誰よりも花が似合う君へ
教室の扉を開ける。
赤みを帯びた日の光が、ガラスをすり抜けて窓際の椅子を緋色に染め上げた。
「まーくん、待たせてごめん。やーっと委員会終わったよ。一緒に帰ろ。」
光の元を目で追う甘栗色の髪をした彼に、私は話しかける。
まーくんは私を振り返るなり、私を睨みつけ激しく横に首を振った。
『絶対に断る』
そう言いたげだった。
「酷いよ。私が委員会に呼び出されてから、どれだけまーくんに会いたかったと思ってるの。私の気持ちは、どうでもいいの!?」
私に詰め寄られた彼は気まずそうに後ずさる。
「ねえ!聞いてる!?なんで、私の言う事いつも聞いてくれないの。なんでこないだバレンタインのチョコ、受け取ってくれなかったの。そんなに、私のこと嫌いなの......?」
まーくんは罪悪感からか顔を曇らせながらも、頑として譲ろうとしなかった。
「なんでいつも私の邪魔するの。どうせそっちに行かせてくれないなら、私になんて会いに来ないでよ!
その顔を、見せないでよ.......」
遂に耐えられなくなった私は、駆け足で教室を飛び出す。
目から溢れた不純物が、私の頬を濡らして光った。
まーくん、改め誠は目を伏せたまま、自らの机の上に置かれた切り花を撫でようとする。
が、半透明に透けた誠の指は花びらを貫通し空を切った。
私は家への帰り道を無我夢中で走りながら幼なじみを思った。
ある日登校した学校では、救急車と、警察のパトカーが数台止まっていた。
『飛び降りた●●さんの知り合いの方はいらっしゃいますか!?』
そんな声が、遠くの方で聞こえた気がした。
私は理由もわからず、見つかるはずのない幼なじみを探す。結局、彼を見つけたのは仏花に囲まれた箱の中だった。
脳裏の記憶に私は吐き気を催しながらも、脇目も振らず手足を動かす。
『バカ、バカ、バカ』
と胸の内に呟いて。
ふと、私の目の前の十字路からトラックが飛び出してきた。
キキィーッ
私は思わず身を強張らせる。学校指定の鞄がボト、と地面に落ちた。
トラックは、私の50センチほど先で不自然なほど急にピタリと動きを止めている。
そして、トラックと私の間に立つ影。
見覚えのある甘栗色の髪が視界に入った途端、最後に残っていた一滴の雫が、ポロリと思い出したかのように溢れた。
「ほんとに、バカ。大好きくらい、いわせてよ。」
アスファルトに転がった鞄の奥では、渡せなかったチョコレートが未だ物語の千秋楽を待っている。




