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3.まさかり担いだ魔法使い

「じゃっ、やろっか。【魔法(まほう)】ブリザード!」


 私達が立っている一面土のフィールド。その土が凍っていく。私達の元に向かって氷の波が襲ってくる。


火遁(かとん)火炎(かえん)】烈火――。」


 刀から繰り出される炎が氷の波を止めた。


 ガッキィィィン!


 攻撃の合間をぬって近づいてきた不審者が薪割りみたいに斧を振り下ろし、それをカゲトは刀で応戦した。


 斧が刀の攻撃と反動で別方向へと進んでいく。


「まさかり担いだ魔法使い……。(ちまた)(うわさ)で聞いたことがあります。名のある猛者(もさ)を狙う愉快犯……と。」


「へぇ、そーんな噂流れてたんだー。まっ、全部が全部、好きでやってる訳じゃないんだけど……ねっ!」


 斧が振られる。

 ブンブンシャカラブンシャカラ。

 ブンブンシャカラブンシャカラ。


 それを刀で応戦。


「お嬢様。早くお逃げを。カナリンさん、お嬢様を頼みます。」


 斧と刀の激しい交戦。鉄と鉄の音が響く。


「分かった」と返事して、私達はその指示に従って、そこから少し離れた。


 安心を確認し終えた彼が蹴りを入れた。ローブと仮面の人が背後の方に飛ばされていった。


 飛ばされながら投げられる斧。

 それを避けて、追い討ちに飛び出るカゲト。


 カッキィィン。


 投げた斧は消えて手元に斧が現れる。再び斧と刀が交じりゆく。


「【魔法】サンダー!」


 雷が直撃した。


 ――と思ったら、さっきまで彼のいた場所に私を模した小さなぬいぐるみが存在している。


 ぬいぐるみがボロボロになった。私の見た目をしてるせいで、ちょっと嫌な気持ちになりそう。


「忍法【変わり身の術】」


 真上から落下しながら刀を振るカゲト。

 斧の広い部分で受け止める謎の人。


 その攻撃が終わると、彼は距離を取った。


 全てが服や仮面で隠されているものの、どこか疲れが見えているような気がした。


「もう一気に決める。これで終わだっ!」


 斧が下から上に向けてスイングされた。

 その時に地面を削る。さらに、地面から真っ赤な液体が飛び出してきた。


「必殺。【マグマ】――!」


地面が割れた。


そこから溢れ出したのは真っ赤な溶岩。

煮えたぎる熱が空気を歪ませながらこちらへと溶岩が流れていく。


「お見事です。シュニンクラスに及びそうな実力ですね。ですが、私には到底及びませんよ。」


 彼は刀を持ちながら独特な構えを見せた。


水遁(すいとん)【川】流水」


 今度は突然、現れる水。


 

 炎と水が衝突した――。


 シュワァ……。白い煙が瞬く間に周りに立ち込める。


 白い煙のせいで何も見えない中、鉄のぶつかり合う音だけが聞こえた。


 

 風が吹いた。


 煙が風と共にした。



 目の先には倒れかけのローブの人が見えた。左手が刀に突き刺されている。その刀を持つのは当然カゲトで、ローブの人の斜め上側に位置していた。


(まさかり)


 右手にパッと現れる斧。その斧を振り、左腹を抉る。片手だからなのか、体制が悪いからなのか威力は無さそうだったが、確かに痛そうだ。私の左横腹も何もされてないのに痛むような感じがした。


 刀を持つ手が緩む。それを見逃さなかったその人はその隙にその場から脱出した。


「また、機会があったらどっかで会おーねー!」


 全身服と仮面に隠れた少年声の人は、そこから立ち去っていった。


 


 

 私達は急いで傷を負う彼の元に向かった。

 痛そうな状況が私の心を痛ませる。


「ねぇ、大丈夫なの?」


「えぇ。これぐらい問題ありません。これぐらいのリスクは承知の上ですので。」


 ゲーム世界だから生々しい血は出ていない。けど、現実世界の私からすれば血が出ている痛々しい状況に思えてしまう。


「これぐらいなら余裕ね。」


 カナリンが傷口の近くに手をかざした。


回復(かいふく)――】


 みるみるうちに傷が回復していく。

 少ししたらさっきの負傷がなかった感じになった。


「すごい。そんなこともできるのっ!?」


 感嘆を隠せない。

 それを受けて彼女はえっへんと胸を張っていた。


 今、疑問が()ぎった。


「その回復って自分自身に使えたりしないの?」


「他人にしか発動できないんだよね~。」


 そこにカゲトが、

言霊(ことだま)は制約が厳しいですからね」と納得したように頷いていた。


 もう一つ疑問が過ぎる。


「カゲトも『か』の文字じゃない? 回復は使えないの?」


「系統が違いますからね……。」


「系統……何それ?」


 彼の耳元に近づいて「ねぇ、ジュリネさんって馬鹿……なんですか?」と訊ね、それに対してまたしても小声で「はい。馬鹿でございます」と返していた。



 聞こえてんぞ。「聞こえてんぞ!」



 薄笑いを浮かべた彼が口を開く。


「この世界に置いて、系統の基礎概念は読み書き計算と同類の常識でございますから……。」


 そうだったのか……。

 しかし、だからと言って馬鹿にされたのは解せないな……。ひとまず口を紡いだ。





 門を抜けて、人が多く彷徨(うろつ)く都市へとやって来た。急いで私だけが知っている秘密の抜け道へと向かう。


 裏路地を進んで、人の気配のない息止まりへとやって来た。


【時空――】


 しかし、何にも起こらない。


 もう一度、

【時空――】しかし、元のバーチャル世界への道は開かない。


 そこに突然メッセージが現れた。


『詩忍にくちなしの運営よりこのメッセージを配信しております。朱音様、大変申し上げにくい話ですが、魔王の力がその世界に強く及んでおり、こちら側の世界との隔離が進んでおります。現状、こちら側からのアクセスが非常に難しくなっており、この通信も残り僅かしか持続できません。』


 そこに流れる読み上げる言葉が絶望感を与えていく。


『また、再度確認したところ、このメッセージの次に我々運営がアクセスできるのは少なくとも十年はかかる目算です。介入に関しては二十年以上はかかると踏んでいます。』


 つまり、待ったとして出れるのは四十超えた頃。現実世界に戻った頃にはもう無職で結婚もしていないおばさんじゃん。最悪過ぎる。

 それに、今二十年以上と言った。つまり、そもそも四十超えたとて戻れる確証はない。

 例え四十歳になることを百歩譲ったとて、身内の不幸が起きた時に最後の別れを行えないという最悪な事実がある。それだけは何が起きたとしても絶対に嫌だ。


『ただ、主犯格AI――現在の魔王を討伐すれば我々からの介入が即座に可能となり、こちら側の世界に戻れるようになります。大変御足労おかけしますが、朱音様には魔王討伐ひいては討伐の旅に勤しんで頂きたく申し上げます。ただし、死ぬと現実世界でも死ぬことになるため、命大事にして頂きたいことも申し上げます。さて、さ、さ、さぁ、さ、じゃ、……。』


 そこでエラーが起きてメッセージは閉じてしまった。


 以前でた選択肢を思い返す。

①運営を待つ。五年どころか二十年以上はかかる。それもその確証すらない。

②古の都に来た。――駄目だった。

③魔王討伐。命の危険が高い。


 こうなると選択肢は一つしかなくなっていた。


「魔王討伐に行くしか無いかー。」


 まっ、待って人生を無駄にするよりも断然マシだからね。やるからにはしっかり頑張らなきゃ。


「お嬢様がその気なら、(わたくし)めも人肌脱ごうと思います。お嬢様が良ろしければ、どこまでも着いていきますよ。」


 私には執事カゲトが付いてる。何か今行けそう感が半端ない。


「奇遇ねっ。カナリンも実は魔王討伐のために動いてたのよ。そのせいで死にかけになった所を助けて貰ったの。」


「そうだったんだ。じゃあ、目的を一緒にした仲間だね。」


「だねっ!」


 執事がここで、

「ひとまず喫茶店にでも向かいましょう」と提案した。


 影に隠れた薄暗い場所。そこよりも日当たりの良い喫茶店にいた方が良い気がする。私はその意見に賛同した。



◆◆


 

 VRMMOで異世界転移バグを見つけた私、お嬢様生活してたら魔王討伐することになりました。お嬢様、『詩忍にくちなし』のお時間です!


 

◆◆


「じゃっ、ひとまず行こっか!」


 私達は足を前に出した。

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