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めいど・いん・みっしょん  作者: 阿月 結希


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10/16

♥10 みっしょん・いん・ちょこれ~と

 黒塗りのリムジンカーが、鉄製の巨大な門扉の前に停車する。


 「――お嬢様、ただいまお戻りです」


 「ああ。戦場いくさばさん。お疲れ様です」


 「別に、お嬢様のためのご奉仕に、秘湯など感じません。ちっとも」


 「はは。相変わらずだねぇ。今、門開けます」


 守衛の男とひとしきり会話をした戦場いくさば 來夢らいむは、再びハンドルに手を掛ける。


 ガオン、と重苦しい音が響き、門扉がゆっくりと開いていく。


 「――お嬢様。間もなくご邸宅に着きますので、身支度を整えておいてください」


 「はへ? もう……?」


 後部座席で、阿良々あららぎ 愛彩めいは眠い目をこすりながら応答する。


 大きく手を伸ばすと、背骨が小気味良く音を立てた。


 「だいぶお疲れのようですね」


 「んー。今日はいろいろあって、結構疲れたかも~」


 「それは結構なことです。あとで教えてください。その、いろいろ、を」


 そんな会話をしていると、車は屋敷の玄関前に到着した。


 來夢が車の扉を開け、愛彩はレッドカーペットの上に両足を置く。


 「おかえりなさいませ、お嬢様」


 朝の登校時と同じ、一糸乱れぬ使用人たちの一礼が、愛彩を出迎える。


 「……ねぇ。どうにかならないの、これ」


 「はて。どう、とおっしゃいますのは?」


 愛彩の呟きに、來夢は心からの疑問で返す。


 愛彩は大きくため息をつくと、もういい、と言って使用人たちが囲む赤い道を歩き始めた。


 ♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥♡♥

 

 「それでは、エイザが潜入して得た情報を基に今後の行動を決めます」


 「――! ――!」


 いつもの円卓に座る四人。


 テーブルの中央には、創設祭のパンフレットと、独自ルートで手に入れた演劇の台本がある。


 「次は創設祭でお嬢様と二人の殿方との距離を詰めてもらうのよね~」


 「……お嬢様。……とっても……緊張」


 「問題ない。今回の演劇台本は頭に入っている。演技指導のカリキュラムも完璧だ。しかし――」

 

 「――! ――!」


 來夢が言い淀んだのを見て、小伏こふく 天音あまね佐繰さぐり 唯優いゆが彼女に視線を向ける。


 「なにか、問題?」


 「……不測の事態。……対処は素早く」


 「……そうだな。これを見てくれ」


 來夢は純白の大理石でできた壁に、映像を投影する。


 大きな兎のぬいぐるみが置かれた部屋。


 愛彩の自室に置かれた隠しカメラの映像だ。


 部屋の扉が開かれ、愛彩と來夢が入出してくる。


 チラリ、と來夢がカメラへ一瞥する瞬間も、鮮明に映し出されていた。

 

 『はぁ~。あの出迎えには慣れないなぁ。学校の皆もあんな感じなのかな』


 愛彩が机の前の椅子に座ると、その横から、來夢が宿題の問題集をサッと差し出す。


 『あれは、阿良々木の影響力の象徴。そして、皆がお嬢様をお慕いしているが故のことですよ』


 『えー。ぜったい嘘。皆仕事だからでしょ』


 『いえいえ。我々とご当主様との契約内容に、あのような記載はありません。むしろ、ちゃんと仕事しろ、とたびたび叱られております』


 『……仕事しようよ』


 イジイジと、愛彩は足を動かす。


 膝丈ほどの靴下をそのまま脱ぎ、彼女はそれを床へ放り投げた。


 『お嬢様。はしたないです』


 『いや、ちょっと暑くて……』


 『仕方がないですね、こちらは天音に言ってお洗濯してもらいます』


 來夢は靴下を拾い上げると、丁寧に折りたたんで透明な袋に入れる。


 ピッと。


 映像が突然止まった。


 「――? 何かしましたか、唯優」


 來夢が背中越しに目線だけを唯優へと向ける。


 「……來夢。……靴下……どうした」


 「どうって。ちゃんとお洗濯したわよ、ね? 天音」


 天音は大仰に頷いたのち、静かに口を開く。

 

 「うふふ~。來夢。嘘はよくないわ~」


 「――! ――!」


 天音がデバイスを操作する。


 画面が切り替わり、洗濯された愛彩の衣類が綺麗に並べられた画像が映る。


 「……なんだ、これは」


 「うふふ~。私が今日お洗濯したお嬢様の衣類よ。この係りの度にこっそり撮ってあるの」


 「……天音。……キモチワルイ」


 「――! ――!」


 「四六時中、お嬢様を盗撮盗聴している唯優には言われたくないわ~」


 「……あれは……お嬢様の成長記録……大人になったら感謝される」


 「いや、人間不信になるでしょ~」


 ススッと、天音は画像の靴下を拡大する。


 「この靴下、兎のワンポイントがあしらわれているわ。お嬢様らしくて可愛い」


 「……ん」


 何かを察したように、唯優がカメラ映像の靴下を拡大する。


 「……これは、ネコ……來夢……すり替えた?」

 

 二人に背を向ける來夢はその顔を振り向かせることができない。


 冷静な追及に、冷や汗をダラダラと流し続けている。


 プハッ、と猿轡を外せた平利ひょうり エイザが息も絶え絶えに叫ぶ。


 「そんなことより! 早く続き見せるデス! あと、この鎖解いて!」


 三人の視線が、椅子に縛り付けられたエイザへと集まる。


 「お嬢様の靴下を、“そんなこと”ねぇ~」

 

 「おやおや。お嬢様と握手や頭ナデナデしたエイザさんは言うことが違うな」


 「……一歩……リードした……つもり?」


 「あー! もう!」


 エイザが机に突っ伏した拍子に、再生ボタンが押されたらしい。


 映像は、続きからではなく、少し飛んだところから再生された。


 來夢が部屋から消え、愛彩だけが机に肘を置き、宙を見ている。


 『はぁ~』


 深いため息が虚空へと霧散していく。


 『――創設祭で、チョコ、渡したいなぁ……』


 ガバッと、メイド四人の目がテーブル中央の創設祭パンフレットに向けられる。


 ――2月14日。


 「お嬢様、もう、そんなことまで……」


 「……私たち……お嬢様を……見くびっていた」


 「大胆デス。お嬢さま」


 「うふふ~。これは――」


 四人の視線が空中で交差する。


 「――決まったな」


 來夢が立ち上がり、高らかに声を上げる。


 「創設祭と、お嬢様の愛の告白! 二つ纏めて大成功させるぞ」


 おー、と右拳を突き上げるメイドたち。


 エイザが引きちぎった鎖を破片が、鮮やかに宙を舞った。

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