5.具現化系
雇われ兵士が門の前に立っている。門は檻で封鎖されている。「通って良し」の一声で檻が上がっていった。
「おい。おぬしら、イーストブルーに行くのかい?」
酔っ払ったおじさんが絡んできた。
「道中は出るんだよ。賊がぁ。特に最近は物騒だぁ。だーから、うちのギルド役員を護衛として雇ってけぇ。安くしとくからぁ。」
「お言葉嬉しく思いますが、この度は丁重にお断りさせて頂きます。」
「いいんか。後悔するぞ。アンチギルドの奴らはマジでやべぇんだぞぉい。特に仮面のつけた幹部はやばすぎるんだぞ。ほんとにいいんだな?」
「えぇ。腕っ節には自信がありますので。」
カゲトは不敵な笑みを浮かべ余裕だと言うことを示していた。私達は絡んできたおじさんを無視して東門をくぐった。
少し歩く。
「アンチギルドって何……? カゲトは何か知ってるの?」
流石にあの場で聞けなかった疑問をここでぶつけてみた。
「えぇ。最近頭角を現した魔族側に付く人間の組合です。特に、仮面をつけた幹部四人は相当な手練とのことです。」
そんな人達がいるのか……。けれども、強い執事がいる安心感があるので、そうなんだぁ、みたいなふわりとした感覚しか持てない自分がいる。
林――。
門を出た瞬間、都の喧騒が嘘のように消えた。
道の先には林が広がっていて、人の気配はほとんどない。
周りを見渡しても等間隔で木が立ち並んでいる。明るい空の光が私達を照らしてくれている。
「さて、ジュリネお嬢様を鍛える上で大切なことがございますので、よく聞いてください。」
「何……?」
「お嬢様は『系統』を理解しておりません……ですよね?」
目を逸らしながら「……うん」と答えた。
「ご自身の『系統』を理解しなければ、強くなることなど到底不可能です。」
強く言い切った。それ程までに大事なことのようだ。それで……「系統って何?」
「系統とは技の適応する分類のことです。この世界では個々人の能力は、"四十五の文字"の他に"三種類の系統"によって振り分けられるのです。」
文字は分かる。私は『じ』で、カゲトとカナリンは『か』だ。
「系統の三種類は次の三つです。無から有を生み出す『具現化系』、状況や行動に直接働く『言霊系』、姿を変える『変身系』です。自身とは違う系統は発動に大きな制限や制約などが生じます。」
「それで、私はどれなの?」
「それを今から調べるのです。話を最後まで聞けないとは……もしかしてお嬢様の精神年齢は小学生低学年以下レベルですか?」
ぐぬぬぬぬ。こいつ……。
「一気に説明しても混乱するだけですので、一つずつ説明致しますね。」
「はいはい。教えて。」
「まずは『具現化系』からです。具現化系は召喚を中心とした技となります。例えば、私や以前戦ったまさかり担いだ魔法使いがそうですね。」
思い返してみたら、確かに何かを召喚していたような気がする。
「具現化系は基本的に二つの戦い方を持ちます。一つは武器を召喚してその武器で戦うスタイルです。」
【刀――】
彼の手に、パッと刀が現れる。
彼は刀を持って構える。
「二つ目は、技を召喚して放つスタイルです。」
火遁【火球】爆炎――。
前方に向かって炎の玉が木々を抜け、空気を焼きながら一直線に飛んだ。
爆風が吹き荒れる。
あまりの火の明るさに周りが暗くなったような印象を感じた。
「私はこの二つを組み合わせて戦っています。ちなみに、他の言霊系や変身系の能力も使えないことはないですが、戦闘で使うには些か弱すぎるため殆ど使用したことはありませんね。」
【家具――】開けた土地で私達はカゲトが召喚した椅子へと座った。戦う以外にも日用的に使える具現化系は便利だなぁって思う。
「さて、お嬢様。系統を調べるために一度、具現化系の技を発動して頂きたいです。そうですね……では、『銃』を作り出しては頂けませんか?」
銃をイメージして私自身の可能性を信じながら言葉にして【銃】を繰り出す。
手のひらにある銀色の拳銃は太陽の光を跳ね返してギラギラと輝いている。軽くて扱いやすい武器だ。
「よしっ」技に成功したことに喜びを感じる。
「では、あの木に向かって一発放って下さい。」
銃の扱い方を習ってないけど、それっぽく構えてバンだ。しかし、何も起こらない。
「あっ、銃弾が入ってない。【銃弾】っ!」
銃弾を作り出せた。それを……。少し手間取らせながらも入れることができた。後は放つだけだ。
バァンっ!
放たれた銃弾。
「なるほど。まるでゴム弾のようですね……。」
彼は木に当たって跳ね返った銃弾を拾い上げた。
「ねっ、凄くない? 私。私って多分、具現化系だよね?」
「いいえ、何も凄くはございませんよ。そして、具現化系ではないということも確かとなりました。」
「えー、どうして?」理由が気になる。
「私の知っている方に銃を召喚できる方がいらっしゃいますが、彼は銃弾を装着した状態で召喚なされます。さらに、威力はお嬢様のようなゴム弾――つまり遊び程度のものではなく、殺傷力のある鉄でできた銃弾でございます。」
「けどさ、銃弾作れるのも凄くない?」
何故かため息が放たれた。何でため息なんか吐いているのだろうか。少し眉をひそめてみた。
「銃弾がなくなった場合は、再び銃を召喚し直せばよろしいかと……。」
「どういうこと?」
「ピンときていないようなので申し上げますが、まさかり担いだ魔法使いの斧の使い方を思い返せば早いと思います。斧を投げて、その斧の召喚を解除しつつ再び手元に召喚する。銃に置き換えれば、銃弾が装着された銃を召喚と解除を繰り返せば何度でも放つことができるということです。」
「なるほどねぇ。」
「銃弾の装着について考慮せずとも、殺傷力のある銃を作れないお嬢様は『具現化系』ではないということです。次に、ことだ――」
そこに、一人の男がやってきた。少し力強い顔をしている。
「ったく、ここは俺様の狩場だ。邪魔すんじゃねぇ。」
濃い灰色のローブを着ているがフードは被らずに後ろに垂れ流している。頭の横にお面を付けていた。そのお面はどこか怒っているようにも見える。
「あ? 同業じゃねぇのか。見る感じに旅人だなぁ。こりゃ、グッドラックだぜ。」
ドスの効いた力強い声が林に響いていく。彼は後ろの木に足を置いて背もたれながら、私達に向かって指を指してきた。
「嬢ちゃんは合格点だ。こりゃ売れる。そこの兄ちゃんはさらに高値で売れそうだ。」
「何処の何方でしょうか?」
「あぁん? 俺様のこと知らねぇんか? だったら名乗ってやんよ。ありがたくお耳に残してけぇ。アンチギルド幹部、曇天怒面――山賊王子のゴンディとは俺様のことだ。」
町を出る前に噂に聞いたアンチギルドの幹部みたいだ。緊張感が走る。
「悪ぃことは言わねぇ。抵抗せずに捕えられてくれりゃぁ、俺様は痛い目には合わせねぇ。」
「もしお断りした場合は如何程?」
「ったく、商品価値下がるからやりたかねぇけど、逃すよりマシだよなぁ。力尽くで奪い取る。」
悪い笑みが浮かばれていた。
「土遁【瓦】手裏剣――」
数枚の瓦が横に回転しながら飛んでいく。
【ゴリラ】ぁ。
あの男はいつの間にかゴリラに変わっていた。
当たった瓦は砕けて落ちた。攻撃を受けた当の本人は無傷みたいに凛々しく立っていた。
「ゴリラの防御力と攻撃力を舐めんなよ。」
突然ゴリラが木に抱きついた。
もはやゴリラと木のカップリングは考えたこともなかった。
違った――。ゴリラは木を根っこ諸共持ち上げて大きな武器にし始めた。
ブンブンと振り回す木。私達は逃げることしか出来なさそうだ。
「お嬢様、武器を――。」
その言葉を聞いて銃を構える。
威力はないけど、もう神に願って撃つしかない。
バンっ!
ゴリラは持っていた木を盾にした。
「忍具【化学爆弾】――。」
私の攻撃に気を取られていた隙に投げ入れられた火薬爆弾。そして、ゴリラを襲う爆発。そのまま木を投げ捨てて、後ろへと飛ばされていった。
「お嬢様のお陰で隙を生み出すことができました。流石でございます。」
そう言われて鼻が高い。
「とりあえず、勝った……?」
「お嬢様。その言葉は禁句です。その言葉を仰って勝ちが決まった試しがございません。」
「あ……はい。」
彼の言う通りだった。人間に戻った男が怒号の表情で近づいてきた。「ゴリラの防御力を舐めんじゃねぇ。」
流石はゴリラだ。いや、ゴリラって普通爆弾受けても効かないもんだっけ……?
「兄ちゃん、やるなぁ。能力を解いたってこたぁ、どういうことが分かんよなぁ? 全力で殺しに行っても死にはしねぇもんなぁ。」
「お嬢様。お気をつけ下さい。嫌な予感がします。」
「嫌な予感は……正解だぜ。」
【ゴーレム】!
巨大な岩が私達の前に現れる。
今度は巨大な石でできた人型のモンスターであるゴーレムに姿を変えた。私達の五倍六倍近くある巨体にただただ見上げることしか出来ない。
「カナリンさん。お嬢様のこと、お願いします。」
カゲトの言葉が風を突き抜ける。
ゴーレムの腕が彼の近くまで来ていた。物凄く速い攻撃。その速さに目では追えなかった。
【轟速】【強力】
彼を吹き飛ばす強烈な一撃。
あまりの唐突な出来事に感情が追いつかない。
カゲトは無事なのかどうか。安否がとても気になる。どうか無事でいて欲しい。戦いの最前の真っ只中なのにそんなことしか考えられなかった。
彼が吹き飛ばされた方向から、稲妻が走った。何本もの雷が一直線に伸び、ゴーレムを直撃した。そして、大きく後ろに吹き飛ばした。
ゴーレムの姿が見えなくなった。
「ジュリネさん。気をつけて、何か来る。」
そこにはゴブリンの集団が私達を囲むように立っていた。カゲトは今はいない。私とカナリンで何とかするしかない。
私は息を飲んだ。




