♥7 みっしょん・いん・ちょこれ~と
平利 エイザは、平 メイサと名前を変え、マーレリフデ学園に転校生として潜入する。
「それじゃあ、メイサさんの席は、阿良々木さんの隣で」
「はい!」
エイザは大きく返事をし、指定された席へと歩を進める。
(お嬢様の隣……、ウマくやらないとっ!)
「よろしくいね、メイサちゃん」
阿良々木 愛彩が、隣に座るエイザに声をかける。
それだけで、エイザの心臓は跳ね上がった。
「は、はい! よろしくデス、おじょ――」
エイザは口から出かかった言葉を慌てて飲み込む。
「おじょ?」
「な、何でもないデス。これからよろしくおね――デス」
我ながらおかしな言動だと思いつつ、エイザは何とか言葉をつなぐ。
愛彩はそんなエイザを見て、優しく微笑んだ。
「メイサちゃんって、ハーフ? 日本語、上手だけど面白いね」
エイザの胸の高鳴りが、最高潮に達する。
(はわわぁ。お嬢様! とーっても可愛いデス~)
「ほら、メイサさん。愛彩さんも。ホームルームは終わっていませんよ」
担任教師の一喝で、エイザはそそくさと席に着く。
「――仲良くしてね、メイサちゃん」
すぐ隣で、囁くように言う愛彩の言葉に、エイザは内心で恍惚の表情を浮かべる。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥
エイザの転校初日は、実に慌ただしいものとなった。
休み時間の度に、エイザの周りにちょっとした人だかりができる。
内部進学組が多い中で、外部からの、それも美少女が転校してくるというのは、かなりの話題性を持っていた。
「メイサさんって、生まれはどちらですの?」
「日本生まれだけど、パパはポルトガル人デス」
「お好きな食べ物は?」
「お野菜が好きなので、ミネストローネとか」
エイザは、クラスメイトからの度重なる質問攻めに、用意していた嘘八百で対抗する。
そんなこんなで、あっという間に時計は午後三時を指していた。
(うぅ~。結局、朝の時間以来、まともにお嬢様とお話できていません~)
授業を聞きながら、エイザは横目で愛彩の様子をうかがう。
時折、窓の外を見て、小さくため息をつく場面が見られた。
愛彩の手元には、小さく折りたたまれた創設祭のパンフレットが置かれている。
そこには、酒々井と獅子堂の二人が、大きくプリントされていた。
エイザは、ポケットに隠した通信機を一定のリズムでタップする。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥
「……む。エイザから通信。……モールス信号で」
屋敷にいる佐繰 唯優は片耳にヘッドフォンを押し当てる。
その後ろで、小伏 天音と戦場 來夢が聞き耳を立てていた。
『……お嬢様、窓の外を眺めて……小さいため息』
唯優がゆっくりと、送られてきた信号を解読する。
「お嬢様。お腹が空いておられるとのか……」
「いやいや、來夢。これは恋のため息ってやつですよ」
現実逃避を阻止された來夢は、天音を涙目で睨みつける。
「難しい子ねぇ」
「……來夢……かわいそうな子……自分で自分を痛めつけて……」
自分に向けられた憐みの視線を、來夢は両手を振って振り払う。
「やめろ。そんな目で見るな。ちゃんと仕事してるだろう!」
「……來夢のは……仕事に逃げてる……って言う」
キッ、と來夢は横やりを入れる唯優を睨む。
「うるさいぞ、唯優! 次はエイザに、二人のターゲットとお嬢様を近づけるよう、伝えてくれ」
「……りょーかい」
唯優はエイザが持つ通信機のバイブレーションを使って信号を返す。
よし、と唯優はヘッドフォンを机に置いた。
「ん? またモールス信号がきてるわよ?」
「……大したこと……じゃない」
天音の指摘を、唯優は軽く受け流す。
『唯優ちゃん! 助けて! ホーテーシキって全然わっかんないんだケドぉ~!』
授業が終わるまで、モールス信号が鳴りやむことはなかった。
♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥
「メイサちゃんって、部活動はもう決めた?」
「――え?」
数字の海に撃沈し、机に突っ伏すエイザへ、愛彩が声をかけてきた。
「えーっと、演劇部にしようカナって――」
「うそ! 私と一緒だね!」
愛彩は飛び上がらんとする勢いで喜ぶ。
その様子を、エイザは愛おしく眺めた。
「おうおう~。楽しそーだね、お二人さん」
「菖蒲! メイサちゃん、演劇部に入るって!」
後ろから現れたクラスメイトをエイザは観察する。
(――武器の所持は無し……。お嬢様への敵意も無し……)
「なんだよ~。新聞部に勧誘しようと思ってたのに~」
菖蒲はエイザに視線を移す。
「ゴメンナサイ。菖蒲さん」
「菖蒲。呼び捨てでいいよ。メイサちゃん」
そう言って、菖蒲は右手を差し出してきた。
それに反応し、エイザは重心を前へ傾ける。
放たれる攻撃に、カウンターを与えられる体勢へ。
「――ん? 握手しよ、握手」
「え? あぁ、握手デスか……」
敵意や殺意の無さをこっそりと確認し、エイザも右手を差し出した。
「あ。ずるーい! 私とも握手しよ、メイサちゃん」
そう言って、愛彩も右手を差し出す。
(お、お嬢様と……握手! こ、これが、ヤクトクってやつデスか――!)
エイザは愛彩の右手を二秒間、堪能した。
「ねぇ、メイサちゃん。もしよかったら、今日、部活に来ない? 酒々井部長にも紹介したいし」
「え? 行きたいデス! ――委員会は、いつありますか?」
予想外の質問だったのか、愛彩も菖蒲も一瞬キョトンとした表情を浮かべる。
「委員会?」
「あ、突然スミマセン。風紀委員会に入るので……」
その言葉に、愛彩は目を丸くする。
「うそ! 私と一緒じゃん! 実は、それも今日あるんだ。部活の後で」
「じゃあ、今日からお邪魔します」
そんな話をしていると、最後の授業のチャイムが鳴る。
(放課後は、ターゲット二人とお嬢様が会う……。ちゃんと観察するデス!)
思わず口元が緩むエイザの通信機から、バイブレーションでメッセージが届く。
『――作戦の健闘を祈る。その右手は、洗わず、使わず屋敷へ戻ってくること!』
(來夢ちゃん……。必死すぎデス……)




