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♥4 みっしょん・いん・ちょこれ~と

 小伏こふく 天音あまねは警備員に扮して、マーレリフデ学園内を歩く。


 「さて、お目当ての殿方は――」


 怪しまれない程度に目線を動かしながら、天音は二人の男子生徒の影を探していた。


 「おいおい。さっさと歩けよウスノロ~」


 唐突に天音の耳に飛び込んできた声の方向に、彼女は目を向ける。


 校舎の脇に、ちょうど正面からは死角になる空間があった。


 天音は気配を消しながらさりげなく、その空間に近づき、奥を覗き見る。


 一人の男子生徒が太ももの辺りを押さえながら蹲っていた。


 それを見下ろして下品な笑みを浮かべる男子生徒が二人。


 「ぎゃはは!こいつ、ちょっと蹴っただけで蹲っちまった」


 「まったく、おめぇは家も弱けりゃ根性も弱ぇな!」


 天音に背を向けて蹲る生徒の表情は見えない。


 しかし、その肩は小刻みに震えていた。

 

 (――家柄を笠に着た弱い者いじめですか……。珍しくはないかもですが、流石にやりすぎですね~)


 天音は自分が守衛の姿であることを思い出す。


 (しょうがない。ちょっとはお仕事してあげますか)


 「ちょっと、君た――」


 「おめぇら、そこで何してんの?」


 天音の声に被せるように、頭上から声が降ってきた。


 いじめていた男子生徒2名が顔を上げる。


 天音も視線を上げ、声の主を探した。


 (あの方――)


 天音扮する守衛のオジサンに気が付くことなく、目の前で少年たちの会話は続く。


 「おいおい。黙ってねぇで、答えてくれよ。何してんだっつってんだろ?」


 「お、お前には関係ないだろ!」


 「そーだそーだ。だ、黙ってろよ、獅子堂!」


 天音は、上着の第二ボタンに手を持っていく。


 最小限の動きで、仕込んだカメラを連射した。


 (やっぱり。獅子堂ししどう あきら君。ホログラムより少し背が高いかな……。


 でも、これは、見分チャンスだわ~)

 

 天音は身を校舎側に寄せて身を隠す。



 天音がカメラの位置を調整しようと、目を離したのは一瞬。


 ガンッ、と目の前で聞こえた音に顔を上げると、獅子堂は二人の男子生徒の前に仁王立ちしていた。


 (――え? どうして……。まさか、飛び降りてきたの? 2階から!?)


 マーレリフデ学園の外壁は厚く、高い。


 2階と言っても、一般的なビルの3階程度の高さだ。


 そこから飛び降り、涼しい横顔を見せる獅子堂に、二人の男子生徒は驚愕の表情を見せる。


 「おめぇら――」


 完全に場の空気は獅子堂が支配していた。


 口をはさむ勇気が出ないのか、獅子堂に睨まれている男子生徒は口をパクパクさせるばかり。


 「そっちのお前は三田物産の奴で、おめぇは堂島運輸だろ」


 図星を突かれたのか、男子生徒の動きが固まる。


 「お前ら、獅子堂グループの傘下企業だよな? 獅子堂に泥を塗るたぁ、いい度胸だ」


 「そ、そんなんじゃねぇよ」


 「結果、そうなるっつってんだろ。馬鹿かテメェ」


 決死の反抗もむなしく、獅子堂に一蹴される。


 「――俺の前から消えろテメェら。不愉快だぜ」


 一歩、二歩、と男子生徒らは獅子堂 彰から遠ざかる。


 獅子堂が睨みつけると、彼らは一目散にその場から逃げていった。


 「――ったく。おい、お前、大丈夫か」


 獅子堂は蹲る少年に声をかけ、その肩に手をかける。


 「あ、ありがとう……ございます。し、獅子堂グループの方に、とんだご迷惑を……」


 「ん? あー、気にすんな。家とか全然気にしてねぇし。あいつらが気に入らなかっただけだから」


 「でも、やっぱり僕、弱いから……」


 「あ? 弱いって、何よ」


 獅子堂が心底分からないといった表情で蹲る少年を見る。


 「……僕、体もヘナヘナだし、勉強も真ん中くらいだし、家もパッとしないんだ」


 「だから、自分が弱ぇって? いじめられても仕方ねぇ、て?」


 獅子堂の追及に、少年はコクリ、と頷く。


 ガシッ、と獅子堂はその少年と乱暴に肩を組んだ。


 「テメェはマヌケかよ。いや、マヌケを通り越して、あれだ……あー」


 何かを探すように、視線を宙に泳がせた獅子堂は、次の瞬間には少年を間近で見つめる。


 「とにかく! 体が弱ければ鍛えればいいし、勉強なら、すればいい」


 それに――、と獅子堂はここ一番に胸を張る。


 「家なんてぇのは、何の言い訳にもならねぇ」


 獅子堂の迫力に押され、少年は息をのむことしかできない。


 ドン、と少年の胸に獅子堂の拳が強く当てられた。


 「結局、やるかやらないか。根性あるかないか。それだけなんじゃねぇの?」


 少年は、力強く立ち上がる。


 「獅子堂先輩! 僕、頑張ります!」


 「おう、その意気だぜ、――ええっと……」


 「あ、僕、一年の竜ケりゅうがさきです」


 「竜ケ崎って、もしかして、最近、半導体事業に手ぇ出してる……」


 「あ、はい。そうです。竜ケ崎科研です」


 獅子堂は唐突に、竜ケ崎の手を両手で握る。


 「おいおいおい! マジかよ、超奇遇じゃん。ウチの爺ちゃんが半導体会社を欲しがってるんだ! お前の家、推薦していいかな?」


 「え? う、うちで良ければ、ぜひ――」


 「よし! じゃあ決まりだ! さっそく連絡してくるわ。オメェも授業遅れんなよ!」


 そう言って、獅子堂はものすごい速さで走り去った。


 残された竜ケ崎は、その背に小さく手を振るだけ。


 (ふぅ~ん)


 天音はカメラの電源を切る。


 天音と同じ光景を見ていた戦場いくさば 來夢らいむへ通信をつないだ。


 「來夢。どう、あの子。獅子堂君」


 『――まだわからない。お嬢様の恋愛対象として最低限のラインはギリギリで、クリアしている……ギリギリ』


 歯切れが悪い來夢の応答に、天音は笑いを堪えながら言う。


 「來夢。あなたがいくらお嬢様が好きだからって、評価を捻じ曲げるのはダメよ?」


 『ん! わ、わかっている! 何を言って――』


 プツン、と天音は一方的に通信を切る。


 (さぁて、次の子はどこかしら……)


 図らずも、実り多い場面に出くわせたその足取りは、軽い。


 この日から数日間、学園内はスキップする中年守衛の噂で持ちきりになった――。

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