第四章 時間 亜紀編
■第四章 時間 亜紀編■
~大学4年・10月~
私が東京に来てから4年目になる。
大学でも一応友達はできた。
でもどれも付き合いが薄い。
しかも・・・
とにかくノリが合わない。
人によっては関西人ってだけで白い目で見てくる。
特に私はやかましいから余計かな。
だから関西が恋しくなる。
高校まで過ごした日々が・・・
今も私の生きる力になってる。
大学に入る前、大阪を出発したあの日・・・
智史は見送りにこなかった。
何でかその理由は聞いてない。
だいたい分かるような気がするから。
私は彼氏がおらん。
大学入ってから一回もできない。
私は毎年年末になったら大阪に帰る。
その年末に、24日のイブに智史とカラオケ。
しかもオールで。
3年連続これを繰り返してる。
そろそろ何とかせなあかん。
別に彼氏じゃないのに24日一緒に過ごすとか・・・
冗談もほどほどにしてほしい。
て言っても遊ぼうって誘うの私なんやけどな。
私は関西でも有数の大手金融会社に内定した。
別にやりたいことなんて無かった。
だから収入を優先した。
内定先の平均年収は800万弱。
まぁこれぐらいなら我慢できるかな。
相変わらず私は今日も合コン。
3対3やけど、結構いいのが揃ってるらしい。
今年こそ智史に彼氏できたこと自慢せんとな。
まぁ私の美貌とスタイルと内定先を見れば誰でもイチコトや♪
亜紀「亜紀といいます~アキって呼んで下さい、ってそのままやんけ!」
場が静まりかえる。
何?この空気。
ノリ悪いな、ちょっとは笑えよ。
一番左の人は外食大手チェーン勤務で24歳にしてエリアマネージャー、容姿端麗。
でも収入は大したことない。ボツ。
真ん中の人は大学卒業してすぐ自分でおこしたIT会社の社長、収入十分。
でも32歳やから年離れすぎ。ボツ。
一番右の人は今急成長してる商社勤務。
25歳にして幹部やけど、チビでデブ。論外。
話もつまらん、真面目なことしか言わんし。
面白くない人とか最悪。
私に釣りあう人ってこの世の中にはおらんの?
この合コンもあかんな。
もう終電ないし、タクシー代もらって帰ろ。
ってか他の二組ええ感じやし・・・
友達「じゃぁね~亜紀、良い時間を!」
ていうか残ってるの私と・・・
チビデブの論外のヤツだけなんやけど!
でもこいつ金あるくせにスーツ安いし結構貯めてそう。
亜紀「あー・・・あの私帰りますね!」
チビデブ「あっそ、さようなら~」
・・・は?それ以外言うことないの?
亜紀「あのー?終電無くなっちゃって・・・」
チビデブ「タクシーで帰れば?じゃぁね~」
はぁ?タクシー代くれよ!
マジうっとぉしい・・・
私はこんなデブチビからも相手にされへんわけ?
私の何が・・・あかんの?
次の日・・・
携帯が鳴る。
友達からや。
亜紀「もしもーし」
友達「眠そうな声だね・・・大丈夫?」
そりゃ眠いわ。
昨日あのあと腹立って寝られへんかった。
友達「昨日あのあとどうなった?」
亜紀「べぇつにぃ~」
友達「私たち、すごくいい感じだったよ」
・・・マジで。
タクシー代ももらわんと帰った。
そんなことは言えない。
亜紀「あ・・・ああ、まぁまぁかな、あの人」
友達「あれでまぁまぁ?あの人すごくいい人じゃん」
どこが?
デブチビやし金持ってるのにケチやし・・・
亜紀「そう?」
友達「亜紀合コンの時話聞いてた?あの人すごく温和だし・・・」
温和?
何か感じ悪く当たられたけど・・・
友達「しかも年収1500万近くあるらしいよ」
マジで。
どれも見た目で判断してた。
で早く帰りたいとばっかり思ってたわ。
もちろん話なんか聞いてないし。
友達「亜紀また”この人いらないオーラ”出てたんじゃないの?」
亜紀「何それ?私そんなん出てる?」
友達「自覚ないの?亜紀興味ない人の前ではものすごい退屈な顔してるよ」
初耳や。
心が顔に出るってまだ私も子供なんかな。
亜紀「そうか~、気ぃつけるわ」
友達「亜紀はさぁ・・・理想高いんじゃない?」
亜紀「・・・え?そんなことないやろ」
理想高い?
こいつ一応友達や思ってたのに・・・
私に悪口言うんか。
友達「じゃあついでに言わしてもらうけど・・・」
亜紀「は?」
まだ何か言う気か?
友達「あんた理想高すぎなんだよ、あんたみたいな顔良くて金持ちで内定先も一流のプライドだけ高い女なんか誰もいらないよ!」
ブチッ。
切りあがった。
うっざ、マジ何なん?
何様のつもりやねん・・・
プライド高い?
理想高い?
そんなこと言われたことないわ。
でも・・・
最近何で彼氏できひんのかと考えたら・・・
思い当たらんわけでもないな。
気づかせてくれてありがとう。
今日夜また電話しよう。
そして謝ろう。
その夜・・・
亜紀「さっきはありがとう」
友達「ううん」
亜紀「そんなこと言ってくれるのあんたしかおらん」
友達「こっちこそ言い過ぎてごめん」
声が少しかすれてる。
泣いてるんかな?
亜紀「ええって、私ももうちょっと理想落とさなあかんな」
そうや。
今年も彼氏できひんかったらまた学とイブにカラオケ。
それだけはイヤやしな。
亜紀「また今年も智史に笑われるわ」
友達「智史って時々話に出てくるけど誰?」
亜紀「ああ、地元の友達?かな、まぁ舎弟みたいなもんやな」
友達「よく遊ぶの?」
亜紀「昔っからな。あいつ今の歳で付き合ったことなくてさ。ヒマな時相手したってる」
友達「亜紀、その智史くんって人・・・好きじゃないの?」
智史が好き?
ないわ。
そりゃ人間としてはええヤツやけどな。
でも恋愛対象じゃないな。
友達「ふ~ん」
亜紀「おまけに大学出て地元のゲーム屋に就職するらしいで?ありえへんしな」
友達「そ~なんだ」
亜紀「でも料理はできるんよ、あの歳でずっと女おらんから危機感持ってるらしくて」
友達「ぷっ」
友達が噴き出した。
亜紀「な・・・何かおかしいこと言った?私」
友達「いや・・・亜紀さ智史くんのことなら何でも知ってるし、楽しそうだから」
亜紀「そらなぁ、小学校から知ってるからな」
友達「智史くん、亜紀のこと好きなんじゃない?」
亜紀「そうかもしれんな」
友達「ふふ、また自意識過剰出たね」
亜紀「ちゃうちゃう、あいつから人生で4回告白されてるから」
そう、あいつからは4回も告白されてる。
しつこいほどに。
最後に告白されたのは高3の卒業式。
そう言えばそれ以来告白されてないな。
毎年イブには遊んでるし・・・
それ以外に大阪帰った時には会ってるのに。
友達「4回も!?亜紀のことそんなに好きなの?」
亜紀「好きなんやろな。でもドキドキせんしな、恋愛対象じゃない」
そう、あいつはただの舎弟。
私のことを何でも聞いてくれる友達。
都合のいい男。
亜紀「でも高3以来告白されてない。もう私のこと好きちゃうんかな」
ドキッ。
気のせいやろか。
今一瞬・・・
心臓が高鳴ったのは。
友達「亜紀はそれでいいの?」
亜紀「何が?」
友達「亜紀のことそんなに大事に思ってくれる人いないよ?」
亜紀「だからこれから探すんです~、明日朝からバイトあるからまたな~」
ブチッ。
気のせいやんな?
私の言った言葉に何一つ偽りはないで。
だって思ったこと全部言う性格やもん。
なのに・・・
一瞬心臓が高鳴ったのは気のせい?
それより楽しそうって何?
私が智史の話してる時が?
そんなこと言われたんも初めてやな・・・
ていうか誰が何と言おうと私の”好きの形”は
隣にいてドキドキすること。
それが恋人。
私の言うてること間違ってないやんな?智史?
~大学4年・12月~
結局今年も彼氏できんかった。
マジで最悪。
今年のイブもまた智史とオールでカラオケか。
これで4年連続か。
そろそろ彼氏作らんとまずい。
「亜紀って実はモテへんの?」とか言われそう。
無理無理無理、それだけは絶対許さん!
そんなこと言うたらシバいたる!
私は毎年年末の20日ぐらいに実家の大阪に帰る。
でも今年は卒業研究に追われてて・・・
年始に提出やからギリギリまで大学にいた。
降り立った地、大阪。
今日は23日、いつもより少し遅く戻ってきただけなのに・・・
妙に懐かしいような気する。
この空気、やかましさ。
容赦のない割り込み、せっかちな人通り。
何か落ち着く。
やっぱり大阪が一番ええ。
でもまだ落ちつかへんな。
なんでやろ。
そや、智史の声きいてないからや!
今年は帰ってくるの遅れたからな、智史の家行こ。
そう思って足早に智史の家に向かった。
ピンポーン、ピンポーン
亜紀「智史~、おるか~」
いつものように智史の家の前ででっかい声で叫ぶ私。
いつもなら二階の窓が開いて
「もうちょい静かにしてくれよ~」
と弱々しい智史の声が聞こえるはずやのに・・・
今日は何か静かやな。
しばらく経ってインターホンから声が聞こえた。
智史の母「ごめんなさい、今智史出かけてて・・・」
亜紀「え、こんな寒いのにですか?」
智史の趣味言うたらほぼゲーム。
それ以外やったらバイトか。
智史の母「あの子、就職先にバイトに行ってるの」
亜紀「バイト?まだ大学生ですよね?」
智史の母「自主研修やねんて」
亜紀「そうか、おばちゃんありがと~」
智史の就職先は地元のゲーム屋。
駅からちょっと離れたとこにゲーム屋あったな。
何回か通ったことあるから多分あそこや。
明日も智史とカラオケか。
最近面白いことないしちょっと楽しみやな。
私は少し小走りになり、智史のいるゲーム屋に向かった。
ここのゲーム屋、案外でかいんやな。
私も昔はゲームよくやってた。
けどもうゲーム卒業したっていうか・・・
何か他のことに手一杯でやるヒマなくなった。
ここ入ったことないから入りづらいな。
まぁええか。
ウィーン。
店員「いらっしゃいませ」
亜紀「ここで智史って人働いてないですか?バイトで」
店員「今年内定した智史くんやね?あの棚のあたりで商品の整理してる」
亜紀「ありがとうございます~♪」
中は外見よりもっと広い。
背のだいぶ高い私でも余裕でかくれんぼできるぐらい。
私は店員に言われた方向に歩き出した。
・・・あれ?智史おらんやん?
茶髪の店員の後姿見えるけどあれどう見ても智史ちゃうし。
どこ行ったんや?
もしかして休憩でも行ったんかな?
まぁわざわざ直接話せんでもアドレス知ってるし。
あとでメール送っとくか。
そう思って帰ろうとした時だった。
智史「亜紀~、来てくれたんか」
・・・え?
後ろから聞き慣れた声。
智史の・・・声?
でもさっき見た時智史らしい人おらんかったけど?
どういうことや?
振り返った私は目を疑った。
茶髪の店員。
智史や。
茶髪だけでなくてちゃんと髪セットされてる。
メガネも取ってコンタクトにしたん?
何か智史ちゃうみたい。
わりとええ顔しとる・・・
というか大人になった?
亜紀「よぉ、誰かと思ったわ」
智史「ちょっとイメチェンしただけやん」
何かしゃべり方も大人になった?
そんな気がした。
とまぁそんなんどうでもいい。
今年もカラオケ誘いに来たんやったわ。
亜紀「明日毎年通り夜からオールでカラオケな」
私のいつも通りの遊びの誘い。
しかし智史から返ってきた答えは・・・
いつも通りではなかった。
智史「あーごめん、今年は無理やねん、ホンマごめん」
え・・・?
智史が私の誘い断った?
どうなるか分かってるよな?
亜紀「は?イブにこの亜紀様が誘ってあげてるのに何その態度?」
さすがにカチンときた。
でもさらに・・・
思いもかけない言葉を智史は口にした。
智史「実はさ、僕彼女できてん」
・・・え?智史に彼女?
聞き間違い?
私酔ってないよな?
亜紀「か~のじょ?彼女って言った?まさか!?」
私は唖然とする。
智史に彼女?
ありえへんやろ。
智史「スマン!今年はその人と過ごしたいから」
まだ信じられへん。
亜紀「へ、へぇ~、良かったやん!彼女か~そうか!」
またや。
心臓が高鳴る。
今度の高鳴りはあの時と違って・・・
速く、止まらない。
何なんや?
智史が彼女ってどんだけ生意気やねん。
亜紀「智史何言うたん?どうやって彼女落としたん?」
何でこんなこと聞いてるん?
あほらしい。
それでも智史は冷静に答えた。
智史「あー実は俺からじゃなくて彼女から告白されてん」
は?マジで?
人生で一度も付き合ったことないやつが?
告白されたって?
亜紀「何て・・・言われたん?」
智史「智史くん優しくて好きになりましたって」
亜紀「そいつどこのやつ?」
智史「大学のゼミの子」
亜紀「それで・・・OKしたん?」
智史「うん、ドキドキする人と付き合いたいって亜紀言ってたやん?」
亜紀「いやそれは私やろ」
智史「だから亜紀を見習った」
亜紀「何やそれ」
智史「彼女とならドキドキするからさ」
智史も多少は成長したんかな。
智史は確かに優しいもんな。
気のきつい私の言うことだってハイハイきくし。
人の悪口も言わへんし。
超インドアやけど・・・
それも別に悪いとこちゃうしな。
茶髪にしてコンタクトにしたんも・・・
彼女できたしか。
割と見れる顔やん。
・・・ていうか何で私いまさら
智史のええとこばっかり探してんの?
私何してんねんやろ。
智史「・・・亜紀?」
亜紀「え・・・」
あかん、ぼーっとしてた。
また顔から変なオーラ出てるかもしれん。
亜紀「そうかそうか、じゃあ彼女と良い時間を過ごしや」
智史「あ・・・うん、ありがとう」
亜紀「じゃあ、またな」
智史「うん、また」
智史にも私以外に好きな人ができたんか。
おめでとう。
そう100%素直に言えてないような。
何でやろ。
智史に彼女おって私に彼氏おらん。
その状況が未だに腹たつ。
私って本当に負けず嫌い。
智史「亜紀~」
帰ろうとしてるのに何よ?
智史「もうバイト終わるからこのあと飯食いに行かへん?」
亜紀「明日彼女とデートちゃうの~?」
智史「明日の予定は夜からやからさ、ええやろ~」
何か嬉しいな。
智史と久々に飯か。
亜紀「よし、亜紀様が同行してあげよう」
智史「お願いします!これ片付けたらあがるし」
亜紀「勿論寿司な!あとおごりで!」
智史「えー、あんま食わんといてやー」
亜紀「イヤや、それなりの覚悟してもらいます~」
智史「へぃ・・・」
亜紀「へいじゃなくてはい!やろ?」
智史「は・・・はい・・・」
それでよし。
智史は私に頭が上がらない。
そんな関係を続けてどれぐらいの日が経っただろう。
それでも私は智史と過ごす時間が面白い。
店員「おい、お前の彼女か!?べっぴんすぎやろ、俺によこせ」
智史「違いますって・・・友達ですとーもーだち!」
店員「なんやつまらんのぉ・・・ねぇちゃん茶飲む?こいつもうちょっとであがるんで!」
亜紀「いえ、待ってます」
店員「おーおー分かったもうええわ、お前にはもったいない彼女持ってからに・・・俺が片付けるからとっとと着替えてあがれっ」
智史「は・・・はい・・・ってだから彼女違いますって」
ここの店の人も良さそうな人やし・・・
智史にはこれから長年働く職場としていい環境かも。
しかも趣味と仕事が一緒っていいな。
私は収入のことしか考えてなかった。
働くことは生活するためにお金を稼ぐこと。
そう考えてたから。
私は完璧な人間。
非は何も無い。
そう思ってたけど智史の横にいるといまさら気づくことが多い。
やっぱり智史と過ごす時間は大切やわ。
私が色んなことに気づかされる時間。
私が気を使わずにいられる時間。
わがままを聞いてもらえる時間。
私の・・・大切な時間。
そんな時間はいつまでもあると
そう思っていた。
この日を最後に智史は
私のことを
”亜紀”って呼ばなくなった。