
私が智史とは友達やって言ったら綾香さんはすぐ理解してくれた。
やっぱり智史を好きになった女は・・・
少しみどころと頼りがいがあった。
だから私はあれから綾香さんに色々話す。
智史の過去のこと、家のこと、性格のこと・・・
私は智史と綾香さんが
今以上に仲良くなるために応援する。
私にはそれしかできないから。
だから・・・
智史が私のこと好きかどうかなんて
もう気にしないし考えないことにした。
いまさらそれを知ってもどうにもならないから。
誰も・・・
幸せにならないから。
実は暫く綾香さんとは会ってない。
3ヶ月ぐらいかな?
それまではちょくちょく会ってたんやけど。
もしかして・・・
何かあったとか?
明日は23日やな・・・
また誘いに行こかな。
でも断られたら何かイヤやな・・・
って何で私そんなこと考えてるねん。
今年は智史は彼女と過ごすはずや。
あ~でもな~、またカラオケ行きたいし・・・
プルルルル。
亜紀「うわっ、電話か、はいもしもし」
智史「もしもし」
亜紀「もしもし?智史か~最近綾香さん元気?何か連絡ないねんけど」
智史「あのさ・・・」
亜紀「何や?カラオケか?おごってくれるんやったら行ったるで」
智史「いや・・・そうじゃなくて」
・・・何や?
何か智史のテンションがおかしい。
やっぱり何かあったんか?
智史「ちょっと話あるから・・・店まで来てくれへん?」
亜紀「え~、外寒いから今話ししてや」
智史「いや・・・重要な話やから・・・」
重要な話?何それ?
亜紀「何時に・・・行けばいい?」
智史「あと1時間後ぐらいに来て。もう仕事終わるし」
亜紀「・・・分かった、じゃあ」
智史「うん・・・じゃあ」
おかしい。
確実に智史の様子がおかしい。
綾香さんから連絡もない・・・
さては・・・
破局か!!?
マジで破局か!?
やったー
って・・・え?
何で今私
やったーって
思ったん?
智史と綾香さんが別れることは
誰一人幸せにならない。
いいことなんて一つもない。
ないはずやのに・・・
でも考えられる理由はそれぐらいしかないな。
それが大事な話?
いや・・・
さらにまだ何かあるな。
綾香さんと別れて
私と付き合ってくれって言ってくる。
これや!
最近告白してきぃひんけど
智史が私を好きなんを諦めるわけない。
でもなぁ・・・
そんなん言われても
智史とおってもドキドキせぇへんし
お金もどうせないやろ・・・
あの中古車やし。
確かに一緒に居て楽な存在やし飽きひんけど
彼氏にはできひん。
そう思ってたけど・・・
まぁ大学の友達に理想高いって言われたことあるし
最近自覚してきたわ。
人間顔だけじゃあかんって。
まぁ確かに智史優しいしな。
告白されたら・・・
ほんのちょっとだけ考えてみても
いいかな。
勘違いせんといてや。
別に智史のこと
好きなわけちゃうねんから。
ウィーン。
店員「いらっしゃ・・・あ、いつかのねーちゃん!」
亜紀「こんばんは!」
店員「何や何や、絶対智史とは付き合ってるやろ!?」
亜紀「ちゃいますって!」
店員「じゃあ俺と付き合わへん?」
亜紀「いや・・・それはちょっと」
店員「何や、釣れへんのぉ・・・」
亜紀「・・・あ、智史は・・・?」
店員「今仕事終わって着替えてるわ。それより・・・」
亜紀「ん?」
店員「最近智史何か様子おかしいねん。ねーちゃん何があったか知らん?」
亜紀「様子がおかしい?」
店員「何かテンション高い時と低い時の差が激しいちゅうか・・・」
何それ。
やっぱり何かあったんや。
智史のテンションは常にやや低め。
あんまりテンションの上下は激しい方じゃない。
店員「あ、ウワサをすれば・・・ねーちゃん来てるで」
智史「あ、どうも・・・よぉ」
亜紀「おっす」
何や?意外と普通やけど・・・
店員「じゃあデート、楽しみや~」
智史「デートちゃいますって!」
そのツッコミも普通。
いつもの智史と何ら変わりない。
亜紀「・・・で話って何?」
智史「とりあえず飯行こう」
亜紀「じゃあ寿司な!おごりで」
智史「あんま高いもん食うなよ・・・」
亜紀「覚悟しときや!」
智史「安月給やねんからマジかんべん」
亜紀「相談ある言うたん智史やろ~?」
智史「まぁそうやけど・・・」
亜紀「男はケチケチしない」
いつもと何ら変わりのないやり取り。
しかし私にとって
今日
人生が
ひっくり返る日になるとは
思いもよらなかった。
亜紀「うぇっぷ」
智史「ちょっと飲みすぎやろ」
私は今日妙にお酒が進む。
寿司食べに来たのに酒ばっか飲んでるような・・・
何でやろ。
智史が告白してくると思って
テンション上がってるからかな。
亜紀「で~、重要な話って何よ!?」
智史「うわ、酒くさっ」
亜紀「女に臭いとか言うたらあかんやろ~」
やばい、結構酒まわってる。
何とか意識はあるけど。
智史「店長、おあいそ」
亜紀「もう行くの~?」
智史「寿司屋でガチで酔うのとかやめてくれ」
亜紀「何れ~?」
智史「ごちそうさんでした」
亜紀「また来ます~」
私は智史の手に引っ張られて店を出る。
智史「ちょっとここで待っとれ」
私は駐車場のコンクリートに座らされた。
智史「これ、飲め」
智史が買ってきてくれたのは水。
亜紀「ありがとう」
智史「ちょっと夜風に当たってたらマシになるやろ」
亜紀「うん・・・」
私たちはひとまず酔いを覚ますことにした。
私たちっていうか・・・私だけか。
私は水を全部飲み干した。
だいぶ時間が経ったやろか。
酔いはだいぶ覚めてきた。
そうや今日は智史の話を聞くんやった。
ホンマごめんな。
亜紀「で?話せんでいいの?」
智史「酔い・・・覚めた?」
亜紀「うん、大丈夫」
智史「じゃあ・・・」
そう言って智史は立ち上がった。
私の正面に立って
じっと私を見ている。
その智史が口を開いた。
智史「僕さ・・・」
亜紀「おうおう、何や何や、彼女にふられたんか!?」
智史「違う・・・実は・・・」
亜紀「おう、何や言うてみぃ」
智史と一緒におってもドキドキなんかせん。
でも智史ほど・・・
私のこと知ってて
理解してくれて
一緒にいて気が楽で
楽しい人はいない。
それが好きの形やって
智史は昔言ってたやんな。
だから・・・
私は決めた。
智史の気持ちを受け取る。
想いを受け取ることにする。
だから・・・
だからドーンと来いや!
智史「僕、綾香と結婚することになったんや」
え?
これは夢?
結婚?
何の話?
時が・・・
止まった。
智史が・・・
結婚?
モテなかった智史が・・・
結婚!?
マジでありえない。
そんなの・・・
ありえない。
どれぐらい時間が止まっていただろう。
その気持ちが
ようやく言葉として表れた。
亜紀「え・・・マジで!?」
智史「亜紀には誰より早く報告しよと思ってさ・・・」
亜紀「け、け、け、け結婚!?何で?」
智史「ドキドキする人と付き合えってアドバイスしてくれたの亜紀やし」
亜紀「あ・・・うん」
智史「僕、人生で初めて綾香がそばにいてくれてドキドキした」
亜紀「そ・・・そうなんや・・・」
智史「亜紀、本当にありがとう」
亜紀「おう、そうか、それは・・・よかったやんけ!おめでとう!」
智史「ありがとう!ホンマ・・・ありがとう・・・」
智史の目からは涙がこぼれ落ちる。
泣きたいのはきっと
私の方なのに。
亜紀「親友スピーチは私がやったるからな!」
何・・・
智史「うん、ありがとう!」
何言ってるの私・・・
智史「まぁ・・・そういうことやから」
・・・どういうことやねん。
智史「今日は話聞いてくれてありがとう。家まで送るわ」
亜紀「・・・いい」
智史「ん?僕酒一滴も飲んでないで?はよ行こうさ」
亜紀「いいって!」
バシッ。
私に触れた智史の手をはじいた。
でも自分でも感じる。
その力は弱々しい。
亜紀「そんな簡単に他の女に触れたら奥さん悲しむで?」
智史「はぁ・・・またそんな言い方する・・・」
智史は頭を抑えてうつむく。
いつもなら口論になるはずだった。
智史「だからさ、そう簡単に怒らんといてって・・・」
怒ったらあかん。
だって智史が結婚するんやろ。
そんなめでたいこと・・・ないやん。
智史「亜紀、だから送るって・・・」
亜紀「来んといて」
智史「・・・そう怒るなよ」
亜紀「怒ってない」
智史「怒ってるやん・・・すまんかった」
何で謝るんよ。
何か・・・私みじめなだけやん。
亜紀「怒ってないよ。智史は何も分かってない・・・」
智史「え・・・亜紀どうしたん?」
今日はめでたい日。
だから・・・
最後は智史に笑って
最高の笑顔で
バイバイしよう。
亜紀「本当に・・・本当に結婚おめでとう」
智史「お、おう、ありがとう」
亜紀「そして・・・さよなら・・・」
そう言うと私は走り出した。
本当に結婚おめでとう。
そう言った時の私・・・
ちゃんと笑顔作れてたかな?
智史「さよならってどういう・・・亜紀~!」
これは夢なんやろうか。
智史が私に告白する?
それを受けるかどうか考えてわくわくする?
何やそれ。
ホンマ私アホみたい。
自分がどれだけエエモンやと思ってんの?
どれだけ愚かな期待をしてるの?
ホンマ・・・
何してんの私。
智史が結婚する。
私じゃない、別の女と。
私は智史のことをさんざん馬鹿にしてきた。
私・・・ひどいよな。
それでも智史は4回も好きやって
こんな私のことでも好きやって
こんな私とでも一緒にいたいって
そう言ってくれた。
私にドキドキする恋は似合わなかった。
似合わなかったんじゃない。
私が似合うと思い込んできた。
意地を張ってきた。
きっと他の恋の形なんてない・・・
そう自分に言い聞かせてきた。
ドキドキしないけど・・・
一緒にいたいって
もっと相手のこと知りたいって
そういう恋の形なんだって
そういう好きの形が本当の愛なんやって
今気づいた。
たった今・・・
今智史が好きなんやって
私が必要としてるのは智史なんやって
気づいた。
やっと
やっと状況が分かった。
その状況が分かった瞬間
夢じゃないと確信できた瞬間
私は
道路の真ん中であるにも関わらず
人目を気にせず
膝から崩れ落ちた。
~社会人3年・5月~
僕・・・綾香と結婚するから。
その智史の言葉は私に重くのしかかっていた。
まだ信じられない。
智史が他の女を好きになって
智史が他の女と結婚するなんて
本当に
信じられない。
あの日以来、私は生きる目的を失った。
それと同時に智史の存在の大きさに改めて気づいた。
私にはチャンスがあった。
それも4回も。
智史が勇気を振り絞って与えてくれた
告白してくれたチャンスを
私は一回も受け取らずに
またチャンスがあるって
そう思ってしまった。
でもそのチャンスが
二度と現れることはなかった。
そんなことを考え
幾度となく絶望に打ちひしがれ
それでも私は何とか生きていた。
私は強くならなければいけない。
お母さんのためにも
一ヶ月後に挙式する智史のためにも
強く
強くならなければいけない。
そう自分に言い聞かせた。
だから・・・
もう後悔するのは終わり。
前だけを向いて・・・
とにかく前だけを向いて
人生を駆け抜ける。
そう決めたんやから。
そのためには・・・
今日のこの目の前の仕事を
終わらせる。
それが私の義務。
前向きに生きるってこと。
課長「亜紀さん、ちょっと」
亜紀「ぁはい?」
課長から呼び出された?
珍しいな。
私は仕事をこなすのも速い。
飛びぬけて速いわけじゃないけど・・・
だからこそ課長から呼び出されるなんて
そんなこと今までなかったのに。
課長「実は・・・」
亜紀「どうしましたか?」
課長「あなたの母が・・・事故に遭われた」
・・・
お母さんが・・・
事故?
そんな・・・
私・・・
私お母さんまで失ったら
本当に
私が私でなくなる。
私は走り出した。
二週間後・・・
私が病院に駆けつけたあの日・・・
母はすでに息を引き取っていた。
どうも即死だったらしい。
回収された車の潰れ具合が
すさまじい衝撃を物語っている。
お葬式も終わり一段落した。
お葬式には佐紀や勇紀も来てくれた。
佐紀や勇紀とは智史繫がりで連絡を取っていたから。
けど・・・
一番お葬式に来て欲しかった
智史が来てくれなかった。
仕事や結婚の準備に忙しいのは分かる。
けど・・・
智史には来てほしかった。
だからさよならって
本当にさよならって
智史が言っている気がした。
お母さんがいなくなったこの家。
決して広くないけど
一人がいなくなっただけやのに
広く
本当に広く感じた。
それと同時に
もうこの家には私だけなんやって
独りなんやって
そんな寂しさが溢れた。
・・・部屋の整理をせんとな。
とりあえず私の部屋からやろか。
そう思って私は押入れを開ける。
何年ぶりやろ。
押入れを整理するなんて。
見てみると意外とぐちゃぐちゃやな。
段ボール箱を開ける。
色んなものが雑に詰め込んである。
すごくホコリっぽい。
消しゴム。
これ小学校の時のやつか。
私が消しゴム忘れたって言うたら
あげるって智史がくれたやつやな。
裁縫セット。
これは中学の時に家庭科で使ったやつか。
智史はよくこの針で
指の皮刺して遊んでたな。
弁当袋。
これ持って4人で・・・
智史らと一緒に食堂にいたな。
カラオケ割引券。
これ期限切れてるやん。
大学の時智史とイブにカラオケ行った。
その時もらったやつやな。
何か・・・
やっぱり・・・
私の思い出は智史との思い出ばっかり。
何で
何で好きって気づかんかったんやろ。
手紙・・・?
これ何やろ?
誰かからもらったラブレターか?
そこには下手な字で
誕生日おめでとうって
書かれている。
思い出した。
智史が中学の卒業式の時くれた
しょうもないプレゼント。
そういや中見てなかったな。
いまさらやけど・・・
開けてみよっと。
〈今まで誕生日忘れててごめん〉
一行目からそれかいな。
ほんま失礼なヤツやで。
〈亜紀にゲームやめろって言われたんやけど・・・やめられそうになくて勉強に集中できないから全部売った〉
そういえばあの頃・・・
智史は受験勉強で必死に頑張ってたな。
で偏差値を43から57に上げたんやっけ。
ていうかゲーム売ったんか?
すごい覚悟で勉強しててんな。
智史のゲーム好きは私はよく知ってる。
あの智史がゲーム手放すなんて・・・
〈勉強始めたら参考書いっぱい買わなあかんようになって・・・ゲーム売った金ほとんど使ってしもた〉
参考書は高いからな。
〈でも少し残ったから5000円分の図書券をプレゼントとして送ります〉
図書券?
おっ、こんなん入ってたんや。
しもたな~、5000円損した。
まぁありがたく今使わしてもらうわ。
って今でもまだ図書券って使えたっけ・・・
〈勉強するのってやっぱりお金がかかる。亜紀が言ってた「お金がないと幸せになれない」って意味、やっと分かった気がする〉
私もそう思ってた。
お金がなかったら不幸になるかもしれない。
けど・・・
お金があっても幸せかどうかは
また別の問題なんやで。
〈うちの高校受かったら付き合ってくれるって亜紀は言ったけど、きっと亜紀の本心じゃない、だから守らなくていい〉
あの日の約束。
私が破った約束。
本心じゃないってバレてたんか。
でも智史はきっと
あの約束は
私が本心から言ったものやったらいいなって
思ってたはずやけどな。
私も約束守ってたら
今このときは変わってたんかな?
〈けどさ・・・せめて彼氏おらん時ぐらいは俺と一緒に登下校してくれるかな?それが僕からのお願い〉
その約束は守ったで。
彼氏おった時も
ずっと一緒に登下校してた。
〈勘違いせんとってや、僕はいつでも亜紀のこと大切やと思ってるし大好きやから。それだけは変わらんから・・・忘れんなよ!〉
・・・噓やん。
もう今は私のこと好きちゃうやん。
だから・・・
綾香と付き合ってんやろ?
私が約束守ってないのも悪いけど・・・
智史も約束守ってないやん。
ホンマ・・・
私たちのあの日々は
噓をつくこともお互いに嫌がった日々は
どこへ消えてしまったんやろ。
私が・・・
消してしまったんかな。
それやったら
悲しいな。
だいぶ押入れも片付いた。
けど最後に奥から袋が出てきた。
何やこれ?
中身を開けて確かめる。
これって・・・
高校の時に私が智史に欲しいって
言ったカバンやん。
あの時
お母さんに入学祝いにもカバンをもらった。
だからそっち使うことにしたから・・・
これ未開封のままやってんな。
今見たら・・・
結構いいカバンやな。
私は何気なく値札を見た。
・・・え?
64000・・・円!?
アホな・・・高すぎる。
確か高校生の時やんな?
そんな大金どこに・・・
・・・あ!
思い出した。
智史、何か期末終わってからバイトしてたな。
でもあれはゲーム買うためじゃ・・・
でもこんな大金・・・
まさか・・・
まさか・・・
これのためにバイトしてたって
そう言うの?
謹慎になったんも
私のせい?
何で
何でなんよ。
私たちの間で隠し事はなしじゃなかったん?
ゲーム買うとか最もらしいこと言って。
噓・・・ばっかり。
また涙が一滴、二滴とこぼれ落ちる。
私最近すぐ泣くな。
強くなるって決めたのに・・・
これじゃあ智史にも
天国のお母さんにも笑われる。
ん?
紙切れが入ってる。
何か・・・書いてる。
〈僕は今日、学校と亜紀から卒業するね。今までありがとう〉
何で
何でこんなこと書いてるんよ。
私から卒業するって
どういう意味よ。
ホンマ・・・意味分からん・・・
感情がこみ上げる。
ごめん・・・
私・・・
智史の気持ちに答えることできなくて
気づかなくて・・・
もう
いくら謝っても
謝りきれないぐらい
ホンマごめん。
智史が私にしたこと
ゲーム買うためにバイトしたって噓ついたこと
大阪を発つ時見送りにこなかったこと
さん付けで呼んだこと
お葬式にこなかったこと
そんな
そんな些細なこと
どうでもいい。
私がしてたこと
私が智史の気持ちを
受け取れんかった罪に比べたら
ホンマ
どうでもいい。
ただ今
今智史に
智史に会いたい。
その夜
私の涙が枯れることはなかった。