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序章
「世界は広い」
筋張った大きな手がノアの黒髪を撫でた。手の主は窓を背にしてこちらを向いていて、顔に影がかかっている。目元はよく見えなかったが、口は緩やかに弧を描いていた。
「そう、世界は広いんだ。知っても知ってもまだ足りないくらい」
そう言って男は窓の外に視線を移した。釣られるように、ノアも背伸びをして窓を覗く。いつも通りの青空と草原があった。すっかり緑一色になった木々は、葉を擦れ合わせてさわさわと音を立てていた。
「だから、色んなところへ旅をして、色んな景色を見るのが夢なんだ」
語る男の声色はずっと楽しげだ。それが嬉しくて、ノアは自分の頭を撫でる手を取り、小さな両手で握り込んだ。
じゃあ、いつか二人で旅に出よう。
そう伝えると、男は何も言わず、ただ悲しげに笑うのだった。




