悪役令嬢に転生したけど断罪は嫌なので、攻略対象に助けを求めた結果
名前を借りました
唐突に思い出した。
私は、日本の高校生だった。
でも今、王子との婚約を打診されたから、王子と顔合わせをしている。
目の前の王子、見たことある…
たしか、妹がやっていた乙女ゲームに出てくるキャラだ。
そして私は、王子の婚約者の侯爵令嬢。バーニーズ、10才。
…乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
婚約者を奪ったヒロインをいじめて、婚約破棄された挙げ句に断罪されるのだ。
…嫌だ!どうしよう…
断罪されたくない…
顔色が悪くなったのだろう。
国王様が、どうしたのか聞いてくれた。
私は、気分が悪くなった振りをした。
まぁ、本当に気分悪いけど。
国王様が心配して、家に帰って休むように言ってくれた。
…優しい…
婚約者になるかもしれないはずの王子エアデールは、笑顔でこちらを見ているが目線が合わない。
合わなくて良いか。
王城の護衛騎士さんが、私を横抱きにして、馬車まで運んでくれた。
小さな声でありがとうと言うと、騎士さんは、お大事にと返してくれた。
両親は、オロオロしていたが、家に着くとすぐに医者を呼んでくれた。
医者は、王家の方々とお会いして、緊張したのだろう、ゆっくり休むように、と言った。
1人になると私は、ベッドに横になったまま、今後のことを考えた。
妹が語っていた話を思い出す。
断罪は、学園の卒業パーティーだった気がする。今10才で、卒業が18才だから、8年後?
でも、1才上の王子の卒業だと7年後?
今から対処すれば間に合うかな?
…よし、何とかしよう。
何とかする時
何とかすれば
何とかしろ
悪役令嬢に転生して、断罪を回避するなんて、よくある話だよね?
よくあって た ま る か !
どうすれば断罪されないか。
三日三晩考えた。
断罪物によくあるストーリーは、隣国の王子に惚れられて、婚約破棄されたあとに、隣国の王子にプロポーズされる展開。
でも、このゲームは、そんな展開は無い。
断罪された後に、修道院に送られる途中で、悪役令嬢が乗った馬車が事故に遭う、というナレ死をする。
…攻略対象者達の策略で。
私は、攻略対象者を思い浮かべた。
攻略対象者は
王子 笑顔だが目が笑ってない腹黒
公爵令息 冷たくて目つき悪い潔癖
騎士を目指す男 全部筋肉で解決する
魔術師を目指す男 独占欲、監禁する
隣国の王子 ストーカー
…ヤバ目のメンバーを逆ハーレムにするゲームだった。
悪役令嬢の婚約者は腹黒王子。
年頃の侯爵家の令嬢は他にもいるのに、何で悪役令嬢が選ばれたのか?
王子の婚約者の候補に上がったのは、この国で爵位が高い侯爵家の令嬢が5人。
12才が1人、11才が2人、10才の私ともう1人だ。
ちなみに王子は11才。
何故か私が第1候補らしい。
婚約者がいるのに他の女の子と浮気して、大勢の前で断罪する。
そんな男と婚約したくない。
王子との交流のお茶会に、体調不良で欠席ばかりしていたら、1人に決めずに候補のまま様子を見ることになった。
5人それぞれ、王家から家庭教師をつけられて王子妃教育を受け、最終的に学園の成績により、決められるらしい。
ならば、目立たないようにするべきか?
他の候補を有利に仕向けるべきか?
…婚約をしないのが1番良い。
婚約しても、ヒロインをいじめなければいい。
…でも、もしいじめたと冤罪をかけられたら?
第三者の誰かに、無実を証明してもらえばいい。
そもそも、学園に通わなければいい?
誰か助けてくれそうなキャラいないかな?
悪役令嬢を助けてくれる人なんていないか…
私の事を見ててくれる人…
ストーカー王子…
ストーカー王子を利用しようか?
ストーカー王子ことロットワイラー王子は、隣国からの留学生だけど、王子の身分は隠していて、我が国の王家の方しか知らない。
伯爵令息としてひっそりと過ごしている。
こっそり陰からヒロインを見ていて、断罪の時に、悪役令嬢の悪事を証言してヒロインを助ける。
その証言を私の為にしてもらうのだ。
ヒロインは途中から編入してくるから、先にストーカー王子に近付こう。
でも、どうやって?
ヒロインとの出会いは、図書室。
図書室にいるストーカー王子とヒロインが、同じ本を取ろうとして出会うのだ。
ストーカー王子が読んでいる本を先に借りて読んで、視界に入れる作戦はどうだろう?
好かれるかはともかく、興味を持って、ストーカーしてもらえればいい。
…ストーカーしてもらえるかな?
とにかく、学園に入学する13才まで間があるから、色々準備をしよう。
王子妃教育を受ける中で、色々考えも変わる。
一応侯爵令嬢だから、目立たない訳にはいかないよね…
それに、成績悪かったら、候補から外れるかな?と思ったこともあるが、やはり、上に立つ者の責任とかあるし、学年上位の成績は取りたいところ。
それなら、他の候補の令嬢が目立つようにしようか?
でも、よく考えたら、ヒロインが来て王子と恋に落ちるんだから、ヒロインを応援するべき?
確かゲームでは、ヒロインは女生徒から嫌われていた。
婚約者がいる男子生徒ばかりに声を掛け、王子達、攻略対象者を侍らせていたからだ。
自分の婚約者を取られて、それなのに本命は王子だったら、誰だって嫌いになる。
だから、ヒロインは嫌がらせをされていた。
その嫌がらせの筆頭が悪役令嬢だ。
ヒロインが悪口を言われていたら、ヒロインを弁護するのも良いかもしれない。
ヒロインのいないところで。
ヒロインをいじめさせない。
あとは、ヒロインの様子を見て、対処を考えよう。
そういえば、ヒロインって転生者なのかな?
転生者なら絶対に私に冤罪をかけて、私は断罪まっしぐらだ。
もし、逆ハーレム狙いだったら、転生者なのかもしれないが、転生者でないのに素でやってたらどうしよう。
廊下で、男から声を掛けられた。
隣国の留学生ことストーカー王子ことロットワイラー王子だ。
…偽名は使わないんだな。誰か気付けよ。
「おい、お前」
「何ですか?」
「お前が今借りている本」
「本?」
「早く寄越せ」
「………?私が図書室から借りている本を読みたいと言う事ですか?」
暗号みたいなストーカー王子の発言を解読した。
「そうだ」
「あと3日は借りてよい規定なのですが…」
「…」
無言で睨む男。
「他の本ではダメなのですか?」
「ダメだ」
「…困りましたね…」
「何故だ」
坊やだから…じゃない。
問答無用?そんなに見たいのか?
猫図鑑。
「…分かりました。今は家にあるので、明日持ってきて図書室へ返却します」
「そうか、明日だな」
「はい」
「ならいい」
去っていくストーカー王子。
ヒロイン編入前なのに借りるのか?
まさか、何度も借りてるとか?
まさかね…
次の日。
私が図書室へ本を返却するのを待ち構えているストーカー王子。
返却されて、すぐに借りたいと司書に言っていたのか、司書が手続きを終えるとすぐに本を借りて帰るストーカー王子。
ちょっと口角が上がってるので、よほど嬉しいのだろう。
ストーカーなのに猫好きなんだね。
確か、ゲームでは、両親(国王夫妻)が執務で忙しく構ってもらえない寂しさを、城に迷い込んだ子猫と関わることで紛らわせていた、とかなんとか。
ヤンキーが猫と戯れるギャップにメロメロ…的な人気があるらしい。
妹が言ってた。でもストーカーだよ。
ともかく、留学先では飼えないから図鑑で紛らわせようと、図書室で猫図鑑を借りようとして、同じ本を手に取ろうとしたヒロインと出会うのだ。
ヒロイン…猫好きだっけ?
攻略に、図書室で猫図鑑を借りるってあったからかなぁ?
他の本は借りれるのかなぁ?
ストーカー王子に、同じ猫好きと思われて気に入られるのかなぁ?
腹黒王子に好かれ、目つき悪い潔癖の公爵令息に好かれ、何でも筋肉で解決しようとする騎士を目指す脳筋男に好かれ、独占欲増々の魔術師を目指す男に好かれ、ストーカー王子に好かれるとか、どうやったんだろうヒロイン。
男運悪くないか?
よく人気出たな、このゲーム。
まぁ、自分じゃないから良いのかな。
次の日、また廊下で声を掛けられた。
「おい、お前」
「何ですか?」
「本に挟んであった」
半分に折られた紙を渡された。
「……?あら、全部取ったはずなのに」
紙を受け取り中を確かめる。
私が描いた猫のスケッチだ。描いたスケッチは、後から猫の種類を書くために本に挟んでいた。
本を返す時に全部取ったはずなのに。
でも、折り曲げた記憶はない。
最初に描いて、上手く描けなかったやつを、栞代わりに挟んだのだろうか?
「わざわざありがとうございました」
「…何をする予定だ」
「何がです?」
「この絵は何に使うつもりだ?」
何でそんなことを聞くのか。
「…刺繍です」
「刺繍?」
「猫の刺繍の…デザインの参考にしようと思って、描きうつしてたんです」
「…それは…急がせて悪かったな」
何故か動揺するストーカー王子。猫好きと思われたか?
まぁ好きだけど。猫グッズ集めたくなるくらいは。
「急いで確認したい事があったんでしょ?」
「…まぁな」
ストーカー王子は、ただ猫を見たかっただけだったのだろう、気まずそうに視線を逸らした。
「それなら仕方ないですよ」
「…刺繍ができたら…見せてくれないか?」
「え?」
首を傾げると、視線を逸らされたままだった。
「どんな刺繍になるか興味ある」
「下手なので…」
「下手でもいい」
「時間掛かりますし…」
「時間掛かってもいい」
「期待しないでください」
「絶対に見せろよ。見せるまで待ってるからな」
ストーカー王子は私の目を見て睨みつけてきた。拒否権なしか。
「…分かりました」
「約束だからな」
そう言って帰っていった。
ヒロインが編入してきた。
図書室の窓から、王子と出会いのイベントの現場である、学園の庭園の様子を見る。
王子の前でわざと転んだヒロイン。
手を伸ばし、ヒロインを立ち上がらせて、医務室へ連れて行く王子。
あ、ヒロインに近付いたら、私に突き飛ばされた振りしてわざと転ぶかもしれない。
ヒロイン怖い。
別の日には、どこからか視線を感じるが、あえて無視していたら
「悪役令嬢だ」
と聞こえてきた。
私を悪役令嬢と言うヒロインは、多分、転生者だ。
…関わらないようにしよう。
図書室で本を探していると、声が聞こえてきた。
こっそり、声がする方を見る。
「猫がいない人生なんて、考えられません」
ヒロインのゲームでのセリフだ。
この言葉で、ストーカー王子はヒロインに心を開くのだ。
流石、転生者。逆ハーレムに向けてイベントを進めているらしい。
噂では、既に潔癖の公爵令息と、騎士を目指す脳筋男と魔術師を目指す監禁男を侍らせているらしい。今は腹黒王子とストーカー王子を攻略しているのだろう。
腹黒王子は、そろそろ落ちそうな感じ。
最近は、ヒロインのそばにベッタリで、婚約候補者達とは交流していないらしい。
婚約者じゃないから、浮気にならなくて良かったね。王子。
でも、ヒロインは浮気してるよ。
そして王子に、私にいじめられてると訴えているらしい。
「婚約者のエアデール様を奪ったからって、バーニーズにいじめられてるんです」
「何だと?許さん!」
今にも殴りに行きそうな王子を止めるヒロイン。
「もし、エアデール様がいじめを指摘したら、誰にも分からないようにいじめるに決まってます。だからバーニーズには何も言わないで…」
「分かったよ…キャバリアは、私が守る!」
見つめ合い、2人だけの世界を作っている。
…私を王子の婚約者だと思ってる…やっぱり転生者なんだろうな…
階段を降りようとしたら、声が聞こえてきたんだよ。
…盗み聞きじゃないよ。
と、回想していたら、
「なぁ…刺繍まだ?」
ストーカー王子に声を掛けられた。
ヒロインは帰ったのか?
「…まだです」
不器用なので、上手くできない。
猫…というよりも、謎の生物ができあがったので、また新しく刺繍している。
「刺繍しているところを見たい」
「無理です」
「見せろ」
「…自分で刺繍してください」
「は!?」
睨まれた。
「それか、キャバリアに刺繍してもらってください」
「やっぱり見てたのか」
「本を探してたら、声が聞こえてきたんですよ」
「浮気じゃないよ」
浮気?何を言ってるんだ?
「…私達、付き合ってましたっけ?」
「いや」
「じゃあ何で…」
「お前の刺繍が見たいんだ。他はどうでもいい」
私は、瞬きをした。
「待ってるって言ったろ?」
「時間が掛かります」
「そんなにか?」
「じゃあ、自分でやってください」
「…」
ストーカー王子は、渋々帰っていった。
その後、キャバリアと腹黒王子のイチャついてる姿をよく見掛けた。
キャバリアの姿を見掛けるたびに、見つからないように逃げる。
まだ、キャバリアとは話した事はない。
腹黒王子が公務でいない時は、潔癖公爵令息か、脳筋か、監禁魔のどれかとイチャついていた。
それから、ストーカー王子にも絡んでいた。
物凄いバイタリティーだ。
よく同時進行できるなぁ…
私には無理だ…
ヒロインじゃなくて良かった。
いや、ヒロインだったとしても、同時進行は無理だ。
おや?今日はストーカー王子を攻略する日ですか?
キャバリアは、ストーカー王子にグイグイ迫っている。
腹黒王子が公務でいないからって、自由過ぎるな。
他の生徒が見ているのに、堂々と浮気するって凄いなぁ…
どういう神経してるんだろう?
ほら、潔癖と脳筋と監禁男が睨んでるよ。
休み時間には、脳筋と腕を組んで歩いていた。
ランチタイムには、潔癖と脳筋と監禁男とキャバリアの4人でランチを食べていた。
授業終わりには、3人を引き連れて、買い物に行くらしい。
キャッキャウフフしながら歩いていた4人と、ストーカー王子が遭遇した。
「ロットワイラー!一緒に買い物に行かない?」
キャバリアが、気軽に声を掛ける。
「用事がある」
スタスタと去って行くストーカー王子。
不満そうな顔をするが、男3人に慰められて、機嫌を直すキャバリア。
その光景を遠くから眺めていた。
女生徒達が、キャバリアの陰口を言っていた。
「わざわざ私の前で、私の婚約者とイチャイチャしなくても良いのに」
「腕組んでいながら、友だちだから、なんて、あり得ないわ」
「私の婚約者を奪っておきながら、王子とイチャつくなんて」
「男を何人も侍らせて」
「どうして男は、あんなのに引っかかるのかしら」
憤る彼女達に、声を掛ける。
「貴方達…大丈夫?」
「「バーニーズ様」」
驚く女生徒達に優しく語りかける。
「婚約者を取られて悔しいわね。悲しいわね。…あの子はね、人の婚約者を奪わないといられない病気なの。可哀想にね」
女生徒達は、確かに病気なのかも、と思った。
「浮気した婚約者と別れたいなら、婚約を白紙にする手続きをして、他の人を紹介するわ。そのまま婚約者との将来を望むなら、その手伝いもするわ」
女生徒達が、ハッとした顔をする。
「浮気…」
「婚約を白紙に…」
「貴方達には笑顔が似合うわ。素晴らしい未来が待っているんだから、陰口を言ってる暇なんてないわ」
私の言葉に、女生徒達が頷く。
「そうですね」
「バーニーズ様の仰る通りだわ」
「浮気した事を後悔させる為にも、私、立派な淑女になるわ!」
「「私も!」」
そんな感じで、キャバリアをよく思っていない女生徒達を、慰めたり、励ましたりしていた。
しばらくすると、女生徒達は、キャバリアなんか目じゃない、と、気にしなくなっていた。
目の前で、婚約者とイチャついてるところを見せられても
「仲がよろしいのね」
と、スルーしていた。
キャバリアは、思ったような反応をしてもらえなくなり、イライラし始めた。
「バーニーズがいじめるんです」
キャバリアは、ストーカー王子に向かって訴えていた。
「はぁ?」
ストーカー王子は、腕に絡みつこうとするキャバリアを避けながら
「可哀想だな」
と言った。
「バーニーズから私を守ってほしいの」
上目遣いで、目をウルウルさせるキャバリア。
凄いなぁ…女優だなぁ
逆ハーレムの為に頑張るねぇ
図書室の本棚の陰に潜みながら、感心していた。
キャバリアは、黙って図書室から出て行ったストーカー王子を追いかけた。
う〜ん。何かモヤモヤする。
別に、ストーカー王子の事を好きなわけではないと思うんだけど。
キャバリアの話を聞いて、可哀想だな、なんて。
私がいじめてると思った?
それとも、妄想でそこまで言えるなんて、っていう意味の可哀想?
それにしても、キャバリアって本当…腹黒だなぁ…
腹黒王子とお似合いじゃん。
さっさと婚約すれば良いのに。
腹黒王子は誰とも婚約してないんだから。
…腹黒王子…自分が婚約してない事を…覚えてるかな?
まさか…
まさかね…
だって、『婚約者のエアデール様を奪ったから…』って言ったキャバリアの言葉を、そのまま受けてたよ?
腹黒王子、もしかして、私と婚約してると思ってる?
まさか…
腹黒王子は、流石に頭は良いと思うんだけど…
そこまで考えていた時
「やっぱりここにいたか」
ストーカー王子に声を掛けられた。
「何ですか?」
「さっきの話…聞いてただろう?」
「…」
「俺は、いじめてないって知ってる」
ストーカー王子、やっぱりストーカーしてたんだな。
「刺繍ができあがるのを、待ってるから」
わざわざ、それを言いに戻ってきたのか。
っていうか、刺繍待ちでストーカーしてたんだ。
何だか、利用しているのが、申し訳なく思えてきた。謎の生物ばかり仕上がり、まだ猫が完成してない。
「私…貴方のこと利用するつもりだったんです」
「利用?」
「私がキャバリアをいじめてるって冤罪をかけられて断罪されるので、貴方に私を見ててもらって、無実の証明をしてもらおうと思って…わざと近付いたんです」
「わざ…と…?」
ストーカー王子が目を見開く。
「貴方が猫図鑑を借りるのを知っていたので」
「え…?」
「私も、キャバリアも、別の世界の記憶があるんです。
この国は、キャバリアが主人公の…小説の舞台に似ていて、王子や公爵令息や…貴方が出てきて、キャバリアと仲良くなるストーリーで…だから、貴方と仲良くなる方法が分かるんです」
ゲームって言っても分からないだろうから、小説って事にした。
「…そういえばキャバリアが図書室で声を掛けてきたな…その後やたらと絡んでくる…」
ストーカー王子は、しばらく考えていた。
「それで、断罪されるのはいつなんだ?何の冤罪をかけられるんだ?」
「キャバリアをいじめるんです」
「いじめる?」
「婚約者のエアデール王子を奪ったと嫉妬して、キャバリアを突き飛ばしたり、悪口を言ったり、教科書を破いたり」
「お前、そんな事してんのか?」
「まさか」
「だよな。そんなとこ見たことない」
「会うと、わざとらしく突き飛ばされた振りしたり、悪口を言われた振りしてくるかもしれないから、会わない様にしてるんです」
私の話を聞くと、ストーカー王子は納得した。
「なるほど…それで、断罪されるのはいつなんだ?」
「卒業パーティーの日です」
「今年の?」
「…王子が卒業する年ですかね?」
「何で断罪されるって分かったんだ?」
「そういうストーリーなんです」
「小説のか」
「はい」
納得したように頷くが、首を傾げるストーカー王子。
「…でも、お前まだ王子の婚約者じゃないよな?」
「そうなんですけどね」
「それなのに嫉妬か?」
「小説では、婚約者だったんです。…断罪されたくないから、婚約者にならないようにしました。無理矢理こじつけて、だからいじめたんだろうという理由付けにはなるでしょう」
ストーカー王子は、しばらく考えて
「どうして、利用するつもりだと俺に話したんだ?」
「…刺繍の完成待たせてるし…なんか…申し訳ないというか…黙っていられなくなって…」
「嫉妬か?」
「嫉妬?」
「俺とキャバリアが話しているのを見て嫉妬したのか?」
「…そうかな…よく分からない…」
ストーカー王子は、まっすぐに私を見た。
そんなこんなで、腹黒王子達の卒業パーティー。
「バーニーズ!お前との婚約を破棄する!そして、このキャバリアと婚約する!」
腹黒王子ことエアデールが叫んだ。
「お前は、私の愛するキャバリアを傷付けた!お前は絶対に許さん!」
「…何かお間違えでは?」
会場がざわついている。
それはそうだ。
腹黒王子には、婚約者はいない。
私と腹黒王子は、婚約してない。
この王子は何を言ってるんだ、と会場にいるほとんどが思った。
ていうか、やっぱりか。
私と婚約してると思い込んでいる。
「うるさい!罪を認めてキャバリアに謝れ!」
「バーニーズの話も聞いてやれよ。両方の意見聞かないと不公平だろ」
ストーカー王子が割り込む。
「何だと!?」
腹黒王子がいきり立つ。
気にせず、ストーカー王子が続ける。
「裁判では、両方の意見を聞くもんだ」
「グッ…」
腹黒王子は、奥歯を噛み締めた。
どうした腹黒王子。腹黒成分が迷子になってるぞ。
ストーカー王子に負けてるぞ。
「王家に嘘つくと偽証罪になるけど覚えておいてね。で、いつ何をされたって?」
キャバリアが口を開く前に、ストーカー王子が言う。
「ところで、俺はこいつの事が気に入っていて、いつ何があっても駆けつけられるように、いつも陰から見守っていたんだよね」
腹黒王子も、キャバリアも、怪訝な顔をする。
「こいつとその女、話すの初めてなんだけど、どうやっていじめられたんだろうね?どうやって突き飛ばされたんだろうね?俺に分かるように教えてよ」
「…人を使ったんです」
「人?誰のこと?」
「取り巻きです」
「さっきはバーニーズがしたって言ったのに。で、取り巻きって誰?お前みたいに男侍らせたりしてないよ。してたらその男達殺すもん」
ストーカー王子の発言に、引き気味のキャバリア。
「…女生徒です」
「お前に婚約者を奪われた女生徒?」
「そうです!奪うつもりはなかったのに…私が愛されるから…だから、婚約者のエアデール様を奪われた悪役令嬢のバーニーズや皆が、私をいじめたんです!」
「その女達は、最初だけお前に注意しただけだろう?その後は、バーニーズに宥められて何も言ってないはずだ。それに、バーニーズは婚約者じゃないよ」
「え?」
「婚約者候補なだけだよ」
「「え?」」
キャバリアだけでなく、腹黒王子も驚いている。
自分の婚約くらい把握しろ。
お前には婚約者候補が5人いるんだよ。
交流のお茶会してたろうが。
…本当に忘れてたんだね。
誰も教えてくれなかったの?
その、後ろにいる潔癖とか脳筋とか監禁男は、教えてくれなかったの?
もしかして、友だちいないの?腹黒王子。
可哀想にねぇ…
「ただの、婚約者候補だ。その婚約者候補も他に4人いる。だから、嫉妬する理由もない」
「え?」
「お前をいじめる理由が無いんだよな」
「そんな事ないわ!その人に、突き飛ばされたもの!」
「王族の前で嘘付いたら、罰があるってさっき言ったの覚えてるよな?で、いつ突き飛ばされたって?」
腹黒王子は、ストーカー王子とキャバリアの応酬を黙って見ている。
ちゃんと話について来いよ。
腹黒王子なのに、腹黒が行方不明になってるよ。
「き、昨日よ!」
「昨日のいつだ?」
「昨日の放課後よ」
「どこで?」
「図書室よ!」
「どうやって?」
「後ろから突き飛ばされたのよ」
「後ろから突き飛ばされたのに、よくバーニーズって分かったな?」
「振り向いて、誰が犯人か見たのよ」
「嘘偽りないな?」
「ないわ!」
おや、はっきり言ったね。ヒロイン。
「昨日は、休室日だったのに、どうやって図書室に入ったんだ?」
「え?」
「そこにいる司書!証言を」
突然話を振られて驚く司書さん。
「はっ!はい!昨日は、休室日だったので、私は休みでした!鍵は開いてません!」
「よろしい」
満面の笑みで司書に頷くストーカー王子。
「だから、俺とバーニーズは、授業が終わったら、街へ行った。さて、お前はどうやって図書室に入り、バーニーズに突き飛ばされたんだ?取り巻きはどうした?」
「嘘よ!あなた私の味方じゃない!何で悪役令嬢の味方するのよ!」
「お前の味方になった覚えはない」
「酷いわ!私のこと好きって言ったのに」
キャバリアの発言に、腹黒王子が驚く。
「ロットワイラー!お前、私のキャバリアを誘惑したのか!?」
「お前…妄想を言うな!俺が好きなのはバーニーズだ。浮気女なんて嫌いだよ。気持ち悪いな」
腹黒王子を無視して、キャバリアに向かって言うストーカー王子。
「お前、俺が浮気嫌いなの知らないのか?エアデール以外の男とも遊んでいるくせに、俺にまでちょっかい出して来やがって」
「は!?どういう事だ?」
腹黒王子がストーカー王子に詰め寄る。
「エアデールがいない時は、そこの男3人と一緒にいたぞ。知らないのはお前だけだ」
ストーカー王子は、キャバリアの後ろにいる潔癖公爵令息と、脳筋と、監禁魔を指差した。
「はぁ?!」
腹黒王子は、パニックになった。
「ち、違うわ!そんなの嘘よ!私を貶める為の嘘よ!」
キャバリアが叫ぶ。
「この女は偽証罪で牢に入れろ」
冷静なストーカー王子。
「あんたにそんな権限ないでしょ!」
「王族に嘘ついたら偽証罪になるって言ったよな。そこのエアデールも王族だぞ」
「そうだけど!エアデールは私の事が好きだから!」
「キャバリア…」
見つめ合うキャバリアと腹黒王子。
「まぁ、良いけどさ。エアデールは、婚約破棄を宣言して、新しい女と婚約するって言ったよな。つまり、自分は婚約者がいるのに浮気する、信頼できない男ですって世間に宣言したんだぞ」
ストーカー王子が言った。
「は?」
腹黒王子がストーカー王子を睨む。
「婚約という約束を、簡単に破る男だぞ。国同士の契約も簡単に破るんだろうな。そんな王子や国王は信頼できないな」
確かに、そうだな…と、会場にいるほとんどが思った。
「本当は婚約してないのに、婚約破棄を宣言した。そこの女に唆されたんだろ。つまり、ハニートラップに簡単に引っ掛かったバカですって世間に宣言したんだ。
簡単に国が乗っ取られるじゃないか。俺だったら恥ずかしくて出かけられないよ。だいたい、そんなのに政を任せられるか」
確かに、そうだな…と、会場にいるほとんどが思った。
「キャバリアの話を真に受けて、バーニーズの話は聞かない、不公平な王子だ」
確かに、そうだな…以下略。
「浮気する人間は、何度も浮気するぞ。苦労するな、お前ら。似たもの同士、仲良くやれよ」
愕然とする、キャバリアと腹黒王子。
確かに、そうだな…以下略。
そこへ、国王がやってきた。
腹黒王子とキャバリア、ストーカー王子以外が礼をする。
「エアデール、お前の王位継承権を剥奪する」
国王の宣言に
「父上?何故ですか?!」
「理由は、ロットワイラー殿が言ったではないか。聞いていなかったのか?」
「え?」
「お前は、信頼を失った。そんなお前に王は任せられない」
「そんな…」
「そもそも、お前は、誰とも婚約していないのに、何故婚約破棄をした」
うん。確かにそうだ。
「そっそれは…」
「婚約破棄したいなら、その為の手続きをしなければならない。ここで婚約破棄を宣言しても、どうにもならない」
本当にね。
「自分がしてもいない婚約を破棄するなど、滑稽だ。誰がそんな王に仕えたいと思う?」
国王の言葉に、何も言えずに俯く腹黒王子。
「エアデールも、そこの女も、離宮に幽閉する。反省するまで謹慎していろ」
近衛騎士達が、腹黒王子とキャバリアを連れて行く。
「皆のもの、騒がせてすまなかったな。卒業パーティーを楽しんでくれ。卒業おめでとう!」
国王の言葉に、全員が頭を下げた。
それを見届けると、国王は退出した。
卒業生達は、せっかくのパーティーだからと楽しむ事にした。
王城の庭園を、ゆっくり歩く。
在校生の私は、パーティー会場にいなくても、誰も気にしない。
…やっと、終わった…
断罪されずに済んだ…
「そこの可愛らしいご令嬢、私と踊っていただけませんか?」
後ろから声が掛かる。
ストーカーしてきたな、ストーカー王子。
振り返り、差し出された手を見る。
「助けたんだし、踊ってくれても良いと思うんだが?」
「ここで?」
「ここで」
「音楽は?」
「ちょっと聞こえる」
私は少し笑って、手を乗せた。
かすかに聞こえてくる音楽に合わせて踊る。
「なぁ、俺の国に来ないか?」
「国?留学するって事?」
「いや。ここで卒業して、俺の国に行って、俺と結婚する」
「???」
ストーカー王子の目を見た。
真面目な顔をしている。
「お前の事を気に入った。それに、まだ刺繍を見せてもらってない」
「…それで、何で結婚なの?」
「お前を気に入ったからだ」
「理由になってない」
「俺は、気に入ったものを側に置きたい」
あれ?ストーカー王子も監禁するタイプ?
「いつまでも刺繍ができあがらないから、ずっと待っている。結婚すれば、いつまでもそばで待てるだろう?」
呆れた顔をした私に
「俺の国の固有の猫もいるぞ」
…猫…猫を出されると弱い。
「俺が飼っている猫もいるぞ」
畳み掛けて来たぞ。
「飼い猫で、甘えん坊だから、撫で放題だぞ」
「…待って!あなたの国の言葉も文化も、知らないんだけど」
誘惑に抗う。
「俺が教えるさ。1年あれば、覚えられるだろう?」
「…」
う…勉強は嫌いじゃないけど…
「俺が、手取り足取り教えるよ」
「いやらしい言い方!」
「ふふっ…威嚇する猫みたいだな」
「シャー!」
「本当に威嚇するな」
ストーカー王子は、腹を抱えて笑い出した。
あ、これ、おもしれー女と思われたな。
「婚約したいなら、父に言ってください。王子の婚約者候補から、外れたでしょうから」
「そうだな…いや、エアデールの弟がいる…はっ!急いで婚約しなければ、弟に取られる?よし、急いでお前の家に行こう」
私の手を握り、走り出す。
ストーカー王子は、その日のうちに、父に婚約させろと詰め寄った。
隣国の王子だと、正体を明かして。
でも、騒ぎになるのは嫌なので、婚約は発表しても、王子の身分は隠したい、と言った。
父の許可も取り、ご機嫌なストーカー王子。
「ロットワイラーと、名前で呼んでくれ」
そういえば、名前呼んでなかった。私の中ではストーカー王子だし。
「お前の事は、バーニーズと呼ぶ」
「呼び捨て?」
「婚約者なんだから、良いだろう?」
グイグイ来るなぁ。
「今日はもう遅い。帰って、また明日来る」
そう言って、ストーカー王子ことロットワイラーは帰っていった。
次の日、やってきたロットワイラーは
「猫の図鑑をうつしたやつを見せろ」
と、宣った。
刺繍よりはましか、と、紙束を応接室のソファに座るロットワイラーに持ってきた。
じっくりと見るロットワイラー。
ちょっと恥ずかしい。人に見せたことはないのだ。
「全種類はないのか…」
「誰かが返せと言ったからね」
「そうだった…なぁ…これからは、2人で猫図鑑を見ようか」
私の隣に座り、手を腰に回してくる。
「お触りは禁止です」
「何で?」
「シャー!」
威嚇すると、ロットワイラーは降参するかのように両手を上げた。
「分かったよ。子猫ちゃんは、警戒心が強いな」
「子猫だもの」
「ふっ…」
しばらく、2人で笑いあった。
その後、腹黒王子ことエアデールは王位継承権を剥奪され、キャバリアの実家の男爵家に婿入り。
第二王子が立太子して、王太子になった。
第二王子は、エアデールが遊びほうけている時も、公務をこなし、学園の成績もよく、温和な性格で、生徒からの人気もあった。
なので、ほとんどの貴族が、第二王子を推したので、立太子が決まった。
婚約者だが、エアデールの婚約者候補を、そのまま婚約者候補にする予定だった。
第二王子の立太子が決まる前に、私とロットワイラーの婚約を発表したので、私は候補には入らなかった。
ロットワイラーは、ホッと胸を撫で下ろした。
「この国にいるのもあと1年だし、楽しもうな」
ロットワイラーは、私の腰に手を回す。
「シャー!」
その度に威嚇するが、全然懲りない。
「甘えて来るのが楽しみだなぁ」
こういうのも、悪くないと思ってしまう、今日この頃であった。
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