♥6 みっしょん・いん・ちょこれ~と
小伏 天音の潜入調査から帰還したのち、メイドたちは再び円卓に集う。
「さて――、それでは情報を基に、お嬢様の恋をどう成就させるか考えましょう」
戦場 來夢が大理石に映された二人の男子生徒の前で進行を始めた。
「來夢ちゃん。結局、どちらがお嬢様の本命なのデス~?」
平利 エイザが手を上げて質問する。
「……確かに、盗撮と盗聴だけでは……分からない」
エイザの隣で、佐繰 唯優は大きく首を縦に振った。
「その辺は、どうなんだ天音」
天音は人差し指を顎に当てて考える仕草をする。
「――わからないわねぇ。來夢、聞いてきてよ」
天音の切り返しに、うっ、と來夢は半歩退く。
「……確かに……直接聞くのが……早道」
「來夢ちゃん! もうヤるしかないデス!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、お前ら」
來夢は、自分に向けられた弾幕射撃を、一旦抑えつける。
「お、お嬢様は、社内で天音に自身の恋心を隠してたんだぞ。そんなのズケズケと聞いたら……」
「――お嬢様に嫌われちゃう、って?」
天音が継いだ言葉に、來夢は小さくコクリと頷く。
「……多分、來夢は……嫌われる方が……一大事」
「気持ちは分かるデスが、私情はちょっと……」
「う、うるさい! とにかく、直接聞くのはお嬢様発信じゃなきゃNG!」
バンッ、と來夢は大理石のスクリーンを強く叩く。
手を離した跡には、一枚の紙が貼られていた。
「ということで、次の作戦は――これよ!」
「……マーレリフデ学園……創設祭」
「來夢ちゃん。これが、何だって言うのデス?」
一同は紙面の内容と來夢を交互に見る。
「お嬢様には、この創設祭でお相手に告白してもらいます」
來夢の一言は、その場にいる者全員の顔を、驚愕に染めた。
「ちょ、ちょっと待って、來夢。創設祭って、確か二週間後よ」
「だからなんだ。私たちに時間的な束縛は関係ない」
「……具体的な作戦を……聞きたい」
唯優の発言に、來夢はニヤリと口角を上げる。
「まずは、お嬢様と、二人との距離をグッと近づけます。本命探りと関係値アップの一石二鳥です」
「どーやって、お嬢様と二人を近づけるのデス?」
キョトン、とした顔のエイザへ、來夢はビシッと人差し指を向ける。
「頼んだわよ! エイザ!」
「わ、ワタシですか~!?」
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マーレリフデ学園中等部。
最高級の木材で仕立てられた机は、一人一人の体形や好みに合わせた特注製だ。
一教室二十人の生徒数の割に、教室の規模は大きい。
生徒一人につき、一人の使用人がつくことを許可されているためだ。
「――はぁ~」
そんな教室の窓際で、阿良々木 愛彩は青空を見ながらため息をつく。
「おやおや? 高嶺の花から香しい気配が――恋かな? 恋かな?」
怪しげな文言を吐きながら、愛彩の机の前に陣取る女生徒が一人。
「菖蒲ちゃん。そこ邪魔~。それに何よ、恋かな? って」
大垣 菖蒲は、スっ、と身をかがめて、顔だけを机の上に出す格好となる。
「大財閥、阿良々木家のご令嬢から、何やら甘い気配を感じましたので~」
「そ、そんなんじゃない……から」
愛彩は頬を赤らめて、菖蒲から目を反らす。
「相変わらず、素直な反応でとっても可愛い~。で、恋のお相手はどなた?」
「だ、だから! そんな人いないって!」
「またまたぁ~。じゃあ、勝手に考えちゃいます」
菖蒲は、スクッと立ち上がると、窓枠に背中を預けるように立つ。
「愛彩ちゃんは、演劇部に所属してたよね?」
「――そうだけど」
「じゃあ、酒々井先輩じゃないですか? 優しいし、お顔立ちも端正で魅力的」
「し、酒々井先輩なんて、そんな――」
「でも、愛彩ちゃん、酒々井先輩と話すとき、顔真っ赤にして話すよね」
ギクッ、と愛彩は衝動的に顔を伏せる。
「あ、あれは、酒々井先輩と話すのに緊張するだけで……」
「えー。だって、獅子堂先輩と話すときと、全然違うよ?」
「――獅子堂先輩は、気さくに話しかけてくれるから……」
「意外だよね~。勝ち気で活発な獅子堂先輩と、大人しめで女子としか関わらない愛彩ちゃんの組み合わせ」
そんなに珍しいだろうか、と愛彩は顔を上げて菖蒲を見上げる。
「同じ風紀委員会の子も噂してたよ。獅子堂先輩と愛彩ちゃん、委員会でいい感じ~って」
「そんな噂が立ってんの? ウチの委員会」
「恋愛なんて、この退屈で単調な学園生活で、一番おいしい話題の種ですもん」
結局、他愛もない話を積みながら、菖蒲は自分の席へ戻る。
愛彩は窓の外を見ながら、朝のホームルームが始まるのを待つ。
(退屈で単調……。まぁ、そうだよね。私も、好きな人ができるまでは――)
愛彩は胸の奥に、さわさわと動くものを感じる。
サー、と教室の扉が静かに横滑りし、担任教師が入ってきた。
「えー。それではこれよりホームルームを始めますが――」
担任は一拍おいて、教室内を見渡す。
「今日から、転校生が一人加わる。だから、大野、お前の席は今日からそっちだ」
「なんで!?」
大野と呼ばれた少年は、いそいそと荷物を纏め、愛彩の隣から、最後尾の席に移っていった。
「うむ。素直でよろしい。では、転校生を紹介するぞ、入って」
クラス中の視線が入り口に集まる。
入ってきた転校生を、愛彩も興味深げに目で追った。
(女の子か。黒髪が綺麗だな。小柄でカワイイ……)
失礼にならない程度で愛彩が観察していた女子生徒は、担任の横に立つ。
「は、ハジメマシテ! 平 メイサです! よ、ヨロシクオネガイシマス!」
天音の手を借りて完璧に変装したエイザの挨拶が、教室に響いた。




