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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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14/16

♥14 みっしょん・いん・ちょこれ~と

 時折頬を撫でる寒風とは裏腹に、雲一つない空が地平の彼方まで続いていく。


 マーレリフデ学園の創設祭当日。


 自室で阿良々あららぎ 愛彩めいはぐったりと机に突っ伏していた。


 「お嬢様、そろそろお支度を始めませんと……」


 「うぅ……自信ない。自信ないよぉ~」


 後ろで控える戦場いくさば 來夢らいむの声を聞き流し、愛彩は一人うわごとの様に同じ言葉を繰り返す。


 「お、お嬢様。今日までしっかりレッスンを積んだんですから、きっと大丈夫ですよ~」


 來夢の隣で、小伏こふく 天音あまねが冷や汗を流しながら必死に励ました。


 『一体、そういうレッスンを積んだんだ』


 『うぅ……完璧を求めすぎましてぇ』


 視線と唇の動きで非難をする來夢に、天音は申し訳なさそうに肩を落とす。


 壮絶を極めた天音の指導の末、愛彩の演技力は格段に向上した。


 一番の盛り上がりになる決闘シーンにも、確実に存在感と爪痕を残すと言い切れるほどだ。


 そう、決闘シーンだけは、完璧なのである。


 「あぁ~。台本全然覚えてないし……。舞踏会……まぁ、踊りなら問題ないけど、でもぉ~」


 『なんとかしろ、天音。時間が無いぞ』


 『もう、最後の手段を取ります……』


 天音は、スカートに忍ばせた通信機をリズムよく叩く。


 直後、愛彩の携帯から着信音が鳴った。

 

 愛彩は、送られてきたメッセージを開く。


 【やっほ~。愛彩ちゃん! 今日は創設祭だね! 演劇、絶対に成功させよう! じゃあ、また学校で。――メイサ】


 「メイサちゃん。……そうだよね、うん! もうなるようにしかならないし!」


 愛彩は机から立ち上がり、登校の準備を始める。


 『どうなら、上手くいったようです』


 『ふん。エイザの潜入も、役に立つじゃないか』


 『まだ、嫉妬しているんですか?』


 『当たり前だ!』


 愛彩の準備を手伝いながら、來夢をからかって天音は笑った。


 「あ、そう言えばお嬢様」


 「ん? なぁに、天音」


 「本日の夜、強めの雨が降るそうですよ。すぐに止むそうですが……」


 「え~。後夜祭、大丈夫かなぁ」


 「念のため、温かいお召し物も持って行った方がいいかもしれませんね」


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥


 晴天に創設祭の開始を告げる花火が舞う。


 「……毎度思うんだけど、この花火ってなんで昼間なのに綺麗に見えるんだろう」


 「なんか、特殊技術らしいよ。ウチの保護者の会社からの寄付だって」


 鮮やかな色彩の下で、愛彩と友人の大垣おおがき 菖蒲あやめが会話しているところへ、左右から近づく影が二つ。


 「あ、いたいた。愛彩ちゃん! そろそろ舞台はじまるよ~」


 たいら メイサは大きく手を振りながら愛彩の元に駆け寄る。

 

 舞台設営を手伝え、と無理やり愛彩から引き離されたことへの憎悪など、微塵も感じさせない完璧な笑みを携えながら。

 

 「……はぁ、いよいよかぁ」


 その笑みとは対照的に、愛彩の表情は曇る。

 

 「なに~。緊張してんのアンタ。大丈夫だって、愛彩は私が、新聞部の誇りに懸けてバチッと可愛く撮るからさ! 次号の一面はアンタで決まりよ」


 「いや、そんなの求めてない……」


 「いいですね! その新聞、百部ください!」


 「お、メイサ乗り気じゃん。いいよ。オマケでオフショットも付ける。有料だけどね」


 「むふぅ。商売上手デスね。――二百万までなら即決しましょう」


 「ふふふ。これは、腕が鳴るねぇ」


 白熱する菖蒲とメイサの会話に、愛彩の抗議はかき消された。


 「――おや? まだこんなところに……。愛彩さん。そろそろ始まるよ」


 「あ、酒々井先輩。すみません。今行きます……」


 そう言った愛彩の顔を、酒々しすい 幸一こういちはマジマジと覗き込む。


 「な、なんですか……」


 「緊張してるねぇ。愛彩さん」


 近づけていた顔を離し、幸一は愛彩と向き合う。


 「たしかに、急な抜擢だったし、自信なんてなくて当たり前だと思う」


 真剣な眼差しを愛彩に向けながら、幸一は言葉を紡ぐ。


 「だけど僕は、この役は君にふさわしいものだと思っている。快活で、自由な君の魅力がよく表れると思う」


 それに、と幸一は優しく微笑む。


 「何かあっても、僕が完璧にフォローするから安心して。――いっそ、セリフ全部忘れても大丈夫だよ?」

 

 「そ、そんなことありません! ちゃんと覚えましたし!」


 必死に否定する愛彩の様子を見て、幸一は笑みを一層深くした。


 「そうだよね! 練習でたくさん見たから知ってる。――じゃあ、行こうか」


 自然と差し出された手を、愛彩は無意識に取る。


 幸一に手を引かれながら、愛彩は群衆の向こうへ消えていった。


 「うーん。演劇部の貴公子と可愛い系一年生のラブロマンス……売れるかな」


 「――まだ、そのネタはオフレコでお願いしマス……」


 演劇の舞台が、幕を開ける――。

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