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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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♥11 みっしょん・いん・ちょこれ~と

 2月7日。


 平利ひょうり エイザがマーレリフデ学園中等部に潜入を始めて、最初の週末。


 広く長い阿良々あららぎ家の廊下には、朝露を照らす陽光が差し込む。


 広大な阿良々木邸の3階。


 中央に深い茶色の扉の前に二人のメイドが立っていた。


 トントントン。


 戦場いくさば 來夢らいむがゆっくりと、丁寧な仕草で三度、その扉を叩く。


 「――? はーい」


 「お嬢様。実は、折り入ってご相談がございまして……」


 室内から聞こえた阿良々あららぎ 愛彩めいの声を聞き、來夢は恭しく言葉を紡ぐ。


 「――。相談? まぁ、いいけど、入っていいよ」


 「はい。失礼いたします」


 來夢は生体認証や三種類の鍵を駆使して、扉のロックを外すと、同行していた佐繰さぐり 唯優いゆと共に中へと入る。


 「あれ? 唯優。珍しいね」


 「……お嬢様……本日もご機嫌麗しゅう……」


 「あー。そう畏まらないで。私まで緊張しちゃう」


 「……すみません」


 「あ、いいの。悪い意味じゃないから! 誤解させたならごめんね。……それで、來夢。相談って?」


 愛彩は場の空気が止まる前に、來夢へ話を振った。


 コホン、と來夢は小さく咳ばらいをすると、眼鏡を上げながらまっすぐに愛彩を見る。


 「時に、お嬢様。演劇の練習は順調でいらっしゃいますか?」


 ギクッ、と愛彩の表情が強張った。

 

 「あ、ああ……、演劇ね。も、もちろん!なんの問題もないわ!」


 クルリ、と椅子を回転させ、愛彩はゴソゴソと学園カバンを漁る。


 愛彩の背中越しで、來夢と唯優は、唇の動きだけで会話を始めた。


 「――だから、私だけで良いと言ったのです! お嬢様に気を遣わせて……」


 「……來夢だけに、任せられない。靴下の件……罪深い」


 唯優はおもむろに額に掛けたゴーグルを下げる。


 「何を、しているの?」


 「……ん。動作確認。……お嬢様が触った場所が……赤く見えるレンズ」


 「…………一応確認するけど、何のため?」


 「……念のため」


 正常に動作したのか、唯優は特にリアクションすることなくゴーグルを額に戻す。


 絶対役に立たないだろ、と來夢が呆れて唯優を眺めている間に、愛彩が再び二人と向き合う。


 その手には、色とりどりの付箋がびっしりと貼られた、演劇の台本が握られていた。


 「ふむ。『宵闇が消えるまで』……ですか。一体どんなお話で?」


 台本の隅から隅までを完全に頭に入れている來夢が、とぼけた様子で愛彩に尋ねる。


 「すごくザックリ言うね。月を見ると悪魔になっちゃう王女様を巡って、隣国の王子と王女の婚約者が争う話」


 「なるほど、月が見えない間だけ会える、で『宵闇が消えるまで』ですか」


 「そう! さすが來夢は頭いいね!」


 「それほどでも~」


 態度は粛々としつつも、來夢の声は愛彩からの手放しの賞賛で、多少声が上擦っていた。


 「……カンニング」


 「ん? 何か言った? 唯優」


 「……いいえ。……何も言って……ません」


 來夢と唯優の視線が、二人の間の空間で、一瞬だけ交差する。


 その僅かな変化に気づくことなく、愛彩は台本に貼られた付箋を指でなぞった。


 「でも、こんなにセリフ、覚えられないよぉ……」


 「いきなり長尺舞台のヒロイン役ですからね。心中、お察しします。そこで――」


 バサッ、と來夢は分厚い紙の束を愛彩に差し出す。


 「これから本番までの一週間。特訓をしましょう!――講師は、小伏こふく 天音あまねに任せます」


 「へぇ~、天音って、演技できるんだ」


 「……本人曰く……人より少しは……こだわりがある……だそうです」


 ふーん、と気が抜けた相槌を打ちながら、愛彩はパラパラと紙をめくる。


 「うん。これなら、ちょっと頑張ればできそう! ありがとうね、來夢」


 「いえ、こちらは我々四人のお嬢様専属メイドで、協力して作成いたしました」


 「……皆で作りました……頑張りました」


 「うんうん! ここにいない二人にも伝えて!」


 満足げに頷きながら、愛彩は語気を強めて言う。

 

 絶対に忘れてくれるな、という意思を、來夢と唯優は感じ取った。


 「かしこまりました」


 「……承った」


 その言葉に、愛彩は大きく頷くと、手元の紙束を今度はゆっくりと読み始めた。


 「――あのー。お嬢様。実は、もう一つございまして」


 「へ? もう一つって、何かあるっけ」


 目を丸くする愛彩に、唯優は静かに提案する。


 「……お嬢様。……チョコ……作りましょう」


 「チョコ? ――なんで?」


 「バレンタインですよ、お嬢様」


 バレンタインという言葉に反応してか、愛彩の顔が耳まで赤く染まる。


 椅子ごと180度回転し、愛彩は再び來夢らに背を向けた。


 「バ、バレンタインだなんて! そんな、私……好きな人……いないし」


 (バレバレでも必死に隠す感じ、可愛らしいです、お嬢様)


 (……お嬢様……分かりやすい……可愛い)


 愛彩の背中にニヤニヤと粘り気のある視線を、二人は向ける。


 一つ咳ばらいをし、來夢が口を開いた。


 「お嬢様。バレンタイン、創設祭の時に、ご学友へお渡しするチョコを作られてはいかがでしょう?」


 「ん? ご学友?」


 再び椅子が回される。


 大きく見開かれた愛彩の顔が、二人のメイドを交互に見つめる。


 「つまり、“友チョコ”を作ろうっこと?」


 「その通りです!」


 來夢は大げさなリアクションで、話の主導権を握る。


 「ご学友へのささやかな贈り物。きっとお嬢様の学園生活を華やかにしてくれます」


 「そ、そうかなぁ~?」


 「……きっと、……みんな、喜ぶ」


 「そっか――そうだよね!」


 愛彩は何度も大きく首を縦に振った。


 「それじゃあ、來夢。私と作りましょ?」


 二つ返事で了解しようとした來夢の横で、唯優は鋭く圧を出した。


 声を発さず、唇さえも使わず、しかし唯優は雄弁に語る。


 ――一人で行こうとするな、と。

 

 「――畏まりました。それでは、私と唯優でお嬢様のお手伝い、させていただきます」


 「うん。よろしくね!」


 「では、午後三時にまた、こちらへ伺います」


 ガチャリ。


 愛彩の部屋を出て、來夢と唯優は横並びで廊下を進む。


 「とりあえず、お嬢様の演劇練習とチョコレート作戦は成功です」


 「……私は、三時までにもう一つ……終わらせておく」


 「ああ。よろしくお願いしますね、唯優」


 「……任せておけ」


 廊下の途中の階下に続く階段部分。


 來夢は二階へ降りていく唯優の背中を見送った。


 「さて――」

 

 來夢はそのまま、三階の廊下を直進する。

 

 「酒々しすい 幸一こういちと、獅子堂ししどう あきら。二人の身辺調査も問題ないといいが……」


 午後二時。


 他のメイドに混じって事務作業を行う來夢の骨伝導型通信機が、揺れた。


 この通信機は、他言無用の連絡用にしか使われない。


 声を出せない來夢は、トントン、とモールス信号で先を促す。


 『……來夢。……ちょっと悪い知らせ』


 『どうした? 機械トラブルか?』


 『そうじゃなくって……』


 通信機の向こうで、唯優が言い淀んでいるのが伝わる。


 『どうした?』


 『……男子生徒二人……多分、何か隠している……』


 『ん? どういうことだ』


 『……二人の、個人口座……最近、四千万円くらい、それぞれ動かされてた……使途不明』


 四千万。


 一か月なら百人以上を動員できる数字だ。


 『流れが分かったら、教えて』


 『……うん……わかった』


 通話が切れた後も、來夢の胸はざわついていた。


 (中学生が大金を……一体、何に使ったんだ――?)

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